依頼その2 中編 ポン太いた!

 走る。

 高羽と、霧峰は走る。

 地面を。アスファルトを、2人は勢いよく蹴っている。 

 『乱闘してんのよ!』

 −−パーマのおばさん、わざわざありがとうございます!霧峰は、再度パーマのおばさまに礼を言った。

 不意に、高羽の足が止まった。

 −−もしかして、疲れたとか?

 何言ってるんですか?お嬢さん、そんなわけないでしょう?

 …と、言われた気がした。高羽が目で語っていた−−ような気がした。

 「霧たん!」

 「どっ…どした?」

 −−おかしい。なぜ高羽くんは、息が上がっていないのに、私は息が上がっているのか?

 答えは簡単!せーのっ!!

 日々の運動不足です!!ハハっ!

 「何死んだような、魚の目してるんだっちゃ?」

 「−−え?」

 そんな目していましたか?−−と霧峰は思ったが、無視した。

 なんか、面倒くさくなりそうだから聞いておくのを、やめておいたのだった。

 「あっ…。やー、してないよ?死んだような魚の目なんて…さ。」

 我ながら、歯切れの悪い返事をしてしまったと、思った。

 だが、言ってしまったものは仕方がないのだ。ここは一度、割り切りましょうか。

 「俺思ったわけ。2人で探すよりも、1人で探したほうが早くない?」

 −−つまり、私はいらないというわけですか?思わず、そう言いそうになったが慌てて口を閉じる。

 そんなことを言ってしまったら、絶対面倒臭いやつだと思われてしまう。

 というか、自分でもそう思った。

 「…怒っちゃった?」

 恐る恐ると言ったような口調で、高羽が言った。

 「えっ、怒ってないけど」

 「うっそお」

 「…は?」

 「絶対怒ってるって。わかるもん、機嫌悪いの」

 −−すごいね、君!度胸ありすぎなんじゃあないっすかぁ!?

 2人の間に、明らかに気まずい空気が流れ始めた。


 数分前に遡る。

 拓篤は、見てしまった。

 ポン太が攫われようとしているところを。攫おうとしているチーマー4人が、琢磨をじっと見ているのにも、拓篤は気づいていた。

 「何やってんだ、てめぇら」

 「え?ああ、このバカ犬を、駆除しようと思ってさ」

 チーマーAが、口を開く。ひょろっとした男だ。キャップを被り、さらにフードをかぶっているため、表情は分かりずらいが…。

 はっきりとわかる。

 ニヤニヤと、気色悪い笑みを浮かべているのが。はっきりとわかる。

 黙って睨む拓篤に、構わずチーマーは続けた。他の仲間も、ニヤニヤと笑っている。

 −−こいつが、頭かよ。

 拓篤は毒を吐いた。

 頭に、血が行くのがわかる。

 「しっかし、このバカ犬を買ってる飼い主もばかだよなぁ、こんな奴可愛がるなんて−−」

 チーマーが、甲高い声でキャンキャンと吠えるポン太の首輪を掴む。

 ポン太は暴れるが、チーマーはさらに口角を上げるだけだった。

 ポン太を顔の前に持ってきたチーマーは、ポン太を手から離した。

 「よぉっ!!」

 ドシャっ。

 アスファルトに、あまり鼓膜に良くないような音が響いた。

 「てめぇらッ!!」

 爆発した。

 今、拓篤の理性が吹き飛んだ。

 「やんのか、てめぇ!!」

 チーマーが、ポケットに入っていた折り畳み式ナイフを、顔の前にかざした。

 なるほど。こいつらは、性根が腐るところまで腐っちまったクソ野郎らしい。

 手加減なぞいらない、と拓篤は思った。

 拓篤は、黙ってチーマーのことを睨みつけた後、拳を出した。

 出された拳が、空気を素早く切った。

 チーマーAを殴る音が、路地に響いた。

 それを聞いたパンチパーマのおばさまが、高羽・霧峰の2人の元に転がり込むのは、当然のこと。

 

 そして、現在。

 高羽・霧峰は喧騒音を聞いた。

 「まっさか、これってぇ」

 「高羽くん早く行こう」

 そう言った霧峰の目は、喪井に怯えていた霧峰ではなかった。少なくとも、同一人物には見えなかった。

 「ヒューっ」

 高羽は、口笛を吹いた。

 「霧たん、かっくいーっ!」

 ふざけた調子で言ったつもりだったし、実際ふざけていた。

 霧峰は、ハハっと笑った後、

 「皮肉か何かですかーっ、それは」

 軽い調子でそう言った。

 −−まあ、確かに霧たんにはそう聞こえちゃったかなー?

 高羽は、少し複雑な表情をしていた。

 無意識に。

 「おしっ、早く行きんしょっ!拓篤ちーボロッボロかもねっ」

 霧峰が小さく頷いたのを高羽は、確認した後、彼女の手を取って高羽と霧峰は、再び走り出した。

 喧騒音のする方に、走れば走るほど−−当たり前だがその音は、大きくなる。

 犬がキャンキャン吠える音…殴る音・蹴る音、怒鳴り声−−。

 それらが、一度に聞こえてくる。

 どうやら、喧嘩をしているのはマジだったようだ。

 高羽は、そう思った。

 長いため息を吐いたのち、さぁーてどういたしましょうか?と霧峰を見た。

 半ば、助けを求めていたし、実際そうだった。

 −−だってあいつ、俺に対して当たりキツいじゃんすか。嫌われてるから、きっと俺の言うこと、聞いてくれないんじゃん。という、ある意味一種の諦めがあったからだ。

 

 「でかい口聞いてた割にはよォ!だっせえなぁっ!!」

 路地に怒号が響いた。

 そして、続けて腹に一発。

 拓篤は胃液を路地に吐き出した。

 チーマー4人は、拓篤が思っていたよりも経験があった。経験の差というやつか。と拓篤は痛感した。いやー、残酷・残酷っ!

 拓篤はいま、チーマーB・Cに取り押さえられているような状態だ。

 チーマーAは、そこに倒れているが、それに逆上したDが今、彼を痛めつけていた。

 端正な顔には、幾つもの傷ができている。

 だが、拓篤はDを鋭く睨みつけた。取り押さえられていなかったら。そして、チーマーB・Cの腕力が、こんなに強くなかったら、すぐにでも振り解いて、踵落としでも見舞ってやろうか、と思ったが−−。

 あいにく、体は抵抗ができないように強い力で抑えられていた。

 咳き込む拓篤に、Dは容赦なく右ストレートフックを叩きこんだ。

 「ゔっ」

 口を殴られた拍子で切ったらしい。

 口内にじんわりと、血の味が広がる。

 人通りが少ないからか。チーマーたちは調子に乗っているのだろう。

 通報される心配が、ないから。

 チーマーDが、髪を根本から掴まれ引っ張られた。

 「ふっ、いってえなクソ野郎が。」

 根本から掴まれているため、自然と相手を見下すような状態だ。

 「…てめえ!!」

 チーマーDが怒りで顔を歪ませ、手に持っていたナイフが、本格的に出動しようとした時だった。

 

 パシャっ

 

 霧峰が、スマホを構えて撮っていた。

 写真を。

 全員、あまりにも急な登場に固まっていた。拓篤も、呆然としていた。

 そしてチーマーDが何かを思い出したかのような顔をした後。

 何かを口走ろうとしたが、それはさらに、別の人物によって遮られた。

 「はいはいはーいっ!君たちぃ、今すぐ俺の大親友・拓篤くんを解放し、さらにそこでブルブル震えちゃってるポン太解放しないとぉっ!」

 高羽だ。

 高羽優希が、そこにいた。

 一息で喋るには、そこまでが限界だったらしい。すうっと再び息を吸った後また喋り出した。

 「今撮った写真をぉっ!ガチで!Twitterとか!インスタらへんに、投稿しまぁす!!」

 シン、と静まり返った。

 BとCは呆気に取られている。が、Dは違った。

 ニヤニヤした後、陽気なテンションでこう言った。

 「バカじゃねえの、脅しなんだろ?見え見えなんだよ!わかってるよなぁ、投稿したら−−」

 「男に二言は、ないのよん♪」

 ハハっと笑った後高羽は、霧峰に指示を出した。

 「そいじゃっ、霧たんやっちゃってー」

 「うん。どっちが良いかな?インスタかな?Twitter今過疎気味だし、やめた方いいかな?」

 「うーんとぉ…」

 サクサクと、進む公開処刑の準備にチーマーDは、怒鳴った。

 「てめぇら!ふざけんのも、いい加減にしろ!!殺すぞ、こいつ!」

 ヒタっと、拓篤の首にナイフを、当てた。

 霧峰・拓篤は青ざめた。

 チーマーDは、1人興奮した様子だ。というか、半分錯乱してしまっている。

 「殺しちゃったらぁ、貴方達お先真っ暗ですねーっ!」

 −−煽るのを、やめて!ヒートアップするから!!

 霧峰は、心の中でそう思った。

 チーマーが吠える。

 「そっ…それ!大東寺の、制服だろ!?バカだな、てめぇら!そんなのあったら、俺らがテメェらの学校に…」

 「クレームっすかぁ?ヒューっ」

 高羽の、超高火力の煽りは止まらない。

 みなさま、このような行為を真似するのはおやめください。命の保証はできません。

 「お前らみたいな、一発で反社ってわかるようなタトュー入れてる奴らとぉっ!俺らのこと、どっちを学校が信用するでしょうかねぇ?」

 「うるせぇっ!こっちに」

 「『決まってんだろぉあ!』っすか?こっちには、物的証拠あるのお兄さんたち忘れてにゃい?」


 高羽が、チーマーたちの注意を逸らしている間、霧峰はポン太を素早く回収した。

 チーマーたちは、一斉に狼狽えた。

 霧峰は、ポン太を安全な場所に移動させた後、警察に通報をする。

 −−大丈夫、安心して。リラックス、フー。

 霧峰は、自身を落ち着かせた。

 ここまでは手筈通りだった。

 それにしても、高羽くんはすごいなぁ、バカなふりして意外と頭回りますやんっと霧峰は思っていた。

 『110』と、電話番号を押した。

 −−まさか自分が警察を通報するとは…。と霧峰は思っていた。

 こんな事件には、巻き込まれないと思っていたから。

 再び霧峰は、パーマのおばさまにお礼を言った。心の中で。

 『はい、警察です。』

 電話はすぐに繋がった。

 すぐに繋がらないんじゃないか、と思っていたから、少し安心した。

 霧峰は、警察に経緯を話した。

 心臓が激しく鼓動しているのを、感じながら。

 

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