英雄、森へ

第5話 「一安心」はわかりにくい隠しフラグだと思う

ゴブリンの群れが退散して以来、セーリアの街は平和を取り戻したかに見えた。

しかし、タロウの心には、拭えない不安が渦巻いていた。


(ゴブリンが街の近くまで来るなんて、今までなかったのに絶対におかしい。どこかに集落でもできたんだろう)


タロウは、何か情報を得ようと冒険者ギルドへ足を向けた。

ギルドに足を踏み入れると、ひしめく冒険者たちの熱気と、古びた木材の匂いが鼻をつく。

その中心にある掲示板に、新しい依頼が張り出されていた。


「これだ……」


タロウの視線は、他の依頼とは一線を画す、真新しい依頼に釘付けになった。




【緊急依頼】ゴブリンの群れの発生源調査

目的: 森の奥に存在するであろうゴブリンの集落を発見、規模と戦力を調査する。

調査隊: 普段から森の奥に行き慣れているパーティー、そして身軽で斥候の役割を担えるソロ冒険者数名で構成予定

詳細はギルド職員まで




タロウは依頼文を読みながら、身軽さを売りにする自分にはうってつけの依頼だと思った。

能力を使えば敵に見つかることなく偵察ができるだろう

そう考え、具体的な話を聞くために受付へと足を向けた。





一方、街の兵士たちは、引き続き街の防衛に徹することになったようだ。


(襲撃の時はあまりにもひどい有様だったからなぁ…。)


あの惨状を見た誰かが森に行かせても足手纏いにしかならないことを悟ったのだろう。

泣き崩れていた兵士を思い出すタロウは防衛の判断を下した誰かに内心で拍手喝采を送った


ボブも当然、街で防衛にあたることになる。

自分のせいで英雄扱いされているのに、森に行って死なれたんじゃ寝覚めが悪すぎると思っていたタロウはほっと息をついた。

そのまま依頼を受注し、準備のため街へと足を向けた。


(これで、ボブが危険な目に遭うことはない。)


タロウは心の中で安堵した。

心当たりのない英雄扱いは居心地が悪いかもしれないが、まんざらでもなさそうだった顔を思い出しそんなこともないかも、と思い直す。


彼の任務はあくまで街の防衛だ。安全な場所で人々から喝采を浴びていればいい。

もしなにかあったとしても命の危険を冒してまで英雄を続ける気はないだろうと。

この時までは、タロウは心からそう思っていた。



ボブが予想の遥か上をいく流されやすいお調子者だと知る由も無かったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る