どうして

どうしてこんなことになってしまったんだろう。

もうすぐ稲垣ルリが美術室にやってくるんだろう。

私じゃない。

私のせいじゃない。

見たんだ。見たんだけれど。

彫刻刀を忘れたから、美術室のを借りようとして、今美術室にいる。

そして私は悩んでいる。

美術室の誰か――多分先輩が、赤色系の絵の具を持ってほくそ笑んでいた。ぞっとした。怖くてしばらく廊下にうずくまっていた。先輩が出てくるときは、急いで今から美術室に入ろうとしている雰囲気を醸し出した。

疑われたくない。

稲垣さんは優しいから私の言うことを信じてくれるだろう。

でも嫌だ。

疑われること自体大嫌い。

「あれえ?三上さん?」

バレた。せっかく隠れてたのに。

「なんでそんなところにいるの?」

屈託のない笑顔で聞いてくる。

やめて。

お願い。

「あ、ねえ、三上さんは3組だから美術は4時間目でしょ。それまでに返すからさ、絵の具貸して!」

手と手を合わせ、頭をブンブン上下に揺らしながら言った。

「い、いいよ…」

思わずタメ口になってしまった。

「ありがとう、良かったあ。じゃあね!」

そうして、ダッダッダッと走っていった。

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして。

どうしてこんなんなんだ。

もう嫌だ。

誰か助けてよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る