第3話 あめ
オレ 雨なんさ
夏の空気と秋の空気の
前線ができてもうて なんちゃらかんちゃらで
このにほんれっとうとかいうとこ(どうでもいいけど)に
ばわわわわと発生してぞわわわわと落ちていくんだわ
下では大騒ぎしてるらしいけど
オレひとりの責任じゃないししゃあない
まあどうせ ばぁっとできてぶわぁっと一瞬で消えるんだ
思いきり落ちてやる
だけど オレ
どうもちょっと生まれるの遅かったみたいで
もうゴッツイ雨の時期終わってしもうて
なんか 秋のショボい雨タイムになってしもうたらしい
う~ん……なんかなぁ~と思いつつも
いつまでも空にいられない
しゃあないから落ちていったよ
下界はもう夜で
オレたち秋の雨がサラサラ降り始めてる
傘してる奴してない奴いろいろで
みんな足早に家に帰るところだな
オレが落ちてゆく先には大きな木々が見える
街中の公園なのかな
ひと組の男女が向かい合って立っている
女の方が男を睨みつけて叫んだ
「もう…ホンっとハッキリ言ってやる!
ダイっ嫌い!ホントに嫌い!最悪!
あんたなんかに出会うんじゃなかった!」
叫んでる女は40もとうに過ぎてる感じ
傘さしてないからよく分かる
染めもしないのに勝手に茶髪になってる髪
派手な紫のブラウスに白のカーディガン
赤茶けたスカートに高いヒール
男の方もてっぺんやばいぞぐらいの年で
耳ホジホジしながら黙って聞いてる
「もう!あんたとは会わない!絶対!
もう連絡してこないで!もうお別れよ…」
女はくるりと背を向ける
男も黙って頷き背を向けた
でも
男はポケットに手を入れて振り向いた
「あっ、そうだった。この前ちょっと借りた
おまえの〇ビットカード。返すよ」
「あっ!そうだった。それは貰っとかなきゃ」
女も振り向いて近づき手を差し出した
その時だった。雨粒のオレが落ちていったのは
オレが落ちたのは
女の左の目
オレはマスカラをすこし溶かし
街灯の光を受けとめて
下に つつつ とながれおちた
男の目がオレを見ている
音が消えた
…………………………
男はガバっと女を抱きしめた
「な………何?………」
「お、俺、やっぱり、お前を放したくない!
お前なしでは生きていけない。お前だけ……
お前だけを見てるから…………もう一度……
もう一度やり直してほしい…………」
「…………………………………」
今度は女の目から本物の涙があふれてきた
先にいたオレを飲み込んで下に流れていく
後から来たオレの仲間の雨たちが
静かに二人を包む
二人は、しばらく抱き合っていたけれど
男が自分のジャンパーを女にかけてやり
その肩を抱いて、同じ方向へ歩き出した
ん———………………………
オレ、なんかやらかしたんだろうか
よく分からない
でも、いいや
なんとなく
うまくいった雰囲気だし
カゼひくなよ
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