依頼その2 後編 ポン太は家に帰ったよ
「この度は、本当にすみませんでした!」
あたりが暗くなった頃。
警察署の前で、ポン太の飼い主であり、今回の依頼人・智結衣が深々と頭を下げた。
霧峰は、少し戸惑ったが笑顔を見せて、言った。
「いえいえ、そんな!ほんとに、ポン太くんが、無事でよかったです」
「そっなのよんっ!本当に!」
依頼人は、優しく対応する2人と、ポン太が無事ということを、噛み締めているのか。
少し、涙目になっていた。
智結衣と、ポン太が帰宅した後も2人は警察署の前にいた。
なぜなら。
拓篤陸介が、事情聴取−−というかなぜ、乱闘になったのかということを聴かれているからだ。
霧峰が、警察に通報した後。なんとか高羽の作戦によって、拓篤はチーマーたちから解放された。そして、チーマーたちが逃げ出そうとしたところに、ちょうど警察が来て、暴行罪・銃刀法違反で逮捕された、という訳なのだ。
「拓篤くん、大丈夫かな」
独り言のように、霧峰としては言ったつもりだった。
「…わからぬ」
返答が返ってきたことに、少しばかり驚きつつ、続けた。
「長くない?事情聴取」
「それにゃ!」
霧峰は、拓篤が何かやらかしたのではないかと、すごく不安だった。
「…君さぁ、本当に犬−−えっと」
「ポン太ですか」
「そう」
−−拓篤は、向かいに座っている刑事を少し睨んだ。
だが、肝心の刑事がその鋭い目線に気付いていない。おかしい、この公安の犬には、かなりお世話になったはずなのだが−−。
相変わらず、コワモテである。
刑事…草葉拓郎は鉄製の机の上に置いてある書類の束を、手に取った。
そして、顔を顰めた後。
言った。
「あの3人。ブラッドレッズの下っ端なんだって。犬−−ポン…えっと?ポンの介?」
「だから、ポン太」
「そう、それ」
−−調子が狂いますぅ!!こんな輩といると!とっても、調子が狂いますぅ!!と、拓篤は思った。
鉄製の机を、勢いよく引っ叩いてやろうかとも思った。目線が怖かったため、当然そんなバカなこと、やらないのだが。
「ポン太とか、君が作った嘘なんじゃないの?本当は、元いたチームが…」
ダン!!
ここで、台パンを披露した。
披露するつもりなんざ、なかったが。事実を人柄とか、過去の行いで否定されるのは、どうしようもなく腹が立つ。
草葉は、特に動じなかった。
「ハハっ。変わってないなぁ。」
途端に−−。
拓篤陸介が、知っている男になった。社会のクズを見下すような目を、した刑事に。
「君が1年間我慢したのは、すごいと思うよ。」
「うるせえよ」
苛々した口調なのが、自分でもわかった。そんな自分とは裏腹に、草葉の口調は実に愉快だ。
「まっ、今日は君が1年間喧嘩我慢したご褒美的な感じで、見逃すよ。」
草葉は、パイプ椅子から立った。それと同時に、手に持っていた書類を机に置いた。
書類には、チーマーたち4人の詳細な情報が記された4枚の書類と、一番上には拓篤の書類があった。
そんなこんなで、拓篤は長かった事情聴取が終わった。
苛々しながら、拓篤は取調室から出た。
そして、もう霧峰・高羽は帰ったんだろうなあと思いながら、警察署の外に出ようと出入り口の自動ドアに向かう。
居た。
残念だったな!居たよ!2人仲睦まじく話してるよ!という、なんとも言えない1人ボケツッコミみたいなことをしてから、外に出た。
拓篤の事情聴取は、今まさに終わったらしい。
拓篤が仏頂面で出てきたからだ。
「拓篤くん!終わったんだ」
霧峰の声は、自分が思っていたよりも高かった。きっと安堵からだろう。
…多分。
「拓篤ちー、おっそぉい!」
「うるせえ、高羽黙ればーか」
そう言いながら、拓篤は元気そうだ。霧峰は、安心した。
まあ、知り合って間もないが。
「ひっどゅういっ!」
そして、こちらも安定の返しである。
平和だった。
まあ、拓篤の顔や体についている殴られた跡やケガが、痛々しいが。
3人は、歩き出した。
もうすっかり日が暮れていた。そりゃあ、そうである。時計の針は、もう午後七時を過ぎた。
正直に、カミングアウトしちゃうが。霧峰は、誰にいうという訳でもないのに、そんなことを思った。
続ける。
−−小腹が、すいた。
「ねぇっねぇっ、2人ともさぁっ!腹減ったくね?」
ほぼ同じタイミングで、高羽も相変わらずのハイテンションでそう言った。
−−昔から言うよね?人って同じようなこと考えるって!
「だったらさー、家来る?俺ん家、ラーメン屋だからさ。」
拓篤のこの提案で、3人は拓篤の家族が経営しているラーメン屋に行くことになったのだった。
拓篤の家族が、経営しているラーメン屋・沢庵は、商店街の路地裏の隅の方にあった。
建物は、薄汚れていて雰囲気は間違いなく町中華感を醸し出している。
古き良き−−という言葉は、まさにこの店のためにあると言っても良いというくらいには古かった。
「くっそ古くてごめんなー」
拓篤が、冗談口調で言った。
横戸を開ける。
中から香辛料の香ばしい匂いがした。
−−ここが、拓篤くんの実家か、と霧峰は思った。そして人情味があって素敵だなとも同時に、思った。
「オンボロすぎて、逆に笑えちゃらー!おっじゃまあ!」
「…おじゃまします」
高羽は、大声でハイテンション。霧峰は逆に、小声でビビりながら店内に入った。
店に入ると、まず見えたのはカウンターだ。カウンター席があり、奥の方にビニール製のボックス席が2個ある。
壁はコンクリート製で、ところどころにシミがあるのが、確認できる。
霧峰は、店をジロジロ見ていた。
中華屋は圧倒的に、チェーン店派なので。
「拓篤ちーさあっ!」
高羽が、急に大きい声を出した。
叫ぶほどの距離ではないのだ。店もこじんまりしているし。
「…何。」
前髪をゴムでまとめた、拓篤は手を洗いながら高羽の方を見て訝しげに言った。
少し、下から睨んでいるように見えたのは、きっと見間違いではない。
「拓篤ちーが、今このお店の店主さまなの?」
「な訳ねーじゃん。バカか」
冗談じゃねえというようなテンションで、拓篤は返答した。
「…んじゃ何?」
少し考えてから、高羽は口を開いた。
そして続けた。
「従業員?お金もらっちゃりーってか?」
「家族に金払う奴いるかよ」
これまた呆れ口調だ。
「どゆことん?」
「ばかだな、お前」
拓篤はため息をつき、吐き捨てるようにして言った。
「…ね、あのしゃあ」
「あ?」
「荷物ってどこに置けばいいんっちゃー!!」
「適当に置いとけば良いだろ、んなのもわかんねーのかよ?頭使えよバッキャローが。」
「そっかそっか。そっすかなりー、納得なりけるけるっ。…にゃんだって霧たん」
霧峰は、ギョッとした。
…なぜここで、私に話を振るのかがわからない!とも思った。
−−え?何??んじゃあそのリュックは何だって、ですって?…置く場所わからなかったですけど、何か?
「えっ−−あ、そう。わかったありがとね、高羽くん」
霧峰は早口気味にそう言い、とりあえずリュックをカウンター席に置いた。
「んじゃ、霧たんの隣はぁ俺が、陣取ったなりー!イエイ」
ドカッと高羽も席に座った。
霧峰は、気になったことがあったため、聞いた。
「…あの、代金って払うよね」
「いーよ、別に払わなくたって」
意外。
霧峰的には、ここで「払ってね」と言うのが、拓篤陸介とか言う人間なのかと、思っていたので。
「んじゃっ、俺も払わにゃーい!」
「ダメ、てめぇは払え」
「ホワッツ!?」
思わぬ拓篤の塩対応に、高羽はふざけ気味にそう返した。…というかこの男は、いつもふざけている。まるでふざけるのが趣味というか、趣味を超えて習性です!とでも言うような。
「ひっどゅーいっ!男女さーべつ」
「ちげえよ、レディファーストだ。レディーファースト!」
「そゆの、価値観が古いって言うんだよ。時代はぁっ、男女平等なりけりー!」
天を仰ぎ見て、そう言っている高羽をよそに。ラーメンができたらしい。
厨房からカウンターへ、2人分のラーメンが出された。
熱々なのが、一目でわかるくらいには白い煙が、立っている。
「麺伸びないうちに、はよ食えよー」
「ありがとう。拓篤くん」
霧峰は、礼を言った。当たり前のことだ。
礼を言うことくらいは。
拓篤は、嬉しそうだった。
あからさまに、機嫌がいい。事情聴取の疲れ全部取れました!とでも言うように。
拓篤は、「おう」とだけ言って自分の分の、ラーメンを持ってカウンター席にやってきた。
「海苔が海苔してらーねっ」
「…何言ってんだよ、てめえバカか」
「拓篤くん、バカって言い過ぎじゃないかな?」
3人は割り箸を割り、ラーメンを食べた。
麺をずぞぞぞっと啜る音が、客が全然いない沢庵に響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます