3話 アンシンカブル
伊藤 大悟は、その第一印象に反してただの不良ではない。
試験の順位は常に学年一位で、スポーツにおいては野球部で投手のエースだ。
性格こそどす黒いが、それを見せるのはイジメる相手か、よほど信頼した人のみ。
それ以外には、いかにもノリの良い青少年といったところだ。
良い面だけを切り取れば、誰もこいつの悪行とその性格を信じられない。
だからこそ先生からの信頼も厚いし、クラスの中でもリーダーになれる。
こいつがクラスのリーダー的な存在になるのは自然な流れだった。
「よりにもよって来るのが今日なんてな」
「それは、どういう意味だよ」
「そのままの意味だよ、引きこもりのお前が総当たり戦に出たところで誰にも勝てねぇだろ」
相変わらず、嫌いなやつにはとことん否定的だ。
もしこの世界が、まだ国語や数学で評価される世界なら、とっくに諦めているだろう。
でも、ここはゲームと勉強が逆転した世界なのだ。
得意としたゲームジャンルではないが、それでもゲームは俺のホームグラウンドで一番好きな世界なのだ。
「負けるために戦うつもりはない。伊藤、お前にだって勝ってやる」
「はっ! 聞いたか? 保川が俺に勝つってよ」
クラスの全員が驚き、そして嘲笑のまなざしを向ける。
どうせ、できっこないとか、口だけとか思っているに違いない。
顔に滲み出ている。
「ま、その自信、楽しみにしてるぜ。まあ、どうせ無理だろうけどな」
そう言うと、伊藤は俺の肩を叩いて、教室を出ていく。
仕方がないが、伊藤の後を追う。
どうせ行き先は同じだ。
階段を上がり、皆左側に向かう。
その先にはコンピューター演習室があったはずだ。
廊下を少し歩くと、無数のパソコンが置かれた教室はゲーム演習室という名前で今日の挑戦者を待っていた。
机の上にはデスクトップパソコンとモニターだけがあり、マウスとキーボードは学年クラス毎の棚に置かれていた。
棚にあるマウスとキーボードは機種も出している企業も様々だが、同じ機種が何個もあるのを見ると人気不人気は変わらずあるらしい。
マウスにもキーボードにも名前の書かれたシールがあり、どうやらそれぞれで買っているのだろう。
探すの苦労するかと思ったが、簡単に見つかった。
キーボードの刺さったゴミ箱があれば、誰だって気づくだろう。
変わらない。
どうせやったのも伊藤か、その仲間達だろう。
気にするだけ無駄だ。
勝って分からせてやる。
席について、パソコンにマウスとキーボードを接続していると、ジャージの上からでも分かるほどの筋肉を持った大柄の男が入ってくる。
大柄で、鍛え抜かれた筋肉から、いかにも熱血漢という感じの男は体育を担当していた竹林だ。
その筋肉と巨体だけで印象に残る人だが、見た目に反して温和でやや臆病な性格だったのもあって半年経っても一目でわかる。
温和な体育の先生と聞くとそれだけで人気の先生のように見えるが、実際には担当する体育で生徒に「体育だろ、とりあえず走っとけ」みたいに適当な授業をするせいで実際にはそうではない。
怒らないので嫌われてはいないが、めんどくさい人くらいには思われていても不思議ではない先生だ。
「全員いるかー大丈夫だな。もう二年目だし、説明は良いよな。対戦表通りに戦うんだぞ」
変わらない適当な説明をすると、椅子に座りディスプレイと睨めっこしている。
勝手が分からないから説明して欲しいけれど、初回でもまともな説明があったとは思えないし、スムーズに対戦が始まっているのを見るとそこまで難しい訳ではないのだろう。
<Red&Blue War>と書かれたアイコンをクリックして起動すると、いきなりゲームの招待が届く。
画面の右側には対戦表があり、最初の対戦相手の名前を親切に赤で強調してくれていた。
それを見ると対戦相手は伊藤、届いていた招待も伊藤からだった。
いきなり、ラスボスと対戦ということらしい。
招待をクリックすると、ゲームロビー画面に飛ばされる。
ロビー画面には、制限時間や勝利時間などの項目が並んでいて、特に重要なのがマップの選択だ。
このゲームにはどうやら銃やキャラクターを選ぶように、国家や文明といったものは選べないらしい。
その代わりに、マップによって対戦条件が異なっており、有利不利が分かれていて、勝利の条件も異なる。
今回選ばれたマップは、戦後のソ連のヨーロッパ侵攻という架空のシナリオらしい。
ソ連側は開戦から1年以内にパリへ到達すること、ヨーロッパ側は徐々に到着する米軍と合流しながら一年間パリを維持することが勝利条件らしい。
序盤はソ連有利、後半はヨーロッパ側というゲーム構造らしい。
今回は俺がヨーロッパ側らしい。
好都合だ、始めてやるゲームで最初から攻めをやらされるのは厳しい。
まずは一勝して見返してやる。
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