第31話 共犯者の朝
朝の光が、カーテンの隙間から細い筋となって部屋に差し込んでいた。昨夜の激しい嵐が嘘のように、世界は静けさを取り戻している。鳥のさえずりが遠くから聞こえてきた。そのあまりにも平和な音が、私の心を深くかき乱した。私は怜の身体を抱きしめたまま、その熱と重さを感じていた。
怜の呼吸は穏やかだった。すやすやと眠るその姿は、まるで罪のない子供のようだ。だが私の胸に顔を埋めている彼女の頬には、乾いた涙の跡がまだ残っている。私はそのしょっぱい痕跡に指をそっと触れた。その指先に伝わる感触が、昨夜の出来事が夢ではなかったという残酷な事実を突きつけてきた。
やがて怜が、もぞもぞと身じろぎ、ゆっくりと瞼を開いた。その黒曜石の瞳は一瞬だけ、何が起きたのかを理解できずにぼんやりと空を彷徨っていた。そして私の顔を捉えた瞬間、その瞳に急速に戸惑いと、そしてかすかな恐怖の色が宿った。
「……月乃?」
怜の声は掠れて弱々しかった。いつもの理知的な響きはもうどこにもない。それは快感の嵐にすべてを奪われたか弱い少女の声だった。怜は、自分の身体が私の腕の中に無防備な状態で抱きしめられていることに気づいた。その熱を帯びた裸の肌。彼女の目が、ゆっくりとしかしはっきりと見開かれていく。
私は、その戸惑いに満ちた瞳をまっすぐに見つめた。そしてゆっくりとその額に口づけを落とした。怜の身体が微かに強張る。
「おはよう、怜」
私の声はひどく穏やかだった。怜は混乱していた。自分の身体に起きた非論理的な、しかしあまりにも強烈な快感の記憶。そしてそれを引き起こした唯一の存在が、今自分を抱きしめている。彼女は、まるで壊れてしまった機械を修理しようとするかのように、自分自身の身体に起きたその非日常的な変化を分析しようと試みた。だがその思考は、すぐに快感の記憶に塗りつぶされていく。
私は、怜の乱れた黒髪のボブを優しく撫でつけた。そしてもう一度囁く。
「これも、研究の続きだよ」
私はそう囁いた。怜の科学者としてのプライドをくすぐるように。憐は私の言葉に、一瞬だけその瞳の奥に理性の光を宿した。
「そうだ……これは……」
怜は言葉を探している。それは、もはや言い訳だった。
私は、憐の震える肩を優しく撫でた。そしてもう一度囁く。
「怜。私たちの関係は、今日から新しいステージに入ったの。これで、私たちは、共犯者よ」
その言葉は、怜の残っていたすべての理性を完全に破壊した。憐はただ私の胸に顔を押し付け、静かに涙を流し始めた。
私たちは共犯者。私は憐を私の手で完全に手に入れた。そして憐は、もはや私の存在なしでは快感に辿り着けない身体になった。明確に、関係性は逆転した。
私たちは共犯者として、二人だけの秘密を抱えながら、新たな日常を歩み始める。
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