第4話 生命エネルギーの収集装置としての文明とその自壊
これまで、雌雄の熱力学的モデル、美的感受性の役割、その発達と破壊を見てきた。ここでは、文明そのものがどのように生命エネルギーを収集し、やがて自らを壊していくかを考える。
文明は単なる物質的生産の体系ではない。人が持つ美的感受性を軸に、生命エネルギーを集約する巨大な装置である。古来の王権はその象徴だ。王は美しい女を囲い、金銀財宝を集め、美そのものを自らの支配下に置こうとした。文明の栄華は、美的存在の集積として示されてきた。
しかし、現実の美的対象は有限である。やがて収集は飽和し、次の段階が始まる。それが人工美の収集である。人は彫刻や絵画、建築に理想化された形を与え、ダビデのミケランジェロ像に代表されるような、現実を超えた完璧な美を生み出し、集める。
人工美が街に満ちると、市民の美的感受性は次第に基準を失う。幼少期からダビデ像を毎日目にして育った者が、街の男性の肉体を見て落胆するのは想像に難くない。現実の肉体は、人工的に完成された像に比べて常に不足しているように映る。
こうして雌雄が本来持つ生命エネルギーは、互いへの接続ではなく人工美に向けて抽出される。現実の雌雄差は弱まり、性規範の崩壊、男女の同質化、家庭維持の困難が現れる。これは単なる社会制度の変化ではない。文明が自らの本性――生命エネルギーの収集――を極限まで推し進めた結果、自らの基盤である美的感受性を破壊してしまう現象なのである。
文明は美を集めることで栄え、やがて人工美に自らを委ねることで衰退する。それは生命エネルギーを集積する装置であるがゆえに、その終焉もまた内側から必然的に訪れる。
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