第8話 未来路と汚れ
教室の中に入ると、湊ともう一人が立っていた。
そのもう一人は紫色の髪に、黒い瞳。
完璧に制服を身にまとっていて、シャツにはシワーつなく、上履きは真っ白、優等生なのだろうと感じた。
上履きの横に入っている赤色から、彼が2年生であ ることがわかった。
「失礼します。湊様。話は終わりましたよ。」
「良かったー。これで隼人と帳は友達になったんだね。」
湊は嬉しそうにニコニコと笑っていた。
「この子が湊の話していた隼人くんかな?」
湊の隣に立っていた、未来路先輩だと思わしき人が俺の顔を見ながら言ってきた。
「そうだよ。毎日一緒にお弁当食べてくれるし、帰ってくれるんだ!」
「ああ。そういえば。隼人くんと会うのは初めてだったね。僕は
未来路先輩はそう言って、俺に手を差し出してきた。
俺はそれに応じて手を出して、握手をした。
「帳さんとも久しぶりに会うから話したいし、隼人くんとも話したいけど、そろそろ他の生徒が来そうだから、元の教室に戻ったほうがいいんじゃないか?」
教室の掛け時計を見てみると、もう8時ぐらいになっていた。
「本当だ。じゃあ帰るね。バイバイ未来路兄ちゃん。」
俺たちは自分たちの教室に戻ることにした。
「未来路兄ちゃんと同じ高校で嬉しいな。いつでも会いに行けるよ!」
「よかったですね。」
教室を出ると、ルンルンでスキップしている湊の制服に汚れがついているのを見つけた。
「湊。ちょっと止まって。服に汚れが付いてるよ。」
「えっ本当!拭いて〜。」
湊の服の汚れをよく見てみると靴跡のようなものが付いている。
とりあえず、ティッシュで拭いたら取れた。
「汚れとれたよ。」
「ありがとう!隼人頼りになる!」
こういう時に真っ先に動きそうな帳くんは湊の制服を見つめたまま黙っていた。
「帳くん?どうかしたの。」
「いや、隼人くんが拭いたところだけじゃなくて、そこ以外にも汚れがついているので気になっただけです。」
帳くんの言う通り、制服の背中側にも靴跡がついているし、湊の髪も乱れてるような?
「おかしいね。朝はいつも帳に服とか髪はきちんと整えてもらってるのに。」
「そうですね。今日の朝も完璧にに仕上げたはずです。」
二人とも首を傾げて困惑していたが、俺はこんなことをしている間に制服に汚れが定着しないか心配だった。
「どうして汚れがついたのか気になるけど、それより早く汚れを落とさないと落ちにくくなるんじゃない。」
「確かにそうかも。急いで落とそう!」
こうして俺たちは必死に湊の制服の汚れを落とした。
その日の昼休み
俺たちは3人でお弁当を食べていた。
「それにしてもあの足跡なんだったんだろ?僕まったく覚えがないんだけど。」
ツンツンとおかずをつつきながら湊が呟いた。
「おかずをつつくなんて行儀が悪いですよ。確かに足跡の件は気になりますね。誰かに踏まれたとかでなければ幽霊しかないですよ。」
「幽霊が犯人だとしても、未来路先輩が一緒にいたんだし、その現場を見てたんじゃないの?」
「そうかもだけどさ。気になるじゃん。放課後に調査でもしてみる?」
「放課後はダメです。今日は委員会の集まりがあるじゃないですか。」
委員会は俺と湊が仲良くなる前に決めてしまったので、湊だけが委員会に入っている。
俺は委員会は集まりがあるので嫌だったから、雑用をこなす庶務係にした。
湊は今日、委員会の集まりがあるのを忘れてきたようで、お弁当を横にずらしてから机に突っ伏した。
「いやや!調査と言って隼人と門限ギリギリまで遊ぼうと思ったのに!」
ぐずる湊を帳くんがあやしていた。
「よしよし。明日だったら遊べますからね。今日は我慢しましょうね。」
放課後
湊は委員会、帳くんは湊を待つので俺は久しぶりにボッチで家に帰っていた。
「一人だと寂しいな。やっぱり湊と一緒にいるとなんかホクホクする。」
家に一人でいるときはいつも心が冷え切っているが、湊といるだけで心がとても温かい。
できるだけ、湊と一緒にいたいんだけどな。
そんな事を考えながら、道を歩いていると後ろから声が聞こえた。
「おーい。隼人くん。」
後ろを振り返ると手を大きく振り、小走りでこちらに来る未来路先輩がいた。
「未来路先輩!どうしたんですか?」
俺は立ち止まって未来路先輩に問いかけた。
「いや、見かけたから来た感じ。今日は一人なんだ。一緒に帰らない?」
「いいんですか?じゃあ途中までですけど帰りましょうか。」
俺たちは横に並んで歩き始めた。
「隼人くんは湊が好き?」
唐突な質問に驚いたが、何とか答えた。
「えっ。好きですよ。高校で初めての友達ですし。」
「そっか。じゃあ、帳さんはどう?」
「帳くんはなんかよくわかんないですね。湊のことはすごい大切に思ってるみたいですけど、俺に対して冷たいし、何考えてるかわからないし。」
中指立ててきたことは秘密にしておこう。
「確かに帳さんはよくわかんないね。湊からはよく聞くけど、僕が見てる様子と違うし。」
「湊は帳くんのことをなんて言ってたんですか?」
「暖かくて、優しくて、いつもニコニコしてて、一緒にいて安心するもう一人のお父さんみたいだってさ。」
普段の様子と違いすぎる!
帳くんに触ったことないから暖かいとかはわかんないけど、俺に対して優しくないし、無表情だし。
確か、帳くんは湊が生まれた時から執事として世話をしてきたらしいから、湊が帳くんをお父さんみたいって思うのは当然かもな…。
「ところで隼人くん。湊が中二病でイキリ散らかしてるっていう噂は知ってるかい?」
空気が張り詰めるのを感じる。
「知ってますよ。でも嘘です。」
そう俺が答えると、未来路先輩は突然俺の肩を掴み、目を合わせてきた。
すると、未来路先輩の右目が赤くなっていき、まずいと思って目を逸らそうとしたが、目が離せず体がほとんど動かなかった。
「嘘じゃないよ。湊は中二病でイキリ散らかしてる。だから仲良くしてはいけない。」
彼の声は頭に反響して染み込んでいくようだ。
「違う!湊は中二病じゃない!」
俺は必死に抵抗した。
「湊は君のことを友達じゃないってさ。裏で悪口を言っているんだよ。」
湊はそんな子じゃない。はずだ…。
「今日、湊と話したけどその時も君の悪口を言っていたよ。君が話しかけてきてうざいってさ。僕以外に友達いないのって言ってたよ。」
…………。
「だから、湊の友達なんてやめよう。君のクラスのみんなも分かってくれたよ。」
「………。ごめんなさい!」
俺は全身の力をかき集めて、未来路先輩の顔面をぶん殴った。
その後は体が動くようになったので全走力で走って逃げた。
「ははっ。痛った。やるじゃん。」
そんな声が聞こえた気がした。
息が切れても、転びそうになっても、構わずにがむしゃらに前へ前へと体を進めた。
周りの人の視線なんてどうでもよかった。
未来路先輩のあの目が頭をよぎるたびに、足に力がこもり歩みを止めることはなかった。
家に着くと震える手で鍵を開けて、家の中に入ると急いで鍵閉めて玄関にへたり込んだ。
「意味わかんない。」
そんな言葉が出てきた。
どうしていいかわからず湊に電話をかけた。
「もしもし。湊くんですよ。隼人どうしたの?」
「湊。未来路先輩が。なんか襲ってきた。」
俺の震える声を聞いて湊は何かを察したようだ。
「そっか。怖かったね。とりあえず、今日は家から出ないでね。誰が来ても開けないように。何かあった時のためにずっと通話をつないでいよう。」
湊は怖がる俺をなだめて、眠るその時までずっと通話を繋いで話しかけてくれた。
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