第7話 現代文明

雌雄の生命エネルギーは、かつてない速度で外部へと抽出されている。私たちのメディア依存は、もはや麻薬中毒に等しい。映像、SNS、ゲーム、広告、あらゆる人工美が一日中、視覚と聴覚を占領している。


国家も政治も企業も市民も、その構造から逃れることはできない。政治は映像演出を競い、企業は欲望を刺激する映像を作り、市民はそれを消費し続ける。人工美の連鎖に、社会全体が組み込まれている。


だがその実態は、存在しない虚像に雌雄としての生命エネルギーを吸い取られる過程にほかならない。現実の男と女は、互いへの差異を失い、同質化しつつある。


議論も思想も、破壊された美的感受性を前提に語られ、積み重ねられていく。誰もが「現実」を論じているつもりで、実際には虚像の上に言葉を置いているに過ぎない。


そして今、生命エネルギーそのものが枯渇しはじめている。雌雄の差異が摩耗し、感受性が鈍化した結果、その現象は少子化という生命誕生の減速として表面化しているに過ぎない。


少子化は単なる個人の自由ではない。それは文明が自らの根源的な駆動力を失いつつある確かな徴候なのである。


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方舟 山川一 @masafuro

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