第35話 秘密の共有
その日から、私たちの「共同研究」は、誰にも言えない秘密の、しかし濃密な日常へと変わっていった。怜は毎日のように私に会いに来る。それは高校時代のように、ただ机を並べて宿題をするためではない。彼女は私という名の、未知の快楽を解き明かす唯一の鍵を求めて、私の部屋のドアを叩いたのだ。
私が与える、言葉と愛撫の複合的な刺激。それは怜の身体を、そしてその精神を、徐々に、しかし確実に「調整」していった。強い刺激に慣れていた怜の身体は、私の、優しい、しかし的確な指先の愛撫に、激しい反応を示すようになった。まるで飼いならされた獣のように、私の指先が、彼女の身体の最も敏感な場所をかすめるだけで、怜の身体はびくりと震え、熱い吐息を漏らすようになった。その純粋な身体の反応が、私を言いようのない征服感で満たしていった。
怜は、その非論理的な変化を、必死に分析しようとした。彼女は実験ノートと称して、私の愛撫のパターン、その時の自分の身体の反応、そして精神的な変化を、詳細に、客観的に記録し始めた。
「月乃の指が耳朶に触れた時、心拍数が一分間に八十から百二十に上昇した。これは、交感神経が優位になった、明白なサインだ」
そんなことを、真剣な顔で報告してくる怜の姿は、ひどく滑稽で、同時に私にはたまらなく愛おしかった。その、どこまでも科学的であろうとする彼女の姿は、同時に彼女が、快感という非論理的な、抗いがたい力に、いかに無防備であるかを物語っていたからだ。
私はその怜の分析を静かに聞きながら、新しい、そしてより深く、より完璧な、実験のシナリオを練り上げていた。あのAVの男たちが、決して踏み込むことのできなかった、怜の身体の最も深い場所。そして怜自身も、まだ知ることがない快楽の、その奥にある未知の領域。そこを、私の手で解き放つ。
私たちの関係は、完全に二人だけの、閉じた世界を形成していた。誰もその秘密を知ることはない。怜は私の前でだけ、その完璧な仮面を剥がし、ありのままの欲望と快感に身を委ねる。私は怜の身体の全てを知り尽くし、怜は私なしでは、快感を得られない身体へと「調整」されていく。それは支配と依存の、甘美で、そして恐ろしい、共依存の関係だった。
ある夜、私が怜の身体に触れると、怜は実験ノートをそっと机の隅に置いた。そして私の潤んだ瞳を見つめながら、静かに囁いた。
「もう、記録しなくてもいい」
その言葉は、怜の理性という名の最後の砦が、ついに音を立てて崩れ落ちたことを意味していた。彼女はもはや快感を、分析の対象として捉えてはいなかった。それは、ただひたすらに、私が与える快感という名の、絶対的な力に、身を委ねていくことの、静かな降伏の言葉だった。
部屋に満ちる、二人の肌の匂いと、甘い吐息。それは、私たちだけが知っている、私たちの秘密の共有だった。そして私は怜のその降伏の言葉に、満足げに頷いた。
そしてその夜も、私は怜の身体に、深く、深く、私の快感を刻み込んでいった。それはもはや、科学でもなければ、実験でもない。それは、私たちの愛と、そして歪んだ執着の儀式だった。
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