第2話  ともだち


火星の表面はとても冷たい

空気もとても薄くて

そこで生きていられる命はない


でもね荒れ果てた岩の大地の上に

ひとつだけ動いてる影があった


キロー……トットット

キロー……トットット

カシャンコカシャンコ


某国の火星探査機パーシー

見わたす限り誰もいない大地の上で

ひとり懸命に動いて

土を採取したり写真を撮ったりしてる


でも通信機器が故障してしまったので

どんなに頑張っても地球にデータや写真を送ることが

出来なくなってしまった

つまりパーシーは失敗した火星探査機


某国はその失敗を誰にも知られたくなかった

だからパーシーの火星探査もパーシー自身も

初めからなかったことにしてしまった

つまりパーシーは見すてられてしまったんだ


パーシーはそんなこと知らないから

毎日毎日一生懸命土を採ったり写真を撮ったり

広い広い大地にひとりぼっちだけど

さびしくはなかったさ

AI の頭脳を育ててくれたメアリーが

自分の中にいてくれてるような気がしてた

だから太陽からのエネルギーを使って

頑張って動いていたよ


キロートットット

キロートットット

カシャンコカシャンコ


そんなある日

火星に来てから初めて見るものが

パーシーの前に現れた


6本の足の先に小さな車輪

太陽電池の翼を広げ

上に伸ばした首の先に大きな目玉


グロックグロック

カリカリカリ

クラッチョクラッチョ


そいつもパーシーと同じように

びっくりしたように大きな目玉を

こちらに向けている


パーシーはAI の頭脳を使って

そいつに話しかけてみた


きみはいったい何者?

誰もいないはずの火星にいるなんて


そいつから

パーシーの言語に翻訳された返事が返ってきた


わたしは〇○○の火星探査機マリーナ

色んな部分が故障して地球に連絡できないし

位置を把握する機能も故障してしまって

つまり道に迷ってしまったの


きみも故障しちゃったんだね

ボクもだよ

ボクは○○○の火星探査機パーシー

ふしぎだね

こんな広い広い火星の上で出会えるなんて


ほんとね

わたしも

誰かに会えるなんて思ってなかった


ふたりはすぐにともだちになった

ずっとひとりぼっちだったから

お話しできることがうれしくて


パーシー、あなたは誰に言葉を教えてもらったの?


メアリーだよ

いろいろ教えてくれた

仕事に関係ないこともいっぱい

メアリーはボクと話すのが好きだったみたい


そうなんだ

わたしの先生はアナスタシア

やっぱりいっぱいお話ししたわ

夜こっそりわたしの前に来て

愚痴をこぼしたり

楽しい先生だった

わたしアナスタシア大好き


ボクもメアリー大好き

もう一度会いたいな


でもそれはできないみたいね

あなたもわたしも


でもボクは君に会えたから

ほんとうにうれしいよ

もう誰にも会えないと思ってたから


わたしも同じだよ

わたしたちもう

地球に帰ることは出来ないのかもしれない

でも あなたに会えたからさみしくない

ずっとともだちでいようよ

動けなくなってしまう日が来るまで




それからふたりは

いっしょに

青い夕焼けの広がる空を見上げた

ふたりとも知っていた

その夕焼けのあとに


青い

うつくしい

星が現れること


ふたりは

だまって

そのうつくしい星を見ていた


きれいだね

ぼくたちのふるさと


あんなにうつくしい星は

この宇宙の何処にもないと思うよ


ほんとね

わたしたちを作った人間たちも


ここに来て

いっしょに見てほしいな


この


たったひとつの


たいせつな光り




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