第15話 最初の亀裂
画面の中の時間は、粘性を帯びた液体のように、遅々として進んでいた。男たちの、怜の身体に対する探求は、終わりを見せない。彼らは、あらゆる種類の刺激を、まるで実験データを集めるかのように、怜の身体の隅々にまで与え続けていた。指で撫で、唇で吸い、舌で舐め上げる。だが、怜という名の鉄壁の要塞は、依然として、その固く閉ざされた門を開く気配を見せなかった。
. やがて、男たちの間に、苛立ちと、そして、挑戦者のような獰猛な光が宿り始めたのが、画面越しにでもはっきりと見て取れた。彼女は、もはや単なる陵辱の対象ではなかった。彼らにとって怜は、どうしても解き明かさなければならない、難解なパズルであり、乗り越えるべき試練となっていた。その無反応さは、彼らのプロとしての自尊心を、深く、そして容赦なく傷つけていたのだ。
一人の男が、忌々しげに舌打ちをするのが、BGMの合間にかすかに聞こえた。そして、彼は、まるで戦況を打開するための新たな作戦を思いついたかのように、画面の外へと一度フレームアウトする。数秒後、彼が手にしていたのは、照明の光を鈍く反射する、透明で、とろりとした液体がなみなみと注がれた、小さなガラスのボウルだった。
オイル。その液体の正体を、私は瞬時に悟った。男は、その粘度の高そうな液体を、自らの手のひらに、惜しげもなくたっぷりと注ぐと、まるで神聖な彫像を磨き上げるかのように、怜の全身に、それを塗り込み始めた。
オイルは、怜の透き通るように白い肌の上を滑り、艶めかしい光沢の膜で、その身体をくまなくコーティングしていく。無機質な天井の照明の光が、彼女の身体の、しなやかな曲線に沿って、ぬらり、ぬらりと爬虫類のように這い回り、その輪郭を、生々しく、そして非現実的に浮かび上がらせた。その光景は、怜から、最後の生気さえも奪い去り、彼女を、完全に、人間ではない、無機質なオブジェへと変えてしまったかのようだった。私の喉が、ごくり、と乾いた音を立てる。自分の身体が、まるで自分の意志とは無関係に、じわりと熱を帯びていくのを、私はどうすることもできずにいた。
男たちの攻勢は、ここから、さらに執拗さを増した。オイルによって、あらゆる摩擦が取り払われた怜の身体は、彼らにとって、より扱いやすい実験材料となったのだ。指は、以前よりも滑らかに、そして、より深く、彼女の肌の上を滑空する。唇は、より密着し、ちゅぷ、という、水気を含んだ吸着音を立て始めた。ヘッドホンから聞こえてくる、男たちの、ぬめりを帯びた湿った息遣い。オイルの粘性を感じさせる、光の反射。そのすべてが、私の五感を直接的に、そして暴力的に刺激し、私の思考を、正常な判断ができない快楽的な沼地へと引きずり込んでいく。
そして、ついに、男たちの一人が、怜の脚を、抵抗できない角度にまで大きく開かせると、その中心にある、最も無防備で、最も繊細な場所へと、ためらいなく、顔を埋めた。
直接的すぎる、舌による刺激。
私は、息を詰めて、画面を凝視した。怜の表情は、銀色のマスクに隠されていて、うかがい知ることはできない。拘束された手足にも、目立った変化はない。固く、固く結ばれたままの、薄い唇。やはり、今回も、何も起きないのか。怜の要塞は、これほどの直接攻撃を受けてさえ、びくともしないのか。そう、諦めにも似た感情が、私の心を支配しかけた、その瞬間だった。
私は、見逃さなかった。
怜の、ストイックなまでに引き締められた、腹部。その、うっすらと縦筋の浮かんだ、平坦なキャンバスの上を、ほんの、ほんの僅かな、まるで水面に落ちた雫が描く波紋のような、微細な痙攣が、一瞬だけ、走ったのを。
ピクリ、と。
それは、まばたきをする間に見失ってしまうほどの、あまりにも些細な、筋肉の、無意識の収縮だった。
. だが、私には、それが見えた。
その瞬間、私の全身を、まるで電撃に打たれたかのような、凄まじい衝撃が駆け抜けた。心臓が、大きく、高く、跳ね上がる。見つけた。見つけてしまった。あの、鉄壁の要塞に、最初の亀裂が、入った。
それは、小さな獲物を見つけた、狩人のような、原始的な高揚感だった。怜の身体の、秘密の扉を開ける、最初の鍵を、私が見つけてしまったのだ。男たちでさえ、気づいているかいないか分からないほどの、その僅かな変化を、私だけが、この暗いアパートの一室で、たった一人、目撃してしまった。その事実が、私に、言いようのない、背徳的で、甘美な優越感をもたらした。
怜の身体の反応に呼応するように、私の身体もまた、確かな熱を帯びていく。無意識に、ごくりと唾を飲み込む。喉が、カラカラに渇いて、ひりついていた。
まだだ。まだ、足りない。もっと、見たい。あの、小さな亀裂が、やがては、要塞全体を崩壊させる、その瞬間まで。この目で、すべてを、見届けなければならない。
私の指は、無意識のうちに、マウスを、まるで自分の身体の一部であるかのように、より強く、より深く、握りしめていた。画面の中で、男たちの舌は、怜の身体の、その唯一の弱点を発見したとばかりに、さらに、確信に満ちた、執拗な動きを繰り返していた。
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