第3話 最強無敵ぶっ壊れチート剣
あまりの衝撃にぶっ倒れてしまった店員さんは、その後直ぐに目を覚まし、笑顔で俺を見送ってくれた。
いや、笑顔が顔に張り付いていたという方がいいだろうか。
どうやら人間驚きすぎると脳がショートしてしまうらしい。
(無茶言って申し訳なかったな……)
俺は心の中で店員さんに謝り倒すと、最大級の感謝と共に道具屋を後にした。
次に俺が向かうべきは道具屋の二軒隣の料理店だ。
すぐさまその店の扉を叩いた俺は、返事も待たずに転がり込み、店主に言った。
「ごめんおっちゃん、厨房貸してくれる?」
店主のおっちゃんも道具屋のお姉さんと同じく、駆け込んできた俺に驚いたようだが、そこはおっちゃん、一味違う。
「おういいぜ。奥の貸し出し用使ってってや」
なんとおっちゃんはニカッと笑い、俺に厨房を貸してくれたのだ。
ちなみに料理店が厨房の貸し出しを行なっている理由は簡単。
グラブレの冒険者たちが食糧の下拵えに使うからである。
とはいえこんなものは実際の所、ゲーム内で主人公がいつでも料理できるようにする為の辻褄合わせの設定。
しかしそんな細かいとこまで再現されている事に俺は感動してしまう。
結局のところ俺は、RTA以前にこのゲームの事が大好きなのだろう。
だからこんな裏設定が実在してるだけでめちゃくちゃ嬉しいんだ。
そんな事を考えながら俺は貸し出し用厨房に立ち、道具屋の時と同じくメニューバグを発動させる。
ジャンプをしながらメニューを開き、着地と同時に弓が放たれた。
脳内にしっかりとメニューが表示され、しかし自分はその状態で動く事ができる。
どうやら成功したようだ。
今回は厨房が奥の方にあった関係で、誰も驚かせずにスムーズに次の動作へ移る事ができる。
俺はメニューバグ状態のまま、厨房の魔法陣をタップして料理を開始した。
「えっと、材料はリンゴ999個で……」
俺は魔法陣に表示された材料の欄に増殖させたリンゴを入れた。
その上で脳内メニューでは父からもらった古びた剣にカーソルを合わせておく。
「よし、料理開始っと」
俺は料理開始のボタンを押すと同時に、メニューの『剣を持つ』をクリックした。
するとどうだろう。剣がリンゴ999個と一緒に魔法陣に吸い込まれ、料理が始まってしまったではないか。
そう。『リンゴ999個』と『古びた剣』が一つの鍋で料理されているのだ!
意味わかんないよね。
そのまま数秒リズミカルな音楽が流れて、料理はファンファーレと共に完成する。
魔法陣がお椀に綺麗に盛り付けた料理を俺の前に出現させた。
その名も——。
「攻撃力999『焼きリンゴ剣』の完成だ!」
リンゴ999個の『999』の数値を剣の攻撃力に移植した最強無敵ぶっ壊れバグ武器、『焼きリンゴ剣』である!
ちなみに表記名はバグらせた弊害なので悪しからず。
「おっちゃん。貸してくれてありがとう」
「おうよ。いいってことよ」
おっちゃんはまたもやニカッと笑顔で答えてくれた。
さて、ここまで来れば準備は整ったもの当然である。
俺はおっちゃんに別れを告げて、魔王最速討伐RTAの最終段階に移行した。
◆
グランデブレイブのRTAはそのゲーム性故に数多のチャートと、未知なる可能性に満ちている。
だからこそ俺たち走者は新記録を求めていつもこの世界を走るのだ。
しかし同時にグランデブレイブのRTAはどこか頭打ちの様な状態となっていた。
新しい走法が開発されたとて、それで短縮されるタイムは数秒程度。
その原因は簡単に長距離移動できるバグ技が未だ見つかっていないことにあった。
魔王城にワープするチャートや、光速&射程無限の弓で魔王を撃ち抜くチャートを考えたこともある。
しかしそれらには必要な要素がいくつもあり、時間がかかってしまう為、RTAには向いていなかった。
そんな幾度もの失敗を経て、俺はこのチャートを開発した。
その肝であり、無茶苦茶に難易度が高い処理が必要なのが今からやる技、スライムゼリーを使った魔王城までの長距離移動だ。
俺はおっちゃんの料理店を離れた後、人ごみの少ない裏路地から続く、小さい広場まで来ていた。
人がいなく魔王城までの距離もちょうどいいこの場所は何度も計算を重ねたうえで見つけた最適解である。
その広場の中心に立った俺は――。
「ぶっ飛べーーー!!!!!」
スライムゼリー999個を全て実体化し、地面に向かって投げつけた。
結果俺がたどり着いた最適解は単純明快。
スライムゼリー999個の反発力で魔王城まで飛んでいくことである!
ぷにっという音が鳴り、俺の身体は宙に浮いた。
次の瞬間、地面を離れた体は弾き飛ばされるように後方へと吹き飛ぶ。
耳元で風が咆哮し、視界がぐるぐると回転する。
頬を裂くような突風が肌を削ぎ、肺の中の空気さえも押し出されていく。
「――ッ!」
声にならない呻きが喉の奥でかき消された。
画面の中で捜査してるキャラが吹き飛ぶのとはわけが違う。
間違いなく俺は生きているのだという実感が俺の中を駆け巡った。
「畜生がッ!!!」
音速に近い速度の中、俺は毒づきながら焼きリンゴ剣を振るう。
あまりの威力を誇るその剣は、その反動だけで俺を別方向へと吹き飛ばす。
そう。この処理が難しいのは細かな調整が必要なところなのだ。
速すぎる俺の体は少しのミスであらぬ方向へと飛んでいき、魔王城など簡単に追い越してしまう。
スライムゼリーがどんな方向に飛んでいき、反発がどう作用するかわからない以上、必ずアドリブで方向の調整が必要になってくるのである。
「ヤバ。行き過ぎたッ!?」
焼きリンゴ剣の威力を甘く見過ぎていたようだ。本来の軌道から少しずれてしまった。
俺はとっさに体を回転させて弓を取り出し、真横に向かって撃ち飛ばす。
体はその少しの反動でまた移動し、予定していた軌道へと乗ることができた。
あとはもう予定通りにやるだけだ。
魔王城の真上までやってきた俺は焼きリンゴ剣を携えて、真下に向かって急降下を始めた。
陽光を反射した刃は稲光のように煌めき、軌跡を残しながら振り下ろされる。
「オラァァァァァ!!!」
俺はまるで流れ星かのように一筋の光となって魔王城へと追突した。
轟音が鳴り響き、空気を爆ぜ、その一撃は暴風を伴って地上へと叩きつけられる。
瓦礫が舞い上がり、衝撃波は周囲を薙ぎ払い、城のほとんどを吹き飛ばした。
もちろんその城の吹き飛ばした中には、魔王が佇む魔王の間があり――。
「よし、魔王討伐完了だぜ!!!」
焼きリンゴ剣のあまりの威力に耐えられず、魔王は姿さえ見せることなく、盛大に散った。
うん。やっぱぶっ壊れだわこの剣。
◇
これは、一切の描写もされぬままに破壊された魔王様の物語。
おかげで作者はコイツの設定すら考えなくて済んだ。哀れだね。
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