第3話

「これで二回目だよ。君が私に昼に起こされるのは」

「"三度目の正直"、という言葉があるので次は大丈夫です」

「"二度あることは三度ある"、とも言うだろう」


レストラン四階、"本日貸切"の札が入り口に置かれたバーフロアにてクライが目覚めたシスを介抱していた。

といっても、ケガをしているわけではないのでカウンター越しに水を注いだコップを渡して飲ませているだけだが。

5階から飛び降りた末、空中で気絶したシスだが、クライが受け止めたらしく肉体へのダメージはゼロだった。

「結局予約はしていたし、行かないと言っていた酒場に来たんですね」

「言われてみればそうだねぇ。

まあ質問タイムも兼ねているし、"情報提供する場"に来るのは必然だったのかもねぇ」

「では早速質問ですが、さっきからコップに注がれている水は飲料水ですか?」

シスは注がれる水の発生元を見る。

そこにあるのはクライの人差し指。

皮膚と爪の隙間からかなり勢いよく水がコップめがけて飛び出している。

直線で、時折扇状に広がったりしながら。

味も色合いも普通の水なのだが、ツッコミを入れずにはいられない。

何故、飲んでから飲めるかどうかを聞いているのかは不明だ。

「魔法で作った水だからねぇ。

人体に害はないよ」

「体内の水を噴出する魔法ですか?」

「違う。こういう演出に敢えてしているだけさ」

「その心は?」

「君の嫌がる顔が見たい」

「介抱してくれたと思ったら、いきなり投身自殺紛いのことさせられた上に嫌がらせを受ける。これが異世界式の歓迎か……」

「そこは怒りたまえ、人として。

おい煽るように飲むな」

「しかし魔法の水、飲まずにはいられないな。

異世界の神秘が今、体内を駆け巡っている」

「一滴も酒を呑んでいないのに酔った感じになるのはやめたまえ。

私の魔法に変な噂がつくじゃあないか」

変なテンションでグビグビと水を飲むシスに、クライは眉を寄せる。

介抱はもう終わりだと言わんばかりに指を引っ込め、咳ばらいをして場面転換を図る。

「そろそろ何か食べるとしよう。お腹が悲鳴をあげている」

「………ん、そうですね」

「私の手料理を振舞ってあげよう。少々待っていてくれたまえ」

そそくさと厨房スペースに引っ込むクライ。

シスは、コップのふちをガジガジと噛んで料理を待つことにした。



「おーい」

「……ん?手伝いましょうか?」

「いや、それには及ばないよ。

さっき"投身自殺紛い"と言っていたが、身体能力が上がった感じは無いのかい?」

「ええ、全く。

身体が中学生の頃くらいに戻っていること以外は、特に変化ないです」

「それでよく飛び降りたものだ。

あまりにも勢いよく飛び出したものだから、結構驚いたよ」

「全てを脱ぎ捨てた飛翔、なかなかのモンだったでしょう?」

「冬の川漂流の件、もしかして自分で全裸になったんじゃあないのかい?」

「その可能性が出てきたことが辛いです」

「"アンリミテッド"関連のモノでない可能性が見えて、私はほっとしているよ」

「"アンリミテッド"?」

そこで会話が途切れる。

店内BGMもかかっていないので、二人が黙ると本当に静かだ。

何かあったのだろうかとシスが身体を上げると同時に、僅かにカチッ、というコンロの火をつける音が聞こえてきた。

水で鍋を満たす音、葉物を刃物で刻む音も聞こえてくる。

察するに、会話を忘れて料理に集中しているようだ。

シスは椅子に座りなおして、コップのふちを齧りながら一人で思考に耽る。


(アンリミテッド……)

名前から考察するのであれば、クライの所属する"リミテッド"と対立している組織だろう。

"有限"と"無限"、何に対してのワードかが気になる。

(ただのビジネスでのライバル会社……って、わけでも無いよな。

リミテッドも、わざわざ身分を隠しながら異世界人確保するくらいだし。

あと人に屋上から飛び降りろなんてイカれた指示出すくらいだし。

マンガで見るようなヤバい組織の可能性ありそう)

安易に考えるのなら、魔法への解釈などで対立しているのだろうか。

昼食前ということもあり、あれだけ場が荒れていたにも拘わらず、街中では魔法を使う人を見かけなかった(身体能力で屋根に昇ったのは疑惑の判定だが)。

それを良しとする風潮が気に食わない組織。

"無制限"に魔法を使えるように主張する者たち。

人が全裸で冬の川を流れている光景は、確かにそういう組織の見せしめ行為のように思える。


「魔法かぁ……」

何となく、自分の手をグーパーしてみる。

クライの真似をして、指をコップに向けてみる。

しかし、何も起こらない。

水を出したり、目からビームを撃つことは、自分には出来ないようだ。

誠に残念である。

しかし、肉体に関しては中学生くらいまで遡っている。

これは魔法の力でないと説明できないのではないか。

もしかすると、"若返り"の魔法が自分には使えるのかもしれない。

(……そういえば、それに関してこの人からの言及が全く無いな)

初対面の時に実年齢を語ったはずだが、それに関して一切何も言われていない。

嘘だと思われてからかわれているのか。

あるいは、それが"普通のこと"なのか。

("見ての通り18歳前後"……もしかして、この世界の人々の年齢って、見た目と一致しないのか?)

ぼおっ!!

大きな炎が上がる音が聞こえた。

即座に思考を切って、飲む気も無い酒を眺め始める。

心でも読めるのかあの人は。

これ以上、考え事をするのは危険なようだ。



「さあの手料理をとくと堪能したまえ」

「しょ、少年……」

「何か言ったかい?」

「いえ、何でもないです」

シスの大人としてのプライドが少年呼びを受け付けなかったが、クライの圧力に負けて椅子に座りなおす。

所詮、この世の理は強者の自由。

彼女が白いと言えば白くなり、黒いと言えば黒くなるのだ。

「料理を堪能した後は、お待ちかねの質問タイムといこう。

大体のことは答えてあげるから、気になったことは遠慮なく聞くといいねぇ」

「ありがたき幸せ」

カウンターに両手をつき、平伏の姿勢を取るシス。

ふふん、とクライは満足げに頭をなでて、神の雫美少女の手料理を差し出した。


「オムライス、ラーメン、ミートソースパスタ、ハンバーガー、フライドポテト、寿司、かつ丼、うどん、その他色々だ」

「冷凍とインスタントの食品使ったわけじゃないですよね?」

「安心したまえ。全て手作りだ」


「まるで別世界を感じない。信じられないくらい作るの早いけど」

「食文化に関しては君たちに多大に影響されたのさ」

「まあ、旅先でファストフード入る勢としては文句ないですけど……。

あと今更ですが、せっかく店に来たのになんで自分で作ったんですか?」

「前日に予約するなって怒られた挙句、店員を一人も貸してくれなかったのさ」

「当たり前ですね」

取り合えず伸びやすい麺類に手を伸ばすクライとシス。

味は普通に美味しく、異世界に来てから一日(?)しか経っていないにもかかわらず、なつかしさを感じるものであった。

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運命に翻弄されるストーリー 景寄 彩 @KageyoruSaya

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