依頼その3 前編 便利屋人気すげえ!

 2年D組の教室は、今日も相変わらず騒がしかった。

 「降りてきたー!んじゃあ、占い結果を、ご確認ターイム!」 

 だの、

 「だからぁ!この写真集がすげーんだって!」だの。

 圧倒的雑多感。

 そんな騒がしい教室でも霧峰は、静かに自分の席に座って、今は昔懐かしのガラケーの形をした、スマホ。

 −−通称・ガラホを使ってメッセージのやり取りをしていた。

 『板倉愛菜』

 メッセージのやり取り相手。今日相談したいことがあるとか、なんとか−−とのことだった。

 一体何だろうか?と考えていると。

 「おっす!はよー」という声と共に、拓篤陸介が登校してきた。

 「っはよ」と、返したのは貴城成彦。クラスの一軍で、爽やかないい奴だ。

 「…お前はいいよな、モテてさー」

 そう言ったのは、加山利人。エロガキがあだ名の、自他共に認める変態だ。

 「黙れよ、このエロ貴公子」

 拓篤はふざけた調子でそう返した。リュックを、机に置いたあとすぐに、加山・貴城。そして、もう1人・マイペースな絵描きという印象が強い、伏見恭弥の輪に混ざった。

 「俺、エロ貴公子じゃねえしっ!俺は立派な名前あるし」

 「色々とアウトな写真集朝から読んでるやつを、世間一般じゃあエロ野郎っつーんだよ」

 「つかお前らだって性欲ないわけないじゃん、もっと素直になりなよ」

 「…素直になるっつったって、睦村あたりうるさそーじゃん、なっ!」

 −−失礼だな、彼女に。と霧峰は思った。声に出さなかったが。直接言わなかったが。

 「拓篤ー、あのさ」

 その時だった。

 学級委員の澤村泰輝が、拓篤のことを呼んだのは。

 「…何?澤村、お前から来るなんて珍しいじゃん」

 「若松センセから連絡入ったんだけど。ちょっとこっち来て。」

 困惑する拓篤をよそに、澤村は彼の腕をとって教室の外に出た。

 えー、何ーっだの。珍しーだの。

 そんな声が、クラスから上がる。

 加山が口を開いた。

 「澤村どしたんだろーな」

 「知らねーよ、俺に聞くな」

 「…ひっどいね伏見くんは、相変わらず」

 つか、お前に聞いてねーよと加山は付け加えた。

 貴城が口を開いた。

 「怪我してたからじゃね?顔。」

 「…あー、してたわ。絆創膏、口のあたりに」

 「そ。まあ、多分それでしょ」

 拓篤の話題はこれで終わった。その後はくだらない話を、あとの3人は繰り広げたのだった。

 

 「…で?何、どったの」

 拓篤は少しドギマギした様子だった。

 −−まさか察したとかじゃねえだろうな…。とも思っていた。そうだったら、色々と面倒だから。

 まあ、そうだった場合っ!平穏な学園生活送るしかり、青春の謳歌なんざできませんがねっっ!!

 −−正直に言っておこう。ゾッとした。

 背筋が凍るとは、このようなことを言うらしい。

 澤村が口を開いた。

 「いやさー…、お前確か高羽優希と、霧峰と組んで便利屋?やってるんでしょ?」

 意外。

 とにかく、拓篤は安堵した。

 過去のことはどうやらバレていないようだった。

 「若松先生の話は?」

 「…ごめん、それ嘘」

 澤村は、さらっと告げた。

 「んじゃ、戻るわ」

 「待て待て待て待て」

 「そっだぞ!ウェイト、ウェイトっ!はははっ」

 −−うざい奴が、来た。

 澤村も面倒くさそうな顔をした。

 拓篤が振り返った。

 案の定、である。

 「…お前さあ、」

 「なーに、疲れちってんの!あっ、何か?昨日のぉ」

 「バッカ!!」

 −−やめろ、バカ。それ以上言うな!死ぬから!!という拓篤の切実なる願いが、功を成したのか。

 高羽は、変にドヤ顔をして妙に納得した様子でクラスに入っていった。

 気まずい空気が、澤村・拓篤の2人の間に流れた。

 「…ごめん、俺もう行くわ。じゃね澤村」

 拓篤はそう言って逃げるように、その場を離れた。

 …実際、逃げていたのだった。拓篤は。


 妙に焦ったような様子で、教室に戻って来た拓篤を、霧峰は見ていた。

 −−澤村さんと何かあったんだな、というのは何となく察せられる。

 そして、そのまま。

 一軍たちの輪に入るのだろうと、思っていた。だから、霧峰はガラホを見ていた。

 板倉愛菜の、メッセージと一生睨めっこしてやろうかと思っていたのだ。

 一軍たちの輪に入らなかった。

 −−というか、なんかこっちに来てるような気がする。

 それは、間違いではなかった。

 というか実際そうだった。

 実際問題−−霧峰の席に拓篤は向かっていた。

 そして。

 「はよ、霧峰」

 −−なんということでしょう!カースト多分最下層に所属する自分に、なんと!一軍男子(その中でもかなり、中心的な男)が話しかけてくれたじゃないですか!

 「…おっ…はよう、ございます」

 変なテンションだった。

 というか、霧峰自体・慣れなかった。それよりも、周りの自分たちを見る目が気になった。

 一部の女子からは、調子に乗りやがって。だし、また別のグループからは、お祝いムードのような。

 −−貴方たちは、何をお祝いしているのでしょうか?とノリツッコミをしたくなったが。やめておこう。そんなことをしてしまうと、今まで自分が作り上げて来たイメージ・というか、キャラクターというのが、崩れ去ってしまう。

 なんとかして、このクラスに馴染むために。

 「霧峰ってさ」

 「…はい?」

 締まりが悪そうに、拓篤は話始めた。

 と、思ったら。

 「…うん。やっぱやめる、ごめんね」

 −−え?はい?

 自分から話し始めておいて?やっぱやめるだあ?

 まあ、それもそのはずだった。

 担任である若松桐郎が、入って来た。生徒たちは、雑談をやめて自分の席に行く。

 拓篤も自分の席に、戻っていった。

 今日は珍しく、高羽優希が自分の席に座っている。

 −−今日は、来るんだ。と思いながら霧峰は、高羽の席を見た。

 若松が、出席をとる。

 「浅香紗凪華」

 「はい」

 「伊一マキ」

 「はい」

 いつも通りの、日常が始まった。

 「霧峰涼華」

 「はい」

 「高羽優希ー」

 「うぃーっす」

 「拓篤陸介」

 「はい」

 若松桐郎が、一通りの点呼を終え学級日誌に、出席率を書き込む。

 いつも通りだ。

 「連絡あるかー、お前らから。…ないな」

 若松は学級日誌に向けていた目線を、一瞬だけ上げて、座席を見た。

 手を挙げている輩がいないことを、確認するとまたすぐに、手元にある予定表だろうか?

 −−ともかく、予定表なるものに目線を落とした。

 「それじゃー、まず。定期考査二週間前です。ので、原則的に放課後活動は公式の部活・同好会は禁止期間に入ります。」

 途端に「えーっ」と叫ぶ声が一軍から上がった。

 そしてざわつく。

 高羽は相変わらず暇そうにしていて、霧峰は部活を合法的に休むことができる!と考えて−−少しだけ。本当に少しだけだが、テンションが上がっていた。

 「最っ悪すぎるんっすけどー」

 「なっ」

 拓篤が、加山・和久津あたりとそんな会話をする。…あからさまに、勉強したくないアピールである。

 「はいはいはい、文句言わない文句言わない。お前ら学ないから。しっかり勉強しろよー、以上ホームルーム終わり、終了!」

 「きりーつっ!」

 やる気のない雰囲気を醸し出しながら高羽は、そう言った。

 −−高羽くんが、日直だったんかい!!とセルフツッコミを霧峰はしながら、何事もありません。とでも言うような涼しい顔をしながら、席を立った。

 「ありがとーごぜーあしたーん」

 こうして、朝のホームルームは終わりを告げた。

 −−ツッコまないんだ、『ありがとーごぜーあしたーん』には。と霧峰は思った。

 まあ、ツッコんだだけ、面倒くさくなるから誰もツッコまないんだろう。はい、納得ですね!納得納得っ!


 いつものように、授業を終えた教室は騒がしかった。

 今は昼休み。

 霧峰は、自身の友人・待田理子と昼を食べていた。

 「涼華ちゃんってさ」

 肉団子を口に運ぶ待田理子が、そう話始めた。

 「んー?」

 「拓篤くんとなんかあったの?」

 「…なんで?」

 「え、や。拓篤くんが涼華ちゃんに、話しかけてたから。なんかあったの?」

 霧峰は、迷った。

 昨日のポン太のことを、話すべきなのかどうなのか−−と。

 「まーあ、なかったとは…言えないかなぁ」

 話すべきだろうか?話さなくてもいいだろうか?

 そんな別に、話した方がスッキリしそうなのに、霧峰はウジウジ悩んでいた。

 まあ、それは警察沙汰…になったということも、関係しているのだが。

 というか、少し警察沙汰になったくらいだ。朝のホームルームで、なんか言われてもおかしくなかったのに、何も言われなかったのはなんでなんだろう?と霧峰は思った。

 「…言えなくないんだったら、言えばいいじゃん。何あったの?昨日」

 −−やめてください、そんなに詰めないでください。と霧峰は思った。

 ですがっ!残念だったな!頭の中に、そんな声が響いた気がした。

 −−貴方誰だよ、と霧峰は思った。

 霧峰が、何でそんなに悩んでいるのか待田理子はそんなことまで知らないのだ。

 そりゃあ、悩むくらいなら話せや!となるのも当然である。

 「何あったの?昨日」

 「…えっ…とぉ、だからぁ」

 「霧たーんっ!ちょっちこっち来てほしいっちゃん!」

 渋々話そうと思った時だった。

 あのうるさい高羽優希が、案の定うるさくしながら来たのは。

 しかも、自分の名を呼んで。

 「え、は?高羽優希?」

 理子が理解できないというような反応をする。なぜ、高羽優希とかいう自己中を擬人化したかのような輩が−−あたりのことを考えていたのだろう。

 −−その自己中に、巻き込まれちゃったんだよね。理子ちゃん。と霧峰は思った。

 「まっちーごみんっ!ちょっち霧たんのこと借りてっちゃうのよんっ!」

 「え?…え、は?」

 「ごめんっ、理子ちゃんガチすぐ帰ってくるから!まじごめんね!」

 −−理子ちゃんを置いて来てしまって申し分がない。

 霧峰は、そう思いながら高羽に手を取られながら下に降りた。

 「あの…っ!」

 高羽は、走るペースが速かった。そのため霧峰の手を引っ張るような感じに走っているのだ。

 「どった?」

 しかも、息は切れてない。

 口ぶりから分かるように、余裕だ。

 「今っ…どこに…」

 「拓篤ちーのとこ」

 螺旋状になっている階段を、高羽はいとも簡単に降っていく。

 目が回ったりしないだろうか?

 「それは…っ!一体なんで…」

 「仕事がぁ、来たのよんっ!」

 高羽のテンションは高く、楽しそうだった。

 「…誰からっ?」

 一階に着いた。

 迷いもなく高羽は、拓篤がいるであろう場所に向かっている、ような足取りをしていた。

 「A組の板倉愛菜って子よん」

 −−愛菜ちゃんが? 

 何も返答しない霧峰に、高羽は不安を覚えたのか。

 立ち止まり、霧峰の顔を覗きこんだ。

 「大丈夫?倒れないでねん」

 「や。倒れないよ、大丈夫。」

 霧峰は、短くそう言った。

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