依頼その2 前編 ポン太探すぞ!! 

 「ここに、いつも俺は居るっちゅー訳にゃのしゃ」

 旧校舎の、三階にある多目的室に、霧峰・高羽・拓篤の三人は来ていた。

 高羽優希は、有名なサボり魔でもある。つまり、彼はいつもここで、サボっているという訳だ。

 「…埃くせーな」

 拓篤が、雑多な廃教室を見ながら言った。

 「まあ、まあ。今回の依頼は、俺1人じゃ、こにゃせません!ので、君らに助けを求めました!」

 高羽が、得意げにそう言った。

 ところどころ皮が剥がれているソファに、勢いよく座る。

 −−助けを求めたというより、誘ったの方が良くない?そっちの方が、合ってるくない?と霧峰は思った。

 霧峰は、口を開いた。

 「その…肝心の依頼って?」

 「ポン太。」

 帰ってきたのは、それだけだった。

 霧峰・拓篤の頭の中は、ハテナマークで埋め尽くされる。

 拓篤が、聞いた。

 「何、ポン太って」

 「犬の名前だしょん」

 「その犬が、どうしたんだよ」

 高羽は、床に置いてある段ボールから一枚のビラを出した。

 そのビラには、トイプードルの写真と、ポン太という名前が印刷されている。

 そして下の方には、『探しています!』とデカデカに印刷された明朝体の、文字。

 −−大体は、察した。

 「飼っている犬が、3日前から行方不明なっちゃったんだって。」

 「…まじか」

 拓篤が吐き出すように、言った。

 「まじまじ卍(まんじ)」

 −−一体全体、何年前のネタをやっているのだろうか?と霧峰は思った。誰も知らないようなネタを、するとは…。

 彼の度胸が、並大抵ではないことを、認めよう。

 「早速!今日の放課後からあ、探しましょうい!」

 高羽が、そう言ったことで一旦、今日はお開きになったのだった。

 

 拓篤は、ガシガシと頭をかきながら小言を一言言った。

 「…くっそ、面倒くせえ」

 「でも、なんか楽しそう」

 妙にウキウキしている霧峰を、拓篤は少し引いたような目で見た後

 「まじ?」と言った。

 「…え?」

 霧峰は、足を止めて拓篤の方を見る。

 少し拓篤は、ドキッとしたのを感じていた。

 「いや。だって、放課後街中駆け回るんだよ?トイプドールの、…えと、なんだっけ」

 「…ポン太?」

 「そう、それ」

 −−それって言う言い方はどうなの…?と、霧峰は思ったが、流した。

 今は別に、それに構うべきでは、ないと判断したからだ。

 「高羽くん、よく飽きないよね。ずっと旧校舎で、サボってるんでしょー?」

 「…らしいよな。」

 締まりがイマイチ悪い返事だった。

 −−そんなこと、俺に聞いたって…。

 と、拓篤が思った時だった。チャイムが鳴ったのは。

 「やべっ、走るぞ!霧峰」

 「…次なんだっけ、授業」

 「言文」

 「やばい、学年主任じゃん!」

 −−2人は廊下を精一杯走ったのだった。霧峰と、高羽の表情は清々しかった。


 放課後。

 商店街・榴ヶ谷商店街にて。

 商店街にいる人々の−−主婦・サラリーマン・八百屋の店主・肉屋の店主・薬局の息子−−。

 様々な人たちの目線が、とある3人組を見ていた。それくらいに、その3人は目立っていた。主に、1人のせいで。

 「すみまっせぇーーんっっ!!このビラにあるぅっ、『ポン太』知りませんかーー!知ってる人いたらぁぁ!!声かけてちゃーーーんっっっ!!!!」

 霧峰は、思った。

 たった今思った。

 −−うるさっっ!!と。

 だが。そんな霧峰のことは、知らないとでも言うように、お構いなしに。

 続けた。

 「すみまっせぇーーんっっ!!」

 「黙れ、一旦黙れ高羽。」

 拓篤が、痺れを切らしたため、静かに。だが、怒っている−−ということが一発でわかるような声色で、言った。

 彼も、目線がいたいと感じているのだろう。

 実際−−3人は、今白い目で見られているのだ。白目で見られているというわけでは、ない。それでは逆にホラーだ。

 「すみまっせぇーーんっっ!!」

 「おい、こらぁっ!てめぇっ、るっせぇーんだよ!黙れよ」

 −−怒鳴らないでもらっていいかな?と霧峰は思った。

 「わーおっ!にゃに、にゃあに?お兄さん元ヤンとかだったりぃ?」

 煽る。

 高羽が、キレた拓篤を面白がって煽った。

 −−煽るな、やめて!今すぐ、煽るのをやめて!!と、霧峰は再度思った。

 拓篤は高羽を睨んだ後、何も言わなかった。彼も気づいたのだろう。

 −−自分のせいで、またかなりの人の目線を、集めてしまっているということに。

 群衆を、睨み舌打ちをした後−−特に高羽に殴りかかったり。向かっていったりせずに、拓篤はポン太探しに行った。

 「じゃーな」という言葉だけを残して。

 霧峰は、拓篤のその背中が、寂しそうに見えていた。


 拓篤は、気分が悪かった。

 実に気分が悪かった。ここ一悪い−−と言っても過言ではない。

 発散したい、とさえ思っていた。

 「−−っそが!向いてねえんだよ、こーゆー地道系!」

 腹立たしいから、拓篤は路地にある小石を蹴った。

 −−蹴っちゃうと車にあたっちゃうかもしれませんから、蹴らないでね!危ないからさ!

 昔−−と言っても小学生の頃だっただろうか?確か、まあそれくらい。

 の、担任の先生に言われたことが、頭をよぎった。それに対しての、拓篤の返答は10年経った今でも、全くもって!変わりません!!せーのっ!!

 −−知るかバーカ!!

 の、一択のみである。

 気に入らない。

 陽キャとして、自分を偽ったら友達ができたし、社会に適応できたのか−−と思い、有頂天になり、結局何も変わっていなかった自分が。

 自分を、曝け出して楽しそうにしている高羽優希が。何より、高羽といると笑顔を見せたり、楽しそうにしている霧峰が。

 そして、自分の気持ちに気づかない、霧峰が。

 下を向いて歩っていた拓篤の耳に、不意に笑い声が聞こえた。

 聞くに耐えないような、下劣極まりない笑い声が。

 …昔の俺みたいな声で笑いやがって。そう思いながら、顔を上げた拓篤は目を見開いた。

 口元が自嘲気味に笑った拓篤が、ポン太を見つけたのは。そして、そのポン太が。

 チーマーたちに攫われているのを、見た拓篤が、暴走するのは今は一旦。関係のない話。


 「…拓篤くん、行っちゃった…けーどぉ、良いの?追わなくて」

 再び、商店街。

 霧峰が心配そうな目で、高羽を見た。

 「良いの、良いの。あーゆー輩はきっとケロッと帰ってくるんですのよん」

 相変わらずふざけている。

 霧峰は、少し頭に来た。

 「あのさ、別に私は−−」

 霧峰が、そう言った時だった。

 パンチパーマーの虎柄の服を着た、いかにもふくよかな体型をした、サンダルを履いたおばちゃんが走ってきたのは。

 そして、衝撃的なことを言ったのは。

 「あんたら!あんたら、3人でいたんだよね!?もう1人の、男子と3人で!!」

 かなり息を切らしている。

 何があったのだろうか−−?霧峰は、少し嫌な予感がした。

 「はい、いましたけど」

 ヤケに冷静に返す高羽に、霧峰はギョっとした。

 −−あれ?高羽さん君、そんなキャラでしたっけ?あっれれー?あっれれのれー?

 「乱闘してんのよ!そのもう1人の男子が!君らの探してた犬巡って!4人くらいのチーマーと!!」

 「「は?」」

 2人は、耳を疑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る