依頼その4 中編 からあげ入手大作戦・始動!

 「え、あー。いいよ」

 OKだった。

 何ということでしょうか?気難しい…と一部の女子で噂されている拓篤陸介が、すんなりと。実にすんなりと、OKを出した。

 衝撃的だった。

 霧峰は、あまりの衝撃に思わず再度確認した。

 「…本当に、大丈夫?」

 「うん。だから良いよって言ってんじゃん」

 当たり前、みたいなテンションでそう告げる拓篤に、霧峰は呆然した。

 「…意外」

 「え?」

 独り言のつもりだったが、思ったよりも声が大きかったらしい。

 「なんて?」

 聞き返されてしまった。

 霧峰は、言った。

 「いやぁ、意外だなぁ〜って、そのー思ってさ」

 「お前の中での、俺のイメージは何なんだよ?」

 拓篤は笑いながら言った。

 「えー?」

 くすくす、と霧峰も思わず笑う。

 口を開いた。

 「笑ってるけど、すぐに表情がスンッてなる実は気難しい人?」

 「…俺、そう見られてたの?悲しー」

 少し、沈黙があったのを霧峰は気にした。もしや、何か傷つくことを言ってしまったのだろうか?と少し心配もした。

 「…なんか、その。ごめん」

 「急にどした」

 いつだって、拓篤陸介は平常運転だった。

 便利屋の溜まり場・廃教室には珍しく高羽はいなかった。

 拓篤は自販機で、買ってきた『りんご風味スカッシュコーラ』の缶をカシュっと開けた。

 「いや、そのイメージの話」

 「別に気にしてねえから。大丈夫だよ」

 そう、本人は言っているのだ。安心しろよ、と霧峰は思った。

 だが。霧峰は拓篤が大丈夫だ、とは断定できなかった。少なくとも、今は。

 「ごめん、霧峰。俺用事あるから、先帰るね」

 霧峰が、拓篤に声をかけようとした時だった。ジャストタイミングで、重なってしまった。

 「あ、…うん、そっ−−か。実家の?」

 彼の父が、自営業でしているラーメン屋『沢庵』の手伝いだろうか。

 きっと、そうなのだろう。と霧峰は、思った。

 「ま…あ、そんなトコ。つか、あんな店早く潰れちまえ」

 捨て台詞にしては、だいぶ物騒なことを言って拓篤はそのまま教室を出た。

 1人になった廃教室で、霧峰は思った。

 −−彼は,今絶賛反抗期で。家族仲は、最悪らしい、と。



 カラカラと、静かに拓篤は廃教室の、ドアを閉めた。

 −−親父の店なんか、死んでも手伝わねっつの、と拓篤は毒を吐いた。

 それにしても、『沢庵』の店の手伝いも、用事がある−−ということも、全て嘘だ。

 ショックだった。

 口では、霧峰を心配させまいとしてあんな軽い調子で言ったが、実際は自分の本質がダダ漏れでいるのではないか−−と心配もしたし。

 それが、よりによって自分の好きな子に言われたとなると、猛烈にショックだった。

 「霧峰。お前さ自覚ないかもだし、記憶にもないかもだけど」

 無意識に、口に出していた。

 皆々様お待ちかね!拓篤陸介くんによる、本音暴露タイム!無意識編です、はい拍手っ!

 「俺にとっちゃあ、お前は俺の世界を変えたんだぜ?」

 中学生の時−−まぁ、卒業していたが。その時から拓篤は霧峰のことが、好きだった。

 別に2人が、同じ中学校というわけではない。別に、知人だった。とか、友達の友達、とか。そうゆうのでもない。

 霧峰にとっては、さほど印象に残っていないのかもしれないが、拓篤にとってはソレは衝撃的だった。

 きっと、すれ違いとはこんなことを言うんだろうな。と拓篤は思った。

 すれ違いが、こんな意味を持っているのか、よくわからないが。とりあえず、こうゆうことにしておこう。と拓篤は思ったのだった。


 「放送されんの!?全校生徒にむけて」

 霧峰は、驚愕した。

 特製からあげゲットをすることが、そんなすごいことだとは、思わなかったから。

 …と、言うかからあげを入手するために、生徒たちが争う様を見て、面白いのだろうか?と、思った。

 何を、言う。面白いに決まってるじゃないか。

 「そっ。そんで、特製からあげは20個限定らしいのーん」

 相変わらずいつもの、様子で高羽はそう言った。

 「…それ、公開処刑じゃん」

 拓篤がごもっともなことを言ったため、霧峰は激しくうなづいた。

 「失敗したら〜地獄っすけどっ!逆に成功したら、これ以上ないチャンスに、なるくない?」

 高羽は、ニヤニヤしながら言った。

 まるでその顔は、いいこと思いついたぜ!と言い出したいような顔をしていた。

 「え、そうなの?」

 「成功して、便利屋の名を広げちまうの!」

 なるほど。つまり、名を広めようぜ!ということらしい。

 霧峰は、目立つことが嫌いなため、何と反応していいのかわからず、ただ苦笑いするしかなかった。

 

 29日が、来た。

 四時限目が終わるのが12時半ちょうどである。この学校は。

 今は12時24分。

 今この時にも−−全クラスの特製からあげスペシャルハンターたちが、今か今かと授業が、終わるのを待っているのだ。

 そう、全てはみんな大好き!特製からあげを、手に入れるためだけに。

 −−数多のライバルたちがひしめくこの学校で、果たして自分は特製からあげを、ゲットすることが、できるのだろうか?と霧峰は不安に思った。

 だが、引き受けてしまった以上はやるしかないのだ。

 −−大丈夫。私は、個人参加じゃない。高羽くんと、拓篤くんと協力しようじゃないか。

 そう。霧峰は個人ではない。

 今回は、依頼。

 つまり心強い仲間である、高羽・拓篤の2人もいるのだ。

 何も、そんなに心配することはない。−−と、信じようではないか。

 着々と、時計の針は時を刻んだ。

 担任で数学教師の、若松がなんか言っているが、今霧峰にそれを聞くほどの余裕はなかった。

 ソワソワしていた。

 現在−−12時28分。

 全力廊下ダッシュまで、あと2分。

 「それじゃあ、スケジューリングはこうだから。日直・号令」

 若松が、そう指示を出した。

 日直である三村瑠璃が、相変わらずの普段のテンションで、号令をかける。

 「起立」

 全員が、椅子から立つ。

 ゆっくりと立つ者、早く立つ者…、さまざまだ。当然、霧峰は後者だった。

 12時29分を指した。

 チャイムが、なるまであと、3、2、1−−。

 時計の針が12時半ぴったりを、指した。

 「ありがと−−」

 三鷹瑠璃が、そう言ったのと同時に、霧峰は。高羽は。拓篤は。

 飛び出した。

 嵐のように、飛び出した。

 ガタンっ!!勢いよく飛び出した拍子からか、高羽が自身の椅子に勢いよく、足をぶつけた−−ような音が聞こえた気がした。

 実際のところは、よくわからないが。

 「いった!!いっった!!いったぁぁぁぁ!!!!」

 高羽が、あまりの痛さに悶えた。

 悶えたくせに、来た。

 −−うるさかった。あと、大袈裟に反応するのやめようね。と霧峰は思った。

 口に出している暇が惜しいため,口に出さなかったが。

 クラスの人たちが、何が起きたのか理解できないような眼差しでこちらを見ているのが、わかる。

 拓篤がドアを開け、3人は全力廊下ダッシュを始めた。

 「…ございました」

 三鷹瑠璃が、戸惑った様子で号令をかけた。

 チャイムが、響いた。

 いつもだったらクラスは騒がしくなる。が、今日は違った。

 みんな呆気に囚われていた。

 「まあ、今日29日だからな。仕方ないか、はい昼入れ」

 若松桐郎が、諦めたような口調でそう言ったことで、やっとD組は騒がしくなったらしい。

 和田はただ祈るしかなかった。

 3人が、特製からあげを入手することを。

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