第6話 嫌な予感ほど当たる

調査出発の前日、広場には異様な熱気が立ち込めていた。


何事かとタロウが足を止めると、中央に設けられた壇上に、威厳をまとった領主の姿が見える。どうやら、何か発表があるらしい。


「ゴブリンの襲撃関連の話か…?」


わずかに眉をしかめたタロウは好物の焼きたてパンを一口頬張る。

もちもちとした生地とバターの香りが口いっぱいに広がり、わずかに気分が和らいだ。


その時だった。


「では、この度の調査隊に、特別な援軍を派遣しよう!」


領主の声が、集まった人々の期待を煽る。


タロウは嫌な予感がした。


そして壇上に一人の兵士が姿を現した。


「英雄ボブ殿! この街の危機を救った貴殿の力を、再び我々に貸していただきたい!」


領主の朗々とした声が響き渡る。




どうやら、ゴブリン調査が行われると聞いた領主が、街のためにと気を利かせたつもりで、英雄を調査隊にねじ込んだらしい。

本当に英雄なら、ゴブリンの集落を潰すのもさほど難しくないだろう。

だが、ゴブリンを目の前にして腰を抜かしていたボブである。とても戦力になるとは思えなかった。


(まあ、いざというときは……)


タロウは頭の隅で、再びボブをぶん投げることを思い浮かべる。

それは、ボブという名の武器を、再び使うことを意味していた。


タロウは複雑な心境のまま、その場を離れた







そして迎えた出発の日。


ギルドの重い木製の扉を開けて外に出ると、道行く人々がタロウたち冒険者と英雄の姿を見つけ、一斉に歓声を上げた。


「頑張ってください!」 「英雄様ー!」


人々は口々に英雄を称え、まるでパレードのように、タロウたちの後ろをついてくる。

人々は口々にボブを称え、タロウたちの後ろをまるでパレードのようにぞろぞろとついてくる。

投げキッスを送る若い娘や、涙ぐみながら手を振る老人の姿も見えた。

タロウは居心地の悪さを感じながらも、ただ黙って歩き続けた。


門の手前で、ボブが足を止める。

すると、周りに集まっていた人々が、彼のために道を開けた。


「自分、英雄ですから! 街のために、ここにいる冒険者の方々と力を合わせて頑張ってきます!」


ボブは胸を張り、得意げにそう宣言した。

その言葉に、街の人々はさらに大きな声援を送る。


「ボブ卿、万歳!」 「英雄様!」


町中の声援を背中に受け、タロウたち一行は森へと足を踏み入れた。

しかし、タロウの心は晴れなかった。


(そうはならんだろ……)


タロウは、ボブが一体どんな活躍をするのか、そしてどんなトラブルが待ち受けているのか、不安を抱えながら、森の奥へと進んでいった。

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実は僕がぶん投げました〜伝説の英雄、その正体はただの臆病者でした〜 @hepu

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