第5話 第n項はなんだろう
1週間後、傷は見事に塞がっていた。ありえないくらいきれいなものだ。俺はそこら辺の気を杖代わりに草原を進んでいた。ガウといっしょに。ガウは強力な肉体をもつ人間にしか見えない。しかし、その脳は変で、初めて聞いた言語を理解したように見えるのだ。ありえないことだ、喋れないのでもともと知っていたわけでも、人間と群れで生活しているわけでもないが理解するのだ。すごい人間がいたものだといえばそれまでだが、何者かが企むことなのかもしれないし、この草原の作用なのかもしれないから、さっぱりだ。
「、、、、なぁ」
ガウはのっそりとこっちに首を向ける。
「お前、どこ住んでんの」
こいつは馬鹿なのかという顔をガウが向ける。ガウは自分で自分を指さしたので、
「う〜、、プライドを抜けたオスライオンが縄張りも持てずに放浪しているというところだろうか」
まぁ、そうだな。何も言わずに足を少し早めた。
「ウォ~イ。手加減してくれよ、お前みたいに元気じゃないんだぜ」
ホッピングみたいに杖をしならせながら、ヒュンヒュンと追いかけた。
★
星空が澄んでいて、月が野生の営みをありありと見せてくれた。今日は大きい魔物も、みんなが活発で元気だ。目が見えやすいからと逃げる側も追う側も元気にやってる。そんな景色の中、横で寝ているガウを見る。・・随分呑気なもんだ。木登り下からって、それ自体はじめてだろうに、怖くないのかね、と思ってまた月を眺め始めた。草原は四季はないが、南国でいう秋の夜長というやつになるだろう。俺も寝てぇなと思いながら、元気な魔物の声に思いを馳せながら夜は更けていった。
明け方、ぐわぁと大きなあくびをする。思わず寝てしまったようだ。一様起きとこうと思ったが、睡魔には勝てないんだ。最強の敵だな、睡魔は。一足先に地に降り立つ。水は残り少ないので竹など探しにしばらく森を歩きに行った。
ぐわぁ、、もう太陽顔見せてるな。朝だけど狩り時のがしたな、と思いながら起き上がる。木の上でびっくりする。そうだ。木の上でねたらいいって人間に教えてもらったんだった。人間の姿がない。流石にもう起きているようだ。木の上からあたりを見渡す。遠くで川が流れていて、カマシマウマが水を飲んでいるのがみえる。その逆側では、木が少し多く茂っていて、木陰でバネトビキリンが身を縮めて休んでいた。少し手前の茂みに目を移すと寝転んだあの人間がいた。眼の前にはデビルラビットがいる。ヘビのような鱗を持ち、筋肉質で目は白く濁りを持っている。ゆっくりと音を立てずに忍び寄っているようだ。片足がなくてもできる数少ない狩りの術だ。じっと観察していると、腕を突き、投擲の姿勢に移り始めた。片足を突き、ゆっくりと草を払わないように矛を操りながら、上半身のひねりで投げる。一直線にとんでいったやりは、音なくラビットに肉薄し、見事に仕留めた。やりがすごいだけで、俺にだってできると思い、木を降りてやりを借りに行こうと思った。慎重に太い枝を選びながら木を下り、ぴょんと地面に足をつく。人間に近い体型なため、やや腰が上だが、ライオンのように四足でかけていく。器用に重心を保ちながら、全身で前方に跳んでは、前足を支えに後ろ足を前に移動、今度は後ろ足に力を込め跳ぶ。ドン、ドン、ドンと軽いリズムでかけてくる音に人間は振り向く。トタトタとスピードダウンし、最後の全身でやつの槍を奪い取った。
「おいっ、返せ!」
何やら行っているが、気にせず、手頃な獲物を探す。カマシマウマは群れで来られると厄介だが、一体だけなら相手ではない。距離100mほどで勢いを落とし、身を茂みで遮りながら40mほどに近づくと見様見真似でやりを構える。腰を落とし、槍を手に持ち替える。右手に構え、体を捻り、胸を張って大ぶりに振り抜くように投げ放つ。まっすぐと相手に飛んでいく予定だった槍はズコッと土を撒き散らした。
さぁ〜と自信が反応して顔に血が集まってくる。もう一回やってやるとすぐにやりを取って、首を振って周りを睨む。そうしていたら、後ろから何やら吠えているような音が聞こえた。これは人間、あいつの声だ。昼間に声を上げるなんて、食われたいのか?後ろに迫ったやつに腕を振り上げ、口を掴み黙らせる。
「・・・・・」
「うぐ、、」といったあとに腕を叩かれたのでとりあえず離してやる。
「ぶハァ、ひどいことするな。あら、なんかキリンが来てるぞ!」とい言うものだから当たり前だろう、と呆れる。バネトビキリンは草食だが、ここらの頂点魔物の一匹で声を上げるような力のある魔物には戦いを挑むことが多々ある。「ガァ」と茂みから出て、威嚇する。それでも怯まずのっそりと鋭い赤い目でこちらを見下げている。背は10mほどあり、更にバネ上に伸びるので伸び切れば20mは行くほど巨大な魔物。力も当然強く、俺も正面からではホワイトプロテクティオスとマンモスアマティスほどの力のはあるだろう。睨み上げる。やつは遠慮もなさそうなので、最初から全速力で近寄る、がバネのようにしなる足でこちらを覆うような砂ぼこりを立てたと思うと、ドンと足を伸ばしもう一方の足裏をこちらに向けられたような気がした。付いている方の足に飛びかかり、蹴られる可能性を潰す。ドンッ、とさっきまでいたところがに全身を潰されそうな足がある。足に爪を突き刺し、噛みつく。前足を伸ばしたキリンはしばらく大きく動けない。だるっとした皮膚を掴み、上方へよじ登る。右手、左手と次々に手を変え、あっという間に肩に爪を刺す。武器の前腕で掴みかかり、後ろ脚でよじ登り切る。とすぐにバネのように前腕を出し、首に皮膚に固定する。グラッ。っと体制を建て直されたようだ。グンと視界が傾いた、と思うと自滅か疑うほど急な勢いで横転するように回った。バネのようにぐにと曲がり、関節が逆になったみたいになって、仰向けになった。天地がひっくり返ったようになる。深く刺した爪を頼りに指で握り、しがみつく。地面に向かって逆さ落としされるようになる。脚は深く突き刺せず、腕を中心に円を書く。勢いを使ってぶつかるままに跳ね、下半身を首に向け、脚を振り下げる。ドンと斧のように突き刺し、そこを支えに半回転し下に跳躍する。今度こそと脚をもう一度振り抜き、片足は折り、できる限りの支えとして、いやむしろ跳躍の主体として首の皮を指に挟み、押し込み、体を支えて再度跳躍する。重力を味方にした一瞬の降下は首の伸びに追いつき、手を目に突き立てた。グゥと唸りを上げ、まぶたを鷲掴みにし移動に耐える。ア、と手が滑る。迫る地面は恐ろしい凶器のように見えた。ネコ科の柔軟さを発揮し、空中のひねりで手足で回転を促すことで力を逃がす。擦り切れる皮膚は気にせず、何度も自ら打ち上がる。何度回ったかわからないが3回ほど力を逃がせば、命を保つことができた。キリンは予想外の抵抗に怒ったようだが、草食のため、嗅覚はそう鋭くないらしい草むらに転がる俺に気づきはせず。最初の茂みをボコボコになるまで荒らしたあと戻っていった。肺から血の匂いがする。体は横転による傷らだけで、爪はいくつが剥がれていた。着地時に指を折ったらしい、真ん中3指の先端が青くなっていた。しかし、最後の着地に失敗しのが不味く、背中の出血もなかなかだ。大怪我をしてしまった。グゥ、ガァと痛みを凌ぐために声を上げる。しばらく横にならないと動けそうになかった。痛みを我慢していたら、ふと人間の、ルースのことを思い出した。
★
ごさごさと音がする。反射的に体を起こし、低姿勢のまま音の主を凝視する。あたりには血の匂いが漂っているのだろう、肉食魔物がくるだろう。貧血を起こしているので長引けば不利だと、息を潜めた。
「おぃ、おぃ」
ふと人間の存在を思い出して、なんとか命を長引かせそうだと「グァ」と声を上げた。ガサガサと音が強まり、目の前草が別れ姿を表した。真っ黒の毛を生やした中型の魔猿。油断した。やつより一瞬遅れ、とっくみ合う。体格はわずかにこちらが上回っている。掴んだ手をうわっと横に振る。ぎゅっと手を握り会い、お互いに隙を狙い合う。こちらの骨折に気づいたのか手を振り動かし、傷を刺激してきた。ヅキッという痛みに耐え、思い切り腕を上げ、腹を蹴り上げる。蹴った瞬間力が緩んでしまい、手を握り込まれた。手をまるで動かせない。奴が動いた。腕を振り下ろすように押し倒そうとしてきた。手首が曲がり、より指に負荷がかかる。痛みで集中できない。じわじわ通し寄られ、もう噛みつかれるという距離になった時、決死の覚悟で脚を振り上げ、腹を蹴る。すぐに脚を突き、力の緩んだ所で首に噛みついた。腕の力を抜き、全力で噛みちぎろうと顎を締める。やつは距離を取ろうとして、後ろに下がる。と同時に強めより、頭を押し顎を上げさせた。最後の力を振り絞り、首を噛み切ると、やつは倒れてくれた。腕を見ると指が更に腫れ上がっていて、体の出血は更に酷くなったような感じだ。次襲われたら、、とすぐに飯を食べ、木に上がろうと思ったのだった。、、、爪がうまく引っかからずに木に登れない。仕方がなく、枝の低い木を探しにあたりをぐるっと見渡した。ここから500m程だろう距離に林がある。魔猿を噛み、のっそりと一歩一歩を踏みしめるような見た目で歩き出す。月が林冠で隠れる頃合いに、もう一度あたりを眺める。今度は枝の低い木を見つけたいだけだが、あたりも暗く、手前の木しか見えないが少し奥手に幼い木が生えているのが見えた。ちょうどいい大きさだ。ガサァと音が立つ。落ち葉が引っかかり、少し重くなった魔猿をもう食べてしまおうかと思った。顎の力を強め、目前の木の枝を立ち上がり掴む。上を向いたまま一思いに持ち上げ、2段目にも手を伸ばし、持ち上げる。やっと足をかけることができたが、まだまだ低い。4段目の枝でやっと魔猿を置き、食べ始めたのだった。
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