第6話テスト、、、キライ、、、
「今日から期末考査の二週間前だ。各自しっかり勉強しておくように」
担任からそう告げられた瞬間の隣の神崎の表情は、某国民的子供向けアニメのド〇えもんのように青白くなっていた。
そう。二学期の期末テストが、残り14日まで迫っていたのだ。
俺も、昨夜学校の準備をしている際にそのことに気づき、軽く鬱になったものだ。
「神崎よ。わかるぞ、その気持ち」
「テスト、、、キライ、、、」
ロボットのような片言で、神崎はぶつぶつ言っている。
まあ無理もないか。
授業に追い付いていけているとはいえ、追い抜くほどではないし、不登校のブランクからか、赤点によるダブりをかなり恐れているようだ。
ここはひとつ、勇気を出してみるか。
「なあ、もしよかったら一緒に勉強しないか、、、?」
隣で机に突っ伏している神崎が、バッと身を起こし、こちらを向いて言う。
「え!?いいの!?お願いします!!」
今度は嬉しそうな表情をしている。なんとも喜怒哀楽の豊かな女の子だ。
守ってあげたくなってしまう。ーーーってのは、少しキモいか。
「あ、それ私も参加するから」
いつの間にか桐谷が神崎の横に立っていた。
「いや、誘ってないんだけど、、、」
「何か問題でも?」
「そうだよ!莉央ちゃんもいたら楽しいよ」
2対1で、俺の意見はあっさりと切り捨てられた。
女子恐るべし......
「じゃ、放課後図書室とかでやるか」
「りょうかーい」
「OK」
帰りのHRが終わり、三人で教室を出て、四階から二階の図書室へと移動する。
廊下や階段を歩いている間も、俺ら三人の顔ぶれが余程珍しいのか、すれ違う様々な生徒がチラチラと見てくる。
まあ、陰キャ二人とモデル級の美人が一緒にいるのだから、パシリや舎弟を引き連れているように見えるのかもな。
内心俺は、こうして女子と並んで校内を歩けることに、少し喜びを覚えていた。
とはいえ、少々見られすぎな気もするが。
図書室の扉を開けると、空席が目立ち、まだ生徒はあまりいなかった。
放課後すぐ向かったからというのもあるが、この高校自体あまり偏差値の高いところではないので、2週間前からテスト対策に臨むような人間は少ないのだろう。
それを考えると、俺らはこの学校の中じゃかなり意識の高い方なのかもしれない。
三人はそれぞれ、桐谷と俺が隣に並び、神崎が俺と向かい合う形で席に座った。
「なぜ俺は桐谷の隣なんだ」
「あなたが紗代をいやらしい目で見ていないかどうかを、横から監視するためよ」
「誰が見るかよ!」
勉強しに来たんじゃないのかよ、この女は......
「二人とも静かにして。私はもう勉強始めてるよ」
神崎は珍しく落ち着いていて、問題集とノートを開いて問題を解き始めている。が。
「おい、一問目から間違えてるぞ」
「えっ、うそ」
「そこは主語がHeだから、三単現のsをつけて答えはエだ」
「あ、そっか。もっちーって頭いいんだね」
「まあ、やることない日は自主的に勉強してるからな」
単に人より友達が少ない分、使える時間も多いのもあるが。
俺はなぜだか悲しい気持ちになった。
「二人とも、仲良いのね」
黙ってこちらを見ていた桐谷が言った。
「いや、仲良いのか、これは、、、?」
正面の神崎の顔は赤くなっていた。なんでだよ。
それ以降、2時間ほどだろうか、俺ら三人は各々の勉強をしたり、時には教えあったり(俺や桐谷が神崎に教える場合が多かったが)して、あっという間に時間が過ぎていった。
午後6時頃になり、図書室が閉まる時間になったので、三人で退室し、駅まで一緒に帰る流れになった。
「結構集中できたんじゃない!?私たち!」
あまり疲れていないんだろうか、元気な声で神崎はそう言った。
「そうね。望月君が紗代の顔をしきりに見ていたのは気になったけど」
「言いがかりだ!断じて見ていないからな」
「どうかしら。それとも、紗代が望月君を見ていたのかな?」
思わぬキラーパスに、神崎は目を見開いた。
「み、見てないって!私はただ教えてもらってただけだから、、、!!」
「俺らをいじって楽しんでるんだろ、桐谷」
桐谷は俺と神崎の反応を見て、ニヤニヤしていた。悪い女だ。
俺らを引き離したいのか、くっつけたいのか、どっちなんだよ......
駅まで到着し改札を抜けると、桐谷は俺と神崎とは路線が違うようで、別れて別のホームへ行ってしまった。
つまり、俺と神崎は二人きりになってしまったのだ。
しかも、帰る方向が同じらしい。知らなかった。
「じゃ、私たちもホーム行こっか」
「だな」
ホームに着くとすぐに電車が来たので、俺らは乗り込んだ。
「もっちーは、最寄りどこなの?」
「○○駅」
「え、私××駅だよ」
「おお、一駅しか違わないのか」
「びっくり。いつでも会えるね」
そう微笑む神崎の笑顔は天使そのものだった。
勉強で蓄積された疲労が一瞬でどこかへ行ってしまうくらいに、眩しかった。
あっという間に神崎の自宅の最寄り駅に到着してしまい、俺たちは解散してしまった。
ドアが閉まり発車するギリギリまで、神崎は俺に手を振ってくれた。
それがとても可愛らしかったし、神崎はすごくいい子なのだと分かった。
電車に揺られている間、今日の放課後の勉強会から神崎と別れるまでの出来事をずっと思い返していた。
やっぱり、俺は神崎のことが好きなのかもしれない。
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