第9話 完璧主義と運命の悪戯

 次の日


 目が覚めるとすでに通話は切れていた。


 通話が切れたあとに送られたメールを見ると


『明日は一緒に学校に行こうね。迎えに行くから。』


 と書かれていた。


 湊の優しさに泣きそうになった。


 いつもは冷たい朝なのに今日は心がとても暖かった。


 朝食を食べ、歯を磨き、制服に着替えて、身だしなみを整えるという一連の準備を完了しようとしている、ちょうどその時、外から車のエンジン音が聞こえてきた。


 窓から外を覗いてみると、黒塗りの高級そうな車が家の前に止まるのが見えた。


『おはよう!もう隼人の家についたけど準備できてる?』


 スマホを見ると湊からメールが送られていた。


『おはよう。もう準備できてる。すぐに行くよ。』


 俺はメールを返すと家を出た。


 黒塗りの車の中に入ると湊がいて、心配そうに話しかけてきた。


「昨日は大丈夫だった?」


「ああ。まぁ、大丈夫だったかな。」


 正直、大丈夫だったのかわからない…。


「怪我はないみたいで良かった。それで、これからの話をしたいんだよね。」


 湊は普段は見せない真剣そうな顔をして、未来路先輩のこと、これからのことを話し始めた。


「どうやら未来路兄ちゃんは僕と同じ、魔王の力を封印している封印体みたいなんだよね。」


「隼人が昨日未来路兄ちゃんにされたことを聞いてわかったよ。能力は催眠だね。同時に一人しかできないけど強力な方らしい。」


「その力を使って、僕が中二病でイキリ散らかしているっていう噂を流してたみたい。」


「これから未来路兄ちゃんを拘束する。封印体は私情で魔法を使ってはいけないからね。しかも、この学校全体の人に催眠してるみたいだからもうボコボコに怒られるらしい。」


 不安そうな俺の顔を見て、湊はいつも通りの笑顔で手を握ってくれた。


「不安かもしれないけど大丈夫!僕達がなんとかするからね?帳!」


 湊は運転席に身を乗り出して運転している帳くんに話しかけた。


 気づかなかったが、運転しているのは帳くんだったようだ。


「危険なのでやめてください。もちろん未来路様は私達でなんとかしますよ。隼人くんは指をくわえて見てればいいですよ。」


 帳くんは俺を煽るように笑って言った。


「それにしても未来路兄ちゃんがどうして僕を陥れるような噂を流したんだろう。小さいころから一緒に遊んで仲が良かったのにな…。」


 湊は暗い表情で呟いた。


「あと隼人に伝えないといけないことがあるんだよね。実は隼人は…。」


 湊がそう切り出そうとした時に帳くんが大きくため息をついた。


「湊様。めんどくさいことになりました。外を見てください。」


 帳くんに言われて窓の外を見てみると学校が見えたが、異質な光景だった。


 学校の校庭に無表情でただ突っ立っている大量の人がいた。


 ここからだとあまり見えないが、クラスメイトや先生など顔見知りも多くいるのがみえる。


「これは未来路兄ちゃんの仕業だね。」


 湊は静かに呟き、車を降りた。


 俺もハッと我に返り、それに続いて車を降りた。


「車を駐車してくるついでに、応援を呼んでくるので先に行っていてください。」


「はーい。すぐに帰ってきてね。じゃあ、隼人行こっか。」


 湊は俺の手を引いて、学校の中に入ろうとするので急いで引き止めた。


「俺は指をくわえて見えればいいんじゃないの?足手まといになるのは嫌なんだけど。」


「本当はそうするつもりだったんだけど、こんな状況になったから隼人の力も貸してほしい。」


 湊の黄色い瞳に見つめられてしまい、頷くことしかできなかった。


 そのまま未来路先輩がいる校舎の前まで歩みを進めた。


「やぁ。湊に隼人くん。昨日ぶりだね。」


 未来路先輩は昨日と変わらない笑顔で出迎えてくれた。


「グラウンドにいる人たちはどうしたの?」


 湊は無表情のまま未来路先輩に問いかけた。


「僕がみんな催眠したんだよ。湊を殺すための手駒としてね。」


「どうして。ずっと仲良くししてきたのに…。」


 湊はショックを受けたようで、表情が明らかに暗くなった。


「仲良く?笑わせるな!僕とお前が仲良くした記憶なんて一度もない!」


 未来路先輩は先程までの優しい笑みは消え失せ、邪悪に笑ってみせた。


「残念だけどお前の記憶は偽物だ。僕が催眠で植え付けた嘘の記憶なんだよ。」


「そんなわけないよ。絶対に仲良くしてたもん!」


「じゃあ、昨日のことをよーく思い出して。僕は昨日お前と会ったときに幸せそうな笑顔がムカついたから蹴り飛ばして、踏みつけてやったんだけど。」


「もしかして、湊の服に足跡がついてたのって未来路先輩がやったんですか。」


 俺は湊の苦しそうな顔に耐えきれずに、声を荒げた。 


「そうだよ。あとこれまで親戚の集まりで会うたびにいじめてたんだけど、催眠のせいで覚えてないよね。」


 屈託のない笑顔で言う未来路先輩に俺は苛立ってきた。


「どうして。どうしてそんなことしたんですか?湊をいじめて、陥れるような噂を流して。何がしたかったんですか?」


「俺は湊の魔法が欲しかったんだよ。というか、ただ合法的に左手に包帯を巻きたかったんだよ!」


「はっ?」


 俺は声が漏れていた。


 そんなクソみたいな理由で湊をいじめてたのかよ…。


「勝手に包帯巻いてろよ!俺だって中学生の時に意味もなく巻いてたぞ!理由を求めるな!」


「意味もなく包帯つけるの恥ずかしいだろ!誰かに聞かれたらなんて答えたらいいんだよ!」


「中二病だからって答えろよ!包帯を巻きたい人は全員中二病だ!意味を求めたらもう中二病じゃないんだよ。」


 口論がヒートアップしてきた。


「僕は包帯を巻くために色々計画を練ってきたんだぞ!湊の精神を破壊するための完璧な計画を!」


「そんなクソみたいな目標のために壮大な計画なんて練るんじゃねぇ!」


「うるせぇ!黙って聞けよ!完璧な計画を!」


 そこから未来路カスは計画を話し始めた。


 まず未来路はずっと包帯を巻きたいという夢を抱え、その夢を実現するために左手の封印体である湊を利用することにした。


 未来路は合法的に包帯が巻きたかった。


 そのため湊の魔王の力を奪い、自分のものにすることを計画したが、やり方がわからなかった。


 その時、一人の男が現れ未来路に教えてくれた。


 持ち主の精神を破壊すれば、封印は解ける。


 その封印体の子は死ぬだろうが、その魔法を手に入れることはできるよ。


 そこから先は、僕が協力して何とかしてあげよう。


 未来路に話しかけたのは魔王であった。


 そこから未来路は魔王の力を借りて、湊の精神を破壊するために動き始めた。


 まず、親戚の集まりで湊と二人きりになるといじめて、そのいじめの記憶は催眠の魔法で消しておいた。


 高校では湊と同じ学校に入ることを知っていたため、事前にクラスメイトや先生に催眠をかけて、噂を流すことで湊を孤立させるように仕向けた。


 もし、それでも湊は精神を保っていた場合は物理で殺すため、学校の近所で配達のバイトを掛け持ちして、催眠をかけまくり手駒を増やした。


 完璧な計画だと思っていた。


 一応、湊に友達ができた場合とか、帳が介入してきた場合のことを考えていた。


 なのに、湊は未来路が危惧する出来事をすべて起こした。


「湊に友達ができるとは思っていたが、まさか帳さんまで呼んでくるとは思わなかったよ。」


「正直、この計画の中で一番危険だったのは帳さんだ。湊のすぐそばにいて変化を敏感に読み取るし、もし戦うとなったときはこの手駒の数でも負ける可能性がある。」


「それでも、隼人くんを催眠して人質にでもすればどうとでもできたのにな…。」


 未来路は大きくため息をつき、湊を睨んだ。


「湊は神に愛されてるのかな?隼人くんは勇者だから簡単に催眠をかけることができなかったよ。」


「本当に君は最低だ。僕の長年の努力を運だけでぶち壊した。こんなに頑張ったんだから報われないとだめだよね?」 


「ちょっと待って。勇者って何?」


 俺がそう言い切る前に未来路の目は赤く輝き、グラウンドにいた人たちがこちらに走ってくるのが見える。


「来るよ!隼人!」


























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