依頼その4 前編 何でテスト期間中なのに

 拓篤は、なんだかんだ言って便利屋に復帰してしまった。

 復帰する気なんて、なかったのに。

 ため息をついた。

 旧校舎の、多目的室−−現在は便利屋の、溜まり場になっている教室の、ドアを横戸に開けた。

 「ちーっす」

 「ツーツー、トン、ツーツー…トトン?」

 「違うヅラ!それだと、ちょっと意味わからないのよん」

 開けた瞬間、拓篤は少し現実を理解できなかった。

 高羽優希と霧峰涼華が、どこから持ってきたのかわからない、昔懐かしのちゃぶ台の上で−−。

 なぜか、モールス信号の勉強をしているのだ。

 高羽は、わかる。高羽は。まだ。…こいつなら、やりそうだから。

 霧峰がわからなかった。

 拓篤は、ツッコミを入れた。入れなきゃダメだ、と思った。

 「…な、何やってんの?」

 「ちぃっす!拓篤ちー、見てわかんにゃい?」

 「わかるよ」

 呆れながら、言った。

 「わかんにゃいかっ!拓篤ちー、君もまだまだ青二歳っすね」

 「わかるっつったじゃん。」

 −−だから、この奇妙な男が拓篤は嫌いだった。無視とか何?ナメてんの?

 「…青二歳って言われてかにゃしい君には!」

 「悲しくないんですけど。決めつけんのやめよう?友達いなくなるっつの」

 少し拓篤は、高羽のことを睨んだ。

 「この、『超基本の基!猿でもわかる!モールス信号』を授けよう」

 そう言って高羽は、書店で入手したであろう本を手渡してきた。

 「いらねぇよ」

 冷たくあしらう拓篤だったが、高羽は引き下がらない。

 「君にっ!響かないの、さみしいのよっん!君のっハートにっ、ズッキュン!バッキュン!ドーッッキュン、ズ・ド・バッキュン」

 変にリズミカルだった。

 「何ソレ、つまんな」

 「…霧たん!今の聞いた!?ひっどくねぇ!?」

 急に話を振られた霧峰は、困惑していた。何を、どう言えばいいのかわからないから。

 「正直に言うね?」

 霧峰は、呆れた顔を必死に隠していた。きっと高羽を傷つけないためだろう。

 溜めた。

 彼女の中で、葛藤が起こっているのがわかる。

 

 実際、起こっていた。

 ここは遠慮して、言うべきか。それとも、本音をズバッと言ってしまうのか。

 というか、前置きで『正直に言うね』と言ってしまったから正直に言うしかないのだが。

 盛大に溜めた後に,サラッとした答えを出すのは,どうなんだろう?許されるのかな?と思いながら言った。

 「…微妙かな」

 シンっと静まり返った。

 何か、まずいことでも言ってしまったのだろうか?と霧峰は焦った。

 「微妙って言う…返答がさ。アレだよね」

 高羽の否定されて,ショックという意味を込められて発した言葉が,霧峰の心に10万を超えるダメージを,クリティカルヒットさせたのだった。


 9月26日だった。今日は。

 この学校−−榴ヶ谷高等学校には、毎月29日になると、訪れる特製唐揚げ発売日があるのだ。

 その唐揚げは、実に美味しいという。

 外はカリカリ。中はジューシーさに加えて、口の中で肉が溶ける…という評判だった。

 それが、本当なのかは知らないが。

「依頼ってそれ?」

 教室にて。

 昼休みに、霧峰は和田凪沙に相談を受けていた。相談というより、依頼である。

 「そ」

 コクン、と和田はうなづいた。

 「29日の四時限目に、終礼と同時に教室ダッシュで取ってきて欲しい」

 霧峰は、思った。

 欲しいんだったら,何で自分で取らないんだろうか。と思ってはいけないことを、思ってしまった。

 世の中には、ツッコんではいけないこともあるのだ。それを、忘れてはならない。

 「…あの、さ。何で和田さんは、自分で特製からあげを」

 何ということでしょうか!!お嬢さん,思うだけでもアウトなのに、口に出すとは!しかも、本人の前で!!フォローしたくても、できませんよ!?

 霧峰は、言葉を区切った。

 理由はそう!決まってるじゃあないっすか!

 和田凪沙が、鬼のような形相で霧峰のことを、見ていたからだった。

 「何?悪い?」

 口調が、怒っているのがわかる。…すみませんと思ったが、無駄である。

 和田が、口を開いた。

 「挑戦権っていうやつがあってさ」

 和田は、そう語り始めた。

 「挑戦権ってのは、特製からあげ入手をするための権なの。カードみたいなやつなんだよ。」

 そう言って、和田が自身の筆入れから出したのは、スタンプカードのようなものだった。

 そのカード−−いわゆる挑戦権には、挑戦するにあたっていくつかの注意事項があった。

 特に、目を引いたのが。

 「三回失敗したら、もう参加権は…ない?」

 「イエス・サー・イエス」

 まるで軍隊の返事のように、和田はそう言った。

 ちょっと笑いそうになったのは、内緒の話だったりする。

 「あ!だからかぁ」

 納得した。

 これは、確かに自分らに頼むなあとも思った。

 「高羽くんとか、すごく乗ると思うよ」

 「まぁ、あの人はノリ良さそうだよね」

 そして、苦笑。

 和田が口を開いた。

 「問題は、拓篤くんだよねぇ」

 霧峰も、同じようなことを思っていた。彼が、乗るかどうか。

 そこに、彼女のからあげ入手がかかっているのだ。

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