第5話 偶像崇拝という古来からの宗教的警告
前章では、文明が美的感受性を収集し尽くし、人工美を無限に増殖させることで自壊していく姿を見た。この流れを危ういものとして最初に告げたのは、実は古代の宗教だった。
旧約聖書、クルアーン、さまざまな啓典は、「偶像を刻んではならない」「像を拝んではならない」と繰り返し警告している。それは単なる形だけの禁止ではなく、人が自らの手で完璧な像をつくり、そこに心を奪われることへの根源的な危険を示している。
偶像とは、人工的に作られた完璧な美の形である。人はその虚像に強く惹かれ、現実の他者に向かうはずだった生命エネルギーを一時的に強く放出する。雌雄の熱力学的エンジンは、あたかも本来以上の勢いで駆動しているように見える。だがその運動は、現実の生命生成に結びつかない。
虚像への駆動は、差異そのものを摩耗させる。雌雄のエネルギー差は有限であり、人工美に吸われ続ければ、やがて生命を生み出すための差異が失われる。熱力学的エンジンは、過剰運転の果てに空転し、持続可能性を失っていく。
偶像崇拝の禁忌は、「人が自ら作り出した完璧な像に心を奪われると、生命エネルギーは一時的に活発化するが、最終的には枯渇する」という洞察に基づく。聖典の警告は、単なる信仰の掟ではなく、文明が自らの生命エネルギーを消費し尽くす構造への、普遍的な予告だったのではないか。
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