第2話



_______ 不思議な人だと思った。

まるで初対面じゃないみたいな、昔からの知り合いだったみたいな、そんな感覚だった。




高校に入学して、1ヶ月が経つ。

周りは大体グループが出来上がりつつあって、先生が来るまでの朝の時間を各々楽しそうに過ごしている。


そんなざわざわと騒がしい教室の中で、私は今日もひとりぼっちでなんとなく窓の外を眺めている。


理由はもちろん、自分のせい。


よく怖いと言われるギョロリとしたつり目に、人を寄せ付けない態度。極めつけにはこの鮮やかなオレンジ色の髪。


何度か興味本位で声をかけてくる人はいたけれど、私が適当にあしらっていると、最初の1週間以降私に話しかけてくる人はほとんどいなくなった。


そう、" ほとんど " は。


「夕陽〜、はよ。」


名前を呼ばれたことに驚いて、窓の方を見ていた視線を教室内に向ける。


背が高く、程よく筋肉がついた運動部らしい体格に、とろんと垂れた目が可愛らしい甘いマスク。その顔になんとなくアンバランスな坊主頭の男が、私の方にヒラヒラと手を振っていた。


「、、、旭、おはよ。」


「あのさー、もう1月ぐらい経つんだからそんなびっくりしないでもらえる?」


なんて笑いながら彼、田島旭は私の後ろの席に座った。


「、、、だって私に声かけてくるやつなんて、旭ぐらいしかいないから。中学でも誰も話しかけて来なくなったし。」


そう言うと旭は、軽くははっと笑った。


「話しかけられんの嫌だったら言ってね、やめるし。」


その言葉に驚く。

今まで人から声をかけられる時は大体興味本位だったり、からかい目的だったけど。

旭は普通に " 友達 " として話してくれてるのがわかるから、嫌じゃない。

むしろたぶん、旭から無視されるようになったら、寂しくなるんだと思う。


「、、、やじゃない。喋って。」


そう返すと、旭は一瞬びっくりしたような顔をして、それから


「うん、喋るよ。楽しいしね。」


いつも少し眠そうなとろんとした目を最大限にまで垂らしながら、にこりと笑った。



彼、田島旭。


入学式の朝、たまたま出会って、たまたまお互いの名前と名前の由来が似ていることを知った。


ただそれだけで終わると思っていたのに、クラス発表を見に行くとまさかの同じクラス、しかも出席番号が前後なことがわかって。こんな偶然あるんだね、なんてまた2人で笑った。


クラスの集合場所にそのまま旭と向かうと、クラスメイトになるであろう人たちが一斉にざわざわと話し始めた。


てっきり私のオレンジの髪にざわついているのかと耳をすましてみたら、どうやら皆旭のことについて話しているらしかった。


「バスケ部の特待生」とか、「中学時代大会で優勝したチームにいた」とか、「かっこいい」「イケメン」「スタイル良い」「タレ目かわいい」「坊主なのギャップやばい」、とか、、、


「ねぇ、旭ってもしかしてすごい人?」


こっそり声をかけると、旭は無言でにこりと笑った。なんだか少し寂しそうな笑顔だった気がしたけど。


「俺も夕陽って呼んでいい?」


なんて言うから。私は勝手にすれば、と可愛げのない言葉しか返すことができなかった。

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