第2話 ( ゚д゚)!?!?!?!?
茂みを抜けて崖から見下ろした先に見えたのは、城や城下町への道と、遠くまで伸びる山峰たち。そして空を飛ぶ翼竜だった。
「めちゃくちゃ綺麗じゃん……」
ゲームのグラフィックとは比べ物にならない美しさが俺の目に映る。
例え見慣れた景色であっても、そこはデジタルの世界ではない、本物の現実である事を俺は改めて感じさせるものだった。
しかし、ゆっくり観光などできる場合じゃない。
俺は次なる目的地まで走り出す。
グランデブレイブのRTA中盤は人によってかなり攻略が分かれる場所だ。
それもこれもグラブレの自由度が高すぎるのが原因である。
いろんな事が出来すぎるが故に未だに明確な走法が確立されていないのだ。
ではRTA中盤、プレイヤーはこの自由過ぎる世界で何をすべきなのか。
目的は主に二つあった。
一つ目は魔王城までの道のりの短縮。
二つ目は魔王を倒す為の武器の調達だ。
グラブレはその自由度故に、他のクエストをクリアしなくても直接魔王を倒す事が出来るように設計されている。
とはいえ魔王はめちゃくちゃ強いし、そもそも魔王城があるのはマップの最北端。あまりに遠い。
だから時間を短縮する為には、その二つの壁を乗り越えなくてはいけないのだ。
そうこう考えてる内に、俺は自分の走法に必須な二つのアイテムの内の一つ『リンゴ』が手に入る森にやって来た。
リンゴの入手方法は簡単。木を揺らすと確率で落ちてくるようになっている。
俺は木を蹴り、リンゴが落ちてくるかを確かめる。
しかし一つ目、二つ目と木を蹴るが、中々リンゴは落ちて来ない。
ようやく三つ目の木を蹴ったところで、俺は一つのリンゴを手に入れた。
「リンゴの出現確率は20%だから、上振れた方か」
沼ってしまうと十何回蹴っても落ちて来ない事もある。
それと比べると運がよかったようだ。
しかしどうしたものか、手に入れたリンゴをしまう場所がない。
ゲームならリンゴ一個くらいアイテムボックスに閉まって置けるのだが……。
「いや待て、もしかして——?」
俺は脳内コントローラーでメニューボタンを押した。
するとどうだろう。俺の頭の中にアイテムボックスの画面が開き、リンゴが収納されたではないか。
どうやら『ゲーム世界』と『現実世界』の二つを両立する為に、この世界には——というか主に俺には特殊な力があるらしい。
例えば原作設定上は存在しないが、ゲームである以上必要な要素、アイテムボックスだったりとかだ。
「これが使えるなら、メニューバグも問題なく使えそうだな」
俺は脳内アイテムボックスを閉じると、次の必須アイテム『スライムゼリー』を探し始めた。
幸いスライムはこの森の中にも出現する。
スライムゼリーの出現確率は90%なので、俺は何の問題もなく一体目で目的のアイテム手に入れられた。
スライムA君。享年5秒。
「これでアイテムは揃ったな」
俺はその足で先程見えた城、ファス城の城下町へと向かった。
ファス城はゲーム内で、まともに進めば序盤に着くことになるであろう要塞だ。
どうやら魔物の侵略から王国を守る重要な使命を持つ場所であり、各地から冒険者が集まる街でもあるので、様々なクエストや隠し要素が存在する。
ちなみに俺は初見プレイで、ここの将軍のオッサンにボコボコにされた記憶がある。
とはいえRTAではそんな事は関係ないので一旦置いとくとして、実はここでもRTA勢の時間短縮法があったりする。
それがファス城の門を通らずに、横の城壁をよじ登るというものだ。
これをする理由は簡単。門を通るとイベントが始まってダルいからである。
その方法は以下の通り。
①ダッシュジャンプで壁に張り付く。
②壁を蹴り飛ばして上昇。
③上斜め前に回転切りでまた上昇。
④盾を下に蹴り飛ばして上昇。
⑤②と③をもう一度やって上昇。
これでなんとかギリギリ城壁を登り切る事が出来るのだ。
ちなみに盾の活躍は全体を通してこれだけ。
消費されて活躍もせずにフェードアウトとは哀れだね。
そんな感じでファス城に不法侵入した俺は、一目散に道具屋へと向かう。
扉を開けて中に駆け込むと、そこに居たのは道具屋のお姉さん。
駆け込んできた俺に驚いたように目を見開くその姿を俺は何回も見ていた。
そんな店員さんを横目に見ながら、俺はメニューバグを引き起こす。
手順は簡単だ。
ジャンプしながら弓を引き、メニューを開くだけ。
ただしこの時、着地と弓が放たれる瞬間が同時にならなくてはいけない。
実は最後の部分の猶予はほんの少ししかなく、それだけでこのバグはかなり難しい。
ただ、流石に練習量が物をいい、俺はこの工程を一度で成功させた。
「キャッ!?」
突然目の前で弓を放つ俺に驚いた店員さんは短い悲鳴を上げる。
店員さんに心の中で謝りながら俺は次の工程に移った。
メニューバグを引き起こすと、アイテムボックスを脳内で起動しながら買い物ができるようになる。
このままリンゴを売る事で、リンゴの増殖をする事が出来るのだ。
「すいません。このリンゴを買い取ってくれませんか?」
「え、あぁはい。おいくつでしょうか」
店員さんはまだ驚いたままのようであったが、何とか持ち直して俺の問いに答える。
そんな店員さんに、俺は用意していた回答を告げた。
「全部でお願いします」
「分かりました。全部ですね」
突如として俺の目の前に魔法陣が現れて、俺からリンゴを全部回収する。
これはこの世界の魔法の一つで、言うなればセルフレジのような事をやってくれる術式となっていた。
すごく便利だね。
しかし、魔法陣が提示したリンゴの個数に店員さんはまたしても目を見開く事となる。
「え、え? 999個の買取ですか!?」
何とびっくり。アイテムボックス内に一個しかなかったリンゴが999個に増えてるではないか。
この原理は簡単である。
俺が裏でアイテムボックスを開いていたお陰でリンゴがロックされており、故に魔法陣が虚空からリンゴを限界まで生成してしまったのだ。
そういう事で、俺は999個まで増殖したリンゴ回収する為に、店員さんに更なる無茶振りを行った。
「あ、やっぱリンゴの買い取りやめます。全部返して下さい」
「えッ!?!?!?!?」
あ、そうだ! もう一つの方もやらないといけないんだった。
「後このスライムゼリーも999個買い取って下さい。やっぱやめます。返して下さい」
「( ゚д゚)!?!?!?!?」
店員さんはあまりの衝撃に失神した。
◇
これは、買い物で沢山レジに持ってきた挙句、財布を忘れたとか言う系の男の物語。
いや、それよりタチ悪いよキミ。
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