第32話 快感の探求者
怜は私の膝の上でゆっくりと目を覚ました。朝の光がカーテンの隙間から細い筋となって差し込む。その光はまるで昨夜の激しい嵐を忘れさせるかのように、部屋を優しく照らしていた。だが私の心は決して穏やかではなかった。怜の身体を抱きしめたまま、私はその熱と重さを感じていた。それは私が怜のすべてを手に入れたという、甘美な証拠だった。怜の呼吸は穏やかだった。すやすやと眠るその姿はまるで罪のない子供のようだ。だが私の胸に顔を埋めている彼女の頬には、乾いた涙の跡がまだ残っている。私はそのしょっぱい痕跡に指をそっと触れた。その指先に伝わる感触が、昨夜の出来事が夢ではなかったという残酷な事実を私に突きつけてくる。
やがて怜がもぞもぞと身じろぎ、ゆっくりと瞼を開いた。その黒曜石の瞳は一瞬だけ、何が起きたのかを理解できずにぼんやりと空を彷徨っていた。そして私の顔を捉えた瞬間、その瞳に急速に戸惑いと、そしてかすかな恐怖の色が宿った。
「……月乃?」
怜の声は掠れて弱々しかった。いつもの理知的な響きはもうどこにもない。それは快感の嵐にすべてを奪われたか弱い少女の声だった。怜は、自分の身体が私の腕の中に無防備な状態で抱きしめられていることに気づいた。その熱を帯びた裸の肌。彼女の目が、ゆっくりとしかしはっきりと見開かれていく。
私はその戸惑いに満ちた瞳をまっすぐに見つめた。そしてゆっくりとその額に口づけを落とした。怜の身体が微かに強張る。
「おはよう、怜」
私の声はひどく穏やかだった。怜は混乱していた。自分の身体に起きた非論理的な、しかしあまりにも強烈な快感の記憶。そしてそれを引き起こした唯一の存在が、今自分を抱きしめている。
彼女は、まるで壊れてしまった機械を修理しようとするかのように、自分自身の身体に起きたその非日常的な変化を分析しようと試みた。だがその思考はすぐに快感の記憶に塗りつぶされていく。
私は怜の乱れた黒髪のボブを優しく撫でつけた。そしてもう一度囁く。
「これも、研究の続きだよ」
私はそう囁いた。怜の科学者としてのプライドをくすぐるように。憐は私の言葉に、一瞬だけその瞳の奥に理性の光を宿した。
「そうだ……これは……」
怜は言葉を探している。それはもはや言い訳だった。
私は怜の震える肩を優しく撫でた。そしてもう一度囁く。
「怜。私たちの関係は、今日から新しいステージに入ったの。これで、私たちは、共犯者よ」
その言葉は、怜の残っていたすべての理性を完全に破壊した。憐はただ私の胸に顔を押し付け、静かに涙を流し始めた。
私たちは共犯者として、二人だけの秘密を抱えながら、新たな日常を歩み始める。
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