依頼その1 中編 悩みは、ためこまないことが大事

 その日から。

 その高羽と、拓篤のゲームに勝手に巻き込まれた霧峰の日常は、今までとは明らかに違っていた。

 それは、今までの日々が静かだったのを再認識させるほど。

 まあ、つまり、要するに。

 −−高羽優希が、悩みを聞き出すために、なんかずっと話しかけてきて、うざい。ということだ。

 離れてください、あなたみたいな変人が、となりにいると、いつもみたいに過ごせないじゃないですか!

 だが、言える訳ない。そんなこと。

 言ったら−−どうなるか…。

 そんなことを、霧峰は考えていた。

 「ねー、ねー、やっぱ霧峰さんの悩みって、部活とかに影響ある感じぃ?」

 授業間の休み時間に、堂々と来るな!やめろ!!と、霧峰は思っていた。

 霧峰は息を吐いた。そして、高羽に向かい合った。

 「あのさあ。」

 「んにゃ?あ、やっと話す気になってくれたかにゃあ?」

 −−この男は!

 霧峰は、静かにキレた。

 「付きまとうのやめて。じゃあ、そーゆーことだから。」

 高羽は、霧峰に気押されているのか。何も言わない。

 黙ったままだ。

 追っても来ない。

 まさか、諦めたのか?

 そんな感じで思考を悶々とさせながら、霧峰は、トイレに向かった。どこトイレ−−ですって?失礼な、選択肢的に女子トイレしかないでしょうが!!

 霧峰は、イラついた調子でトイレに入った。わーお、陽キャたちに普段はビクビクしてるのに、今日は構わずトイレにストレート、イン!っすか。

 何か、おありで?お嬢さん。

 霧峰は、勢いよくトイレの個室のドアを、閉めた。そして、鍵もかけた。

 高羽は、うざったいが。

 話したら、付きまとうのをやめてくれるだろうか?それに、自分はそろそろ誰かに、相談したかったし−−。

 ここまで考えて、霧峰はやめた。

 バカバカしくなっていた。

 霧峰は、ドアを開けて授業に参加するために、教室へ戻ろうとした。 

 が、それは叶わなかった。

 いたからだ。

 目の前に。

 「俺が、潔く諦めたと思いましたかーん?残念っ。そんにゃ訳にゃいのでーす」

 高羽優希が。 

 −−なんだ、こいつは。ナチュラル・ボーン・ホラーか何か?

 霧峰はまたため息をついた。

 「あのさ、退いて。教科書取りたいんだけど」

 「いやだっちゃ」

 −−こいつは!!

 霧峰の、怒りが頂点に達した。が、それをなんとか押さえつける。

 霧峰は、真っ先にロッカーの中にある教科書を取り出した。

 確か今日は、喪井先生ではないはずだ。と霧峰は思っていた。

 喪井伊月。

 霧峰が、部活を休部するきっかけを作った張本人である。

 1年間我慢したのだが、2年になってからは我慢の反動からか−−。

 体の拒絶反応がすごいのだ。

 行きたくないから、休部しているのだ。

 「憂鬱そうだにゃん」

 霧峰は、諦めた。

 諦めて何も言わず、ただ黙って音楽室に行った。

 「あっ、ちょっち待ってよ!霧峰さん」

 階段を上がる足が、重かった。

 だが、大丈夫。

 喪井伊月は、確か今日は休みだったはずだ。

 だから、今日は代わりの先生のはず。

 −−だから霧峰は今日の、音楽には参加したのだ。

 嫌な予感はしたのだが。

 そして。

 つくづく、嫌な予感というのは当たるものだった。

 喪井伊月が、居た。

 「あ。」

 「ッ」

 「霧峰。お前いつになったら、部活来るんだ?みんなに、迷惑かけてる自覚あるのか?」

 うるさい。

 霧峰は、視界がクラクラした。

 高羽が音楽室前に来たのが、わかった。

 何ごとかと、様子を伺っているのがわかる。

 「…すみません。」

 「申し訳なく思ってるならさあ!来なさいよ、部活に!!来て、みんなにちゃんと、話しなさいよ!!」

 高羽が、顔を顰めたのをわかった。

 理子が心配したのか、音楽室内から様子を見ている。

 拓篤は他の一軍男子とくっちゃべりながら来たのだが、やはりこちらも。拓篤は霧峰を見ていた。

 心配だから。

 「すみません、」

 「すみませんって言えばいいって、問題じゃないんだよ!!」

 喪井が、声を荒げた。

 やばい。

 やばい、頭がクラクラ−−。貧血か、何かっすかあ?こんなタイミングでえ?今じゃあなくない?

 視界が、反転した気がした。

 「霧峰さん!!」

 「霧峰っ!?」

 「涼華ちゃ−−!!」

 三者三様の反応がされた。

 −−あ、今自分倒れた?

 霧峰は、目を覚ました。

 本当にすぐに。

 見ると、理子はもちろんのこと、高羽・拓篤も霧峰のことを、心配して駆けつけている。

 喪井は、いなかった。

 姿が見えない。

 「あれ、私−−」

 霧峰は、上体を起こした。そしてすぐに、音楽室に行こうとした。

 「授業、行かなきゃ。単位が…。」

 ふらつく足で、なんとか立ち上がり音楽室に入ろうとする。

 が。

 「霧峰さん、保健室行こう。少し休んだ方いいんじゃなーいの?」

 少し真剣で、少しふざけた調子で、高羽が言った。

 「…でも」

 「大丈夫だよ、保健室行ったってこと。先生に言っておくからさ。」

 理子が、笑顔で言った。

 「…わかった。」

 確かに、疲労が溜まっていた気がする。霧峰は、高羽に連れられる形で。そして、拓篤が付き添いという形で。保健室に向かった。

 

 「うん。ストレスだね」

 前髪を七三わけにし、長い髪をひとつ結びにし、しゃりっとしたメガネをかけた白衣を着た保健教医・早苗田が、そう言った。

 「…は、はぁ、そうですか。」

 「まあ、ゆっくり休みなさいな。…で。」

 早苗田は、霧峰に優しくそう言った。

 そして。

 高羽・拓篤の2人を見た。早苗田の目に、2人は完全にサボりのように、見えていたのだろう。

 まあ、サボりである。

 付き添いとは言え。

 「あなたたちは?どこか悪いところあるの?」

 「いいえ、ないです」

 「にゃいのでぇーっす!」

 早苗田は、ため息をついた。完全に、ダメだこりゃ。判定である。

 わあ、ダメ判定押されちゃったね!残念、残念!!

 早苗田は、「ちょっと、教員室で昼の職員会議あるから。少し空けるね」と、言うと保健室を出て行った。

 保健室は、霧峰・高羽・拓篤の3人だけになった。

 霧峰は、迷った。

 話すか・話さないか。どうしよう?と。

 なぜ、自分が倒れてしまったのか、その理由を。

 霧峰が、悩んでいることを。

 「あっ…あのさ…!」

 霧峰は声を出した。

 −−話そう。もう話してしまいたい、と霧峰は思っていた。

 「なんで、私が倒れたのか…とか、昨日の悩みとか、話すよ!」

 「…。」

 「…霧峰」

 拓篤が、心配そうに霧峰の名を、呼んだ。

 高羽は黙って霧峰のことを、見つめている。

 そして、霧峰はぼそ、ぼそと話し始めた。

 「私…ね。喪井先生が、怖くて…やばいの。なんか、一年の時は我慢できてたんだけどさ。…なんか、二年になって。…それで、体とか」

 話しながら、なんか涙が出てきていることに霧峰は気づいた。

 鼻を啜った。

 「体が…も、限界なのかな?…わかんないけどさ、…それで。音楽室行くだけでも、胸苦しくなるし。喪井先生と会って、話すだけで貧血とかでぶっ倒れそうに、なっちゃうの」

 高羽・拓篤は黙って聞いている。

 2人の目は、とても優しかった。

 「…別に、人間関係がーってわけじゃないの。…ホラ、理子ちゃんも吹部だし」

 そして、霧峰はもう話せなくなってしまった。泣いているのだ。


 拓篤は、心を痛めた。

 霧峰が、泣いている理由はわかった−−辛すぎて。きっと、きっと。

 仲間たちとの距離を、感じて。自分が弱いと言う事実を、受け入れたくなくて。

 だから、泣いているのではないか、と思った。

 「拓篤ちーは、にゃんかにゃいの?悩みとか」

 高羽が、そう聞いてきた。

 「悩み?」

 「しょっ」

 拓篤は、考えた。そして、少し考えた。

 −−正直に言うと、拓篤はこのとき忘れていた。便利屋に入るか・入らないかを賭けたゲームの期限内であると言うことを、すっかりきれいに、忘れていた。

 「好きな子が、なんか悲しそうにしてること…?あと、全然気づいてくれなさそうなこと。」

 拓篤は、真剣に言った。

 言ってしまった。

 高羽は勝利の笑みを、披露した。

 「…てめ、何笑ってんだよ?」

 「悩みを知ったなり。俺が一歩リードしたっちょ」

 ニヤニヤしながら、高羽は言った。

 高羽を見た後、霧峰を見た。

 そして言った。

 「2人の依頼を解決しちゃったらあ、後はちみらに、便利屋入ってもらうっちょ」

 −−へいへい、オニーサン。何あっさりと、自分の悩み教えてるんですか?

 拓篤は、「あ」と言った後、発狂した。

 それはうるさかった。

 「ああああーー!!!!」

 「あっ、やっちゃった…。」

 「保健室ではぁ、お静かに願いまぁーすっ!!」

 保健室が、一気にうるさくなったのだった。

 

 

 

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