第3話 美的感受性の発達と破壊

第一話で雌雄の熱力学的モデルを、第二話で美的感受性を生命エネルギー場として示した。では、この美的感受性はどのように形成され、どのように失われるのか。


ダーウィンは性淘汰論において、雌が雄の特定の特徴を選び取ることで進化が進むと述べた。孔雀の雄が持つ大きく華やかな腰羽根は、その典型である。雌は羽根の形や色、広がりに美を感じ、心を動かされ、雄を選ぶ。雄はその選択に応じてさらに美を増し、雌雄の結びつきが繰り返される。


ここで重要なのは、雌が何を美しいと感じるかが遺伝的に固定されていないという点である。生まれながらに「この模様を好む」と決まっているのではなく、雛が育つ環境や経験がその感受性を形づくる。美的感受性は学びであり、後天的な獲得物だ。


ではもし、雛の時期から一羽の雌孔雀に、この世に存在しないほど理想化された雄の映像だけを見せ続けたらどうなるだろうか。その雌が成長して野に放たれたとき、現実の雄に心を動かされ、番を持つことができるだろうか。おそらく難しい。仮想像が、美的感受性そのものを変容させてしまう可能性がある。


そしてこの仮説は、孔雀だけの話ではない。人間は自らの文化と技術によって、仮想の理想像――映像、映写、画面、無数の人工美――を絶え間なく自分自身に浴びせている。私たちは、自らの美的感受性を破壊する装置を、自分たちの手でつくり、自分たちに与えているのである。


美的感受性は、雌雄の差異を保ち、生命エネルギーを流す回路そのものだ。その形成と破壊を理解することは、文明の未来を考えるうえで避けて通れない。


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