酒とゾンビ

 三回生の七月初頭。ぼくは授業も期末テストもほっぽりだして、一足早い夏休みを迎えた。


 ぼくは自室にひきこもった。外出といえば、月曜日の朝にジャンプの購入がてら、自宅から徒歩五分のところにあるコンビニへ出向くくらいだ。NARUTOが連載されているあいだは続けようと思う。

 ただでさえ白いぼくの肌は見るみる不健康な青白さを帯びていった。新学期もあと少しという八月末には亡霊と化していた。恋に破れた亡霊である。

 ただぼくの場合、破れたといっても、リングにすら立っていないので相手は不戦勝だ。いやぼくの名前はトーナメント表にすらない。彼女はぼくという存在に気づいていない。ぼくは戦っていない。

 “めめしい”とは「女々しい」と書く。だが世の中、男のほうがよっぽど女々しいと聞く。ならば「男々しい」と言うべきだろうか。女のほとんどは女々しい役も演じうるだろうが、別れたその日には女々しさの欠片もないくらいに逞しく生きているらしい。知らんけど。

 ぼくは、見つめていればいつか彼女は気づいてくれるだろうと思っていた。だが気づかれたくもなかった。好意を気づかれることが怖かった。自分自身すら理解し得ない矛盾がある。だがその矛盾が濃くなるほど、ぼくの熱情は確かなものであると実感できた。それで自分の熱にほだされた。

 やがて我に返れば、これほど気色の悪い男はいない。ぼくは自分を軽蔑した。失望し、失望を通り越して無となった。

 気がつくとぼくはゾンビ映画を見ていた。


 いまの夢は異世界のどこかにショッピングモールを建てて、都合のいい数のゾンビをモールに詰め込み、自由に武器や食料、つまり物資を調達し、ゾンビを殺しまくることだ。それで東のエデンの主人公のようにモールのどこかに中型バイクのマジェスティでも置いて暮らすことだった。


 アルバイトは時給八〇〇円で、普通に働けば月三万七〇〇〇円、もう少し頑張れは五万、すごく頑張れば、これは滅多にないが七万までいける。

 近所のTSUTAYAでゾンビ映画を週に十本借りた。二〇〇〇円かかった。五本目から旧作が二〇〇円になる。準新作は二枚までなら二〇〇円。一度に借りられる枚数は十枚。一カ月五週換算で大体月に一万円から一万五千円かかる。新作を借りると端数ですぐ一万円を超える。月曜日から金曜日のどこかで借りておいて、土曜日の朝八時からスーパーのバイトに入る。精肉売り場から漂う牛乳の腐ったような死肉のにおいが心地よく感じられるくらいに慣れてきたぼくは、「用事がある」と店長に嘘をつき、一〇時で退勤する。その足で酒屋に向かった。二〇〇〇円から三〇〇〇円が予算だ。酒を買い込み家に帰ると、借りておいたゾンビ映画を土日の二日かけて酒を食らいながら鑑賞した。


 酒とゾンビ──。


 夜中に吐いた。用事がある、という理由は何回も使えず、そのうち店長にはバンド活動をしていると言っておいた。嘘ではないがスタジオにしか入ったことがなく、ライブを一度たりともしたことがない。嘘である。ぼくはほとんど一年間くらいゾンビ映画を見続けた。それだけだ。


 そして三回生の七月初頭、その趣味をひとまず終え、一足早い夏休みを迎えたというわけだ。

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