バイト先のミヨシさん

 アルバイト先のスーパーは、いまにも潰れそうな廃れた百貨店の食品売り場、その一角にテナントとして入っている。


 ぼくの通う大学は京都の街の中心地から離れている。山を三つか四つ越えるので、その関係で出勤時間に間に合わない。他のアルバイトはみんな一七時半に出勤するが、ぼくだけ一八時にずらしてもらっている。


 更衣室で着替えを済ませ、タイムカードを切って事務所の店長や副店長、社員さんへ「おはようございます」とあいさつを済ませた。

 エプロンを着て防火扉をくぐると売り場に出た。もう一年も働いているのに何故だか最初のこの一回だけは緊張する。ぼくは防火扉の前で立ち止まり、売り場とお客様へ一礼した。


 加工食品の売り場へやってくると女子高生の三好さんがいつもの客に捕まっていた。雰囲気の悪い老人だ。


「なんだおたく、味噌の場所もわからないのか」


 三好さんは平謝りしながら、すみません少々お待ちください、と社員を呼びに行こうとする。こういう場合は自分で判断せず、社員か先輩に頼るよう入ったときに教えられている。呼びに行こうとするのだが、その段取りを知ってか知らずか、老人が行かせようとしない。


「何を呼びにいく必要があるんだ、味噌の場所を教えてくれと言っているだけだろ」


「すみません。入ったばかりでまだ場所がわからないので、わかる者をお呼びしますので」


「入ったばかり? そんなもん関係あるか」


「お客様、お味噌をお探しでしょうか」


 見ていられずぼくは会話に入った。んあ、と客が間抜けな顔をしてぼくへ振り向く。


「お味噌でしたらこちらにございます」


「そうか? 最初からそう言えよ」


「申し訳ございません」


 ぼくは常連客を三好さんから引き離し、お味噌の棚へ誘導した。


 助けられる側でいたい。人を助けるというのは疲れるし、ぼくの性に合わない。人を助けるというのは思い切りが必要だし、迷っているあいだにどんどん状況が悪くなったりする。上手くできるかわからないのに、迷う時間もない。


 接客を済ませるとバックヤードへと戻ってゆく三好さんの背中が見えた。鮮魚や精肉売り場の店員さんが、心配そうな顔で三好さんをじろじろ見ている。常に売り場に誰かいる状態にしておかなければいけなかったが、ぼくは気になって後を追った。


 防火扉を開いてすぐ、パートの島崎さんと三好さんの姿が見えた。薄暗い通路の先にある事務所の前で二人して立っている。通路に漏れる明かりの前で、三好さんの両肩が小刻みに揺れている。島崎さんがぼくに気づいて、察するようなぎこちない笑みを向けた。手にカバンを持っている。帰り支度を済ませたところだったらしい。社員が男性しかいないからよかった。

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