第2話 冷静

よし、落ち着いた。

五分ぐらい喜びを噛み締めていたが、よくよく考えてみるとこの状況は非常にまずい。


先程俺が出した結論はこうだ。

「少なくとも、俺と炎以外の人間がこの世界から消えてしまった」

もしかしてで、少なくともなんだ。


俺と炎以外の人間がいないと非常に困ってしまう。

主に息子のほうが。


炎に結論があっているか確認を取ろうとスマホの画面を見るとなんとアンテナが一本も立っていない。


昔同じような状況になる動画をYouTubeで見たことがある。

「もし自分以外の人が消えてしまったら」って内容だ。よくある妄想を全否定してくるチャンネルで、面白がって見ていた。


その動画のステップ1で起こり得ると言っていた状態は、発電所が止まってしまうこと。まさに今と当てはまる。


さっき炎が焦っていたのはそれ関連だろう。現に連絡が取れなくなっているのだからな。


俺の導き出した結論があっていると完全に自分で思い込んだところで、車に乗り込んだ。もちろんワゴンR。俺が生まれた時期に買ったらしいからもう十五年走っていることになる。


同い年に乗るってなんだかエッチだな。とかなんとか考える間にエンジンを始動させ、シフトレバーをドライブに入れる。


「ぶっ飛ばすぜベイベ!」


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「本当に車一台走っていないな。」


静かで快適だ。一つ難点があるとするのなら静かすぎるところだろう。

今のところ動画で見たような火事の煙は上がっていない。


周りの景色を見るより運転に集中しないと事故りそうだ。と思った矢先に密かに想いを寄せているうららさんが歩いていた。


「おーい何してんの?」


車を止めてからそう話しかけるとうららさんは俺の方を目を腫らした顔で見てきた。


「碧...くん...?」


「そうだよ、まさか2日で俺のこと忘れたの?」と言おうと思ったが彼女がこちらに走ってきた。


「碧ぐん!!良かっだ、私以外の人はいないのがと...」


「おっと!大丈夫?一旦落ち着いて、涙拭こう?」


俺がそう言うとリュックの中から取ったハンカチで涙を拭き出した。


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「炎に呼ばれて今から学校行くけど、一緒に乗る?」


数分後俺がそう提案するとうららさんはパァっと明るい笑顔になってコクコクと頷いた。


...気まずい。気まずすぎる。

まさか女子とのドライブとなるとは思っていなかったし、こんなに気まずくなるものだとは思っていなかった。


「碧くんって運転できるし上手いんだね。知らなかった。」


「うん、去年の夏休みに叔父さんから教えてもらったんだ。保育園の頃から車が好きで、親の運転をずっと見てたから上手いのはそれもあるだろうけどね。」


「へえ、そうなんだね」


...また気まずいタイムに入ってしまった。なんとか学校に早く着かないと気まずすぎてこの空気感で圧死してしまう。

あ、うららさんいい匂いするかもってなに考えてるんだバカ。てかなんでうららさんは一切の迷いもなく助手席へ?


そんなことをずっと頭でフル回転させながら運転していると学校が見えてきた。


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駐車場には炎と4人がいた。

ちょっと抜けてる来人と、クォーターのシオン。カップルの仁恋と龍騎がいた。


「炎!言われたとおりに車で来たぞ!一体どうしたんだ?なんとなく予想はつくけど」


「ああ、その予想はおそらく俺たち以外の人がいなくなっている。ってことだろ?」


「ああそうだ。それに加えてだ、シオンや来人を見て思ったんだが炎の言っている俺たちってのは3のAの人間だけだと思う。」


「そう..だよな、お前の言う通りかもしれない。実際に3のA以外の人と連絡が取れないしそういうことになるだろう。」


「おいおい俺ら抜きで話すなよ!」

と来人が言った。いつも抜けているのに今日は少しまともだ。少しな。


「お前らの話が聞こえたが、俺もそうだろうと思っている」

とシオン。いつもお調子者だからまともなやつを演じているのだろう。


「とりあえずこれからどうするか話し合おう。おいそこのずっとイチャイチャしてるバカップル、来い。」


「「はーい」」


見ててイライラする。正直こいつらはいなくてもいいと思う。


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俺たちは話し合った結果、残りのクラスメートを集めることにした。

うちの学校は全校生徒が55人、3のAの人数は18人の小規模校。

それ故に仲が良いが、同時にいじめも発生してしまう。


今この場にいるのは7人。あとの8人を集めることになるのだが...

俺は生憎、その8人全員の家を知らない。理由は学校から家が遠い上に休日に遊ぶような仲でもないからだ。


主に休日はシオンと炎と来人だけでポケモンをして遊んでいる。

話が脱線しかける前に戻す。


ここにいない8人は家が遠いから俺の乗ってきたワゴンRで8人を家まで迎えに行くことになった。

家にいないのではという心配もあったがそれは炎がすでに根回ししているようで、数人は問題はない。


そう数人だけは問題ないのだ。スマホをもっているのは俺を含めた15人。

クラスの大半がもっている。

残りの3人はスマホを持っていない。その理由はそれぞれ


「プレステあるからいい」「ぶっちゃけpcで十分だしいらない」「お金がない」だ。


こんなことがあってはいけないけどあってしまったんだから一応の連絡手段はもっておいてくれよ...


でもその3人は家が近所にあるらしく集まっているのではないかとバカップルの女のほうが発言した。たまには役に立つ。褒めてつかわそう。


そして問題が発生した。俺のワゴンRは軽で、4人乗り。せいぜい5人が限界といったところだ。

そして家への案内役と俺で2人の座席が減る。そうすると乗せられるのは最大3人。


そういうわけでひとまず連絡手段が取れない3人を最優先で保護することになった。


次点で大容量の車の確保、食料の確保、他の生存者の捜索をすることに。

娯楽品は各自自由に見つけることになった。


「なあ、せっかくだからチームの名前みたいなの付けねえ?」

とバカップルの男のほうが発言した。


「賛成だよ、こういうのってあったほうが団結できるじゃない?」


おいおいまじかよ来人、お前まで...


「じゃあ言いだしっぺの法則で俺が名前決めるな!」


「おい」


「じゃあ...」


こいつ無視しやがった!


「『ユナイト』でどうだ?意味は確か結束するって意味の英語だ。良くない?」


「いいんじゃない?今の僕達にはそれがあっていると思う」


「癪だが、俺もいいと思った」


「よし!じゃあこれから俺達はユナイトな!」


「どうせなら掛け声でも決めようか」


「それはもうユナイトでいいよ。めんどくさい」


「おい発案者」


「てな感じでチーム名も決まったし掛け声も決まったところで作戦を始めるか。初の作戦だ。失敗しないように掛け声をしっかりとするぞ!」


「初掛け声だね、緊張するよ」


「ではワタクシ龍騎が掛け声を取らせていただきます。それではいきます、せーの!!」


「「「「「「「ユナイト!!!!」」」」」」」

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