第一章
第5話 いや、やっぱ逃げよう
皆さんどうも、瀧川隼人改めライゼ・フォールドです。
誰やねんと思ったそこのあなたに説明すると、一応前世ではグランデブレイブなるゲームのRTA走者でした。
しかし、RTAのやり過ぎて死亡してしまい、ふと目が覚めたら——。
あのグランデブレイブの世界に転生してるではないですか!
大歓喜した俺はそのままRTAをこの世界でも実行します。
そして、なんと世界記録を叩き出したのです。やったね!
そんなこんなで色々あって俺は今、グランデ王宮の近くの市場にいる訳です。
しかし実は俺、ただいま相当困った事態になっておりまして……。
「誰か俺を助けてくれ!?!?!?」
頭を抱えて悩みこんでるのでした。ちゃんちゃん。
いや、笑い事じゃないんだぞ!?
時系列順で説明しよう。
RTAで世界記録を出した俺は、その後眠ってしまったリリーナ姫を連れて王宮に戻ってきたのだ。
しかし、王宮の門の前まで来た時に人の気配がした俺は、人見知りが発動!
なんとその場にリリーナ姫を置いて逃げてしまう。
その影響なのか、それとも魔王城を半壊させたのがヤバかったのだろうか。
リリーナ姫が王宮に帰還してから丸一日、すでにグランデ王国には俺のありもしない噂が蔓延していた。
ここからは、その一部始終を紹介しよう。
「なぁおい、どうやら勇者様が魔王城を半壊させて、リリーナ姫様を救出して下さったそうだ」
うん、ここまでは事実だろう。
ここまではまだよいのだ。事実だし。
「きっと勇者様はとんでもない美貌の持ち主なのでしょうね。おそらく、見た人全員が気絶してしまうほどの」
おうおう、もう雲行きが怪しいぞ。
確かにライゼの顔は前世と比べたら整っているが、そんなおかしい次元じゃない。
というか見る人が全員倒れる美貌ってなんだよ。もはや災害だろそれ。
「勇者様は人睨みするだけで天地を破り、世界から魔物を消滅させる程のとんでもない力を持っているらしいな」
えーと、そんな力持ってません。
せいぜい魔王城を吹き飛ばせる攻撃力999の焼きリンゴ剣を持ってる程度です。
いや待て、それでも十分おかしいか?
「おそらく勇者様は他の国の王子様か、もしくは神の使いなのよ。そうじゃなかったとしても、とっても身分の高いお方なのだわ!」
もう全部嘘じゃん!?
さっきまでは、ちょっとくらいなら当たってたけどこれは全部間違いだよね?
俺は何の変哲もない一般市民なんだよ!?
「それにしても勇者様は、リリーナ姫様を届けられた後、いなくなってしまったそうね。なぜ出てきて下さらないのかしら?」
…………。
いや、出ていけるかよ!?!?!?
君たちが話してる勇者像、俺と全くの別人じゃん!?
こんなところで出て行って名乗ったところで、誰も信じてくれないよ!?
そもそも俺、こんな状況で出ていけるほど心臓強くないし。
俺の事を皆んなが知って、それで失望されるのも嫌なんだが!?
という事で、俺は絶望していたのでした。
(いやでも人の噂も75日とか言うし、待っていれば皆んなも忘れてくれるかな?)
とまぁ少し楽観的な考え方をする俺。
しかし、そんな浅はかな俺の考えをぶち壊すが如く、俺に話しかけてきた女性がいた。
「すみませーんお兄さん。王国騎士団の者です。例の勇者の件について、何かご存知の事はありますか?」
その女性は肩に鷹の紋章をつけて、隊服のようなものを身につけていた。
鷹の紋章はグランデ王国の騎士団の印。
どうやら女性は、グランデ王国騎士団の騎士で、噂の勇者様について色々調べているようだった。
王国騎士団はグランデの王家が直接管理する組織。
彼らが勇者を探しているという事は、王家の誰かが勇者を探していると言う事に等しい。
そして王家には、俺の顔を見たであろうリリーナ姫がいる。
彼女が俺を探しているならば——。
(隠れててもダメじゃねーか!?)
このままでは俺は勇者として捕まってしまうかもしれない。
そんな俺の動揺を露知らず、女性は更に話を続けた。
「これはリリーナ姫様がお描きになった勇者様の似顔絵です。このような人物に心当たりは?」
そう言って差し出してきた一枚の紙。
その中にはどうやらリリーナ姫が描いた俺の似顔絵があるようだ。
その絵を見た俺は衝撃に目を見開く。
そこに写っていたのは人ではない化け物。
まるで3歳児が描いたかのようなぐちゃぐちゃの線の集合体であった。
(そういえばリリーナ姫って芸術関係はてんでダメだったっけ……)
確か親バカな現国王が褒めまくったおかげで、自分を絵が上手だと思ってるって設定がどこかにあったはずだ。
「いえ、こんな顔の人は見た事ないですね」
俺は何とか嘘にならない範囲で騎士団の女性に答えて、そのままその場を後にした。
(リリーナ姫の絵があんな調子なら、何とかなるかもしれないな)
俺はまたもや楽観的に考え始める。
そんな俺の耳には、市場の人々の声が聞こえてきた。
「実は勇者様がなぁ……」
「俺も勇者様みたいになりたい!」
「今日は勇者様セールだよ!」
その声を聞いて俺は決意した。
「いや、やっぱ逃げよう」
◆
そうと決まれば善は急げだ。もうこの街に用はない。
ぐずぐずしてると騎士団に見つかってしまい、グランデの全国民に恥を晒してしまう事になる。
そう考えながら、俺は市場から離れると、全力疾走で城壁の方へと向かい始めた。
逃げて、隠れ忍ぶ場所は原作知識からもう決めた。
その為にもまずはレシャルの大森林に行かなくては。
レシャルの大森林とは、グランデ王宮の東側に存在する超巨大な樹海である。
そこまで行けば一安心、誰にも見つからずに姿を隠して移動する事が出来るだろう。
そう算段をつけた俺は、屋根から屋根へと飛び移り、グランデ王宮の城下町を囲う城壁へと辿り着いた。
城壁にやってきた理由はファス城の城壁をよじ登った時と同じだ。
城門で誰かに呼び止められでもしては大変だからである。
俺は城壁の凹凸を利用して上手く壁をよじ登り、そのまま街の外へ飛び出した。
そして、全力疾走でレシャルの大森林の茂みの中へと飛び込む。
レシャルの大森林にはまぁまぁ強めの魔物もいるが、最悪焼きリンゴ剣があれば大丈夫だろう。
俺はそこまで考えると、一安心して声を出した。
正直昨日から気が気じゃなかったのだ。
「危なかったぁ……」
しかし、それこそが慢心という物だったのかもしれない。
ふと息をついてその場に座り込んだ瞬間、俺は近くに震えるほどの威圧感を感じだ。
「ほう、危なかっただと?」
咄嗟に振り向くと、そこにいたのは光を全て吸収し、闇に染め上げるかのような、漆黒の鎧を纏った騎士の男だった。
「ここ、レシャルの大森林は強力な魔物がいる為閉鎖していたはずなのだがな。こんなところで何をしている?」
そう続ける男の鎧の肩には鷹を模った紋章があった。
それは先ほどの女性がつけていたものと同じ、グランデ王国騎士団の物である。
その男を俺は見た事があった。
なぜなら彼はグランデブレイブの原作で、王国騎士となったライゼの師匠であり、共に魔王へ立ち向かった仲間だったからだ。
「あ……いや、えっと……」
驚き過ぎて声も出ない俺を男は黒の瞳で冷たく見つめる。
彼はライゼが憧れた男だった。
その漆黒の鎧は、人類最強たる証。
グランデの剣として長きに渡りこの国を支えてきた一族の長たる男だった。
「俺の名はナルガ、ナルガ・バラムゼム。グランデの剣たるバラムゼム家の名において、不届きものは——叩き切るまでだ」
そう言うと彼は腰から一振りの剣を抜き、俺へと向けた。
◇
これは、自分が勇者だとバレる事にビビって逃げてしまった男の物語。
しかし逃げた先もまた地獄なのであった。
次の更新予定
2026年1月3日 18:00 毎日 18:00
RTAで世界記録持ちの俺がゲーム世界に転生するとこうなる 〜イベントスキップして最速攻略したので誰も俺を知らない件〜 @Garyoten
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