依頼その3 後編①

 歩き出した拓篤が見たのは、板倉愛菜だった。スマホに、何かを打ちながら歩いている。

 「板倉…?」

 板倉のことは、以前から知っていた。

 なぜなら、一年の時同じクラスだったから。ほとんど、関わることはななかったが、華やかで明るい子…と認識していた。

 ほとんど関わったことがないため、話しかけないでいいかな。と判断して素通りしようと、足を一歩踏み出した時だった。

 スマホが、ポケットの中で振動した。

 −−電話とか、今時マジかよ。

 と思いながら拓篤はスマホを取り出した。

 発信元は高羽優希。

 コール音は止む気配がないため、拓篤は路地裏に駆け込み、応答した。

 「何?」

 −−我ながら、機嫌が悪いのを全面的に出せたな!と思った。

 というか、実際悪かった。相手が高羽優希だったから。

 −−ふざけんなよ、クソが。

 拓篤は心の中で、そう毒吐きながら電話に出ていた。

 『ちわっす。ちよっす。こんにっちゃーなのよんっ』

 「…何?」

 イタズラ電話か、何かですか?イタズラ電話は、他にしてもらっていいですか?

 『べんっりっやっ!君は今日、ぬーけちっまったっけっど!絆っ!は、ずーっと俺らを、つーなぐっのっよーん』

 何、アンパ○マンのマーチをパロってるんだ?と拓篤は呆れた。

 「…切っていい?」

 ため息を思わず吐いた。

 返答は容易に、予想できる。

 『だめなのよん』

 …だと思いましたよ。

 「高羽さ。俺言わなかったっけ?」

 『にゃにを!?』

 「…付き合わないから。お前らのやってることには」

 口調が、少し強くなった。

 ああ、と拓篤は思った。

 −−やはり俺はこのバカとは、馬が合わないと。

 『でも付き合って−−』

 拓篤は、バカバカしく思った。

 だから容赦なく電話を切ったのだ。

 「俺、あいつとLINEとか、交換してないのに、電話番号とか分からんのに、何でかけてきたんだよ…。」 

 ぐしぐしと、頭をかきながらLINEの友達一覧を見る。

 …案の定、なかった。

 次にクラスラインの、メンバー一覧をチェックしてみた。

 いた。  

 しれっとクラスLINEには、参加している。

 「…いるのかよ。」

 「いるのよんっ」

 「へー…は?」

 いるはずのない、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。 

 先に言っておこう。

 振り向いてもいなかった−−などそんな、ホラーの王道展開。あっていいはずがないのだ。まあ、後ろにいてもらわれても、心臓には悪いのだが…。

 拓篤は、振り向いた。

 「やっほー!すみまっせえんが、拓篤ちー。ちみには、やっぱ手伝ってもらいたいのどぇす!」

 ズザッと半歩下がった。

 まさか。誰だって、本当に後ろにいるとは、思わないではないか。

 「…何でいるの?」

 「ストーキングだぜい!」

 本日二回目の、盛大なるため息が、出た。

 −−お兄さん。もしかしてわからないんですか?俺も…。まあ人のこと言えないけど、ストーキングは、犯罪なんですよ?

 …自分も霧峰に対して、やっていたため、言うことはないが。

 「…バカなんだ、お前」

 「ちみだって霧たんに対してさぁっ!やってたじゃあないか!」

 −−はいはいはいはい。ごもっともです。

 と、思っただけだった。口に出してイジられると、面倒極まりないから。

 「シカトすると、友達減っちゃうのよん♪」

 「誰もお前みたいな輩と、友達になりてーだなんて思ってねーと思うよ」

 高羽は、びっくりした面持ちで拓篤の顔を見た。さすがに、言いすぎた…と拓篤も思ったのか。

 「ごめん」

 「意外!」

 「は?」

 素直に謝った拓篤を、この世のものではないものを、見るような目で高羽は見ていた。

 衝撃的なものを見て、実際少し−−というか、かなり衝撃を受けて固まっている高羽に拓篤はつげる。

 「何?悪かった?謝ったのが、そんなダメだった?」

 「え?何、何て?」

 「うわっっ!何おまっ…話聞け!」

 「固まってたんですぅ、仕方なかったんですぅ」

 おちゃらけた態度の高羽に、何がおかしいのか。それとも、ただの苦笑いなのか−−わからないが、拓篤はとにかく笑った。

 口角を上げた。

 「あそっ」

 拓篤は、思った。

 このバカといると、ガチでペースが乱される、と。

 

 「裏サイト?」

 拓篤のその言葉に、霧峰と高羽はうなづいた。

 駅前にある高校生が、みんな大好き!愛してやまない、極まりない!みたいな雰囲気を醸し出すスター○ックスコーヒーのテーブル席に3人はいた。

 あの後、霧峰も合流し、高羽に「話したいこと」があるとのことで高羽に半ば引きずられるような形で、スター○ックスに来たのだった。

 「何、それは。…俺が、知ってるか知ってないかってことですか?」

 「イェッス。物分かり早くて、助かるーん」

 高羽は自身が頼んだ、抹茶フラペチーノを飲んだ。霧峰が言った。

 「一応、レスとか見てみたの」

 「うん」

 「そんで書き込み…まあ、見た方早いか。」

 霧峰はそう言うと、自身のガラホを拓篤に見せた。

 「霧峰、ガラケー使ってんの?」

 「あっ…やぁ、ま。ガラケーみたいなスマホ」

 「です」と霧峰は付け加えた。

 拓篤は、レスを見てみた。

 そこには。

 『ガチ板倉って男に媚びてね?うぜえ』

 『気持ち悪い』

 『私だけしか、知らない情報書くね?小学生の時にあいつD組の霧峰さん助けたんだって。周りからよく思われたくて』

 『周り使うとか、サイテー』

 『え、でもみんなそうじゃん』

 『あと板倉さ家じゃ女王みたいに、君臨してんの。私知ってるよ!』

 などなど。

 板倉愛菜に対する様々なことが、そこには記されていた。

 「…今時、あるんだな。こーゆーの」

 衝撃的だった。

 あまりにも、今の時代にこんなのがあるという事実が、衝撃的だった。

 新しいレスが、追加された。

 『拓篤陸介が板倉のこと見てんの、見た笑』

 『あいつ、便利屋?の高羽・霧峰の2人に媚び始めた』

 『クラスメイト騙せなくなったから、他クラスに媚び売り始めたん!?笑』

 『拓篤あれ、絶対板倉のこと好きだよ』

 『ね!』

 「ひっどいのよん。俺らまで巻き込まれちったね」

 高羽は、そう言うと再び抹茶フラペチーノを口に運んだ。

 さらに、書き込みは続く。

 『霧峰とかも、どうなの笑』

 『あんな子と友達って、ね』

 『板倉死んでほしー笑』

 「拓篤ちーさ、ここみて」

 高羽が示したのは、メッセージの上の方にあるURL。

 ここには、誰のスマホからこのメッセージが書かれているのかが、ネットやスレに対して知識がある人が見たら、すぐにわかるのだ。

 「それが。何?どうしたんだよ」

 「ここ見ると、板倉ってあるんですよ」

 高羽が言った。

 −−なんで急に敬語になるんですか?オニーサン。

 と、拓篤は思った。

 まあ口には出さないが。

 「え、んじゃあコレ板倉が、書いたってこと?」 

 コクンっと霧峰がうなづいた。

 「何で、自分に対して中傷するんだろ…」

 そう呟いた霧峰は、とても不安そうだった。

 誰も、何も言葉を発しなかった。

 全員が全員、何を喋ればいいのか分からなかったから、話すことができなかった。

 意味不明だ。

 意味が、わからなかった。

 「2人とも、コレ見てみ」

 高羽が、そう言って指したのはおそらく、板倉愛菜本人が書き込んだであろうレスだ。

 『私だけしか、知らない情報書くね?小学生の時にあいつD組の霧峰さん助けたんだって。周りからよく思われたくて』

 『あいつ、便利屋?の高羽・霧峰の2人に媚び始めた』

 「このレスに共通してんのは、どっちもー」

 「話の発端になってる…?」

 高羽の後に、続くようにハッとした面持ちで霧峰が言った。

 「確かに。言われてみれば、そうだな」

 2人の示す反応に、高羽は満足そうな顔をした。

 「このレスズが、きっと板倉さんなんよ」

 高羽は、そうドヤ顔をしながら霧峰のガラホを覗き込んだ。

 拓篤は、みんなが見やすいようにガラホをテーブルに置いた。

 『板倉あいつ、自殺するように仕向けようよ』

 板倉−−だろう人物が、そうレスをした。

 『え?』

 『冗談?』

 『怖かったならいいよ、腰抜けやんけ』

 『いや、別に…』

 全員の顔が、強張ったのがわかった。

 瞬間、霧峰のガラホが振動した。

 発信元は−−板倉愛菜。

 

 

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