小説書き、あるいは将来職業小説家になるかもしれないあなたへ
涼風紫音
小説書き、あるいは将来職業小説家になるかもしれないあなたへ
こんなタイトルのものを目にしたくなったのなら、おそらく悩んだり挫けそうになったり凹んだり落ち込んだりしているのだろう。そうでないならたぶん読まなくて良いと思うので、さっさと自分の作品を書きましょう。
前置きはこのあたりにして、本題に進む前にいくつか断り書きをさせて欲しい。
1.小説の構造を知りたい
→さっさと市販の専門書へ。特にストーリー分析はアメリカが随一。翻訳もたくさん出ているのだから、それらを読め。安心して欲しい。ハリウッドでバンバン脚本量産している脚本家もバリバリ原作になっている小説家もだいたいそういうものを手に取っているし、なんならそういう私塾みたいなところで生まれている。
2.Web小説の流行りを知りたい
→さっさと他のテンプレ解説してる創作論を読め。合わせて浴びるようにテンプレ作品読みまくれ。流行りなんてものは今隆盛を極めているものが体現しているのだから、創作論なんかで悩まんでよろしい。
3.カクヨムで読まれたい
→カクヨム攻略法でも読んでくれ。断言するがここから先を読んだところで短期的なPVにも☆にもまったく寄与しないことを保証する。だからこの先は時間の無駄だ。さっさともっと効果的に役に立つものはいくらでも転がっているからそれを読め。そして書け。
さて、大半の人がここまでで読むのを止めているだろうから、ここから先はそれでもお前が何を書くのかを読んでみたいという酔狂な人向けということになる。
まずお前は何者なんだ? という問いに簡単に答えておこう。誰だってどんな奴が書いているかくらい知りたいもんな。
私は今のところベンチャーで管理職をやっているまあまあ忙しい社会人だ。なお転職回数はアホほどあるので気にしないこと。知らないうちに別の仕事に移っていることもあり得るのだが、世の中そんなもんだ。
ついでに大学に入り直し今は大学院生でもある。文芸系の通信課程でそれなりに基礎からやり直していることになる。なお大学では卒業制作は一応良かったらしく、新入生募集パンフレットに作品名が出ていたりする。院はまだ初年ではあるが、ジャンルとしては書けているとの講評も頂いている(取り組んでいるのはSF)。
小説創作に戻ってきたのはずいぶんとブランクがあり、大学に入り直してからリハビリを始めてWeb小説は今年からといった具合(もっとも長いブランクの前にも多少書いていた時期はある)。
お前の紹介は良いからさっさと本題に入れ? まあごもっともだ。本題に入ろう。
まず本稿における定義をしておく。そう「小説家」の定義だ。ここは大事なところなのでしっかり書いておく。本稿で小説家と呼ぶものはプロアマ問わず、物語を書いているすべての人間だ(AIは除く)。
何当たり前のこと言ってるんだ? と思った?
その感覚は大事だな。つまり、一作も手掛けていないという方を除けば、皆さますでに立派に小説家だということだ。
それがTwitter(X)の140字小説だろうが1000文字程度の掌編だろうが10万字100万字の大作だろうが関係ない。長さの問題ではなく、一作完結させたことがあるなら、あなたはすでに小説家だ。
公募だプロだという話はいったん忘れて欲しい。
☆の数もPV数も関係ない。そんなものゼロであっても小説家なのだ。まずそのことを忘れないようにしよう。
本稿の紹介欄に「悩んだ、凹んだ、そんな気分をビンタするだけ」と書いたのはつまりそういうことだ。
「小説家になれるのだろうか?」という問いに悩む必要はない。立派に小説家なのだから胸を張れ。
読まれる読まれないというのはもっと別の話だ。それは次に書く。
そろそろ離脱も多くなってきそうだが、多少は気分転換になっただろうか?
まず自分は小説家なんだ(それがアマチュアであれ)、という厳然とした事実――そうこれは事実だ――、そのことに振り返ることができたなら、また執筆する気分にもなるだろう。なるに違いない。
ここから先は正直もう読まなくても良いのではないかとすら思う。さっさと自作に取り組もう。それでももう少し付き合ってやっても良いかなという人がいるかもしれないので、ここから先は半分以上は余談だと思ってもらって構わない。
小説の書き方のようなものは市販の専門書を読めと冒頭に書いてはいるものの、そういった専門書で触れていない部分があり、それはプロットや小説構造の話ではない小説技法だ。
簡単に書くと段落冒頭は一字下げろとか「……」と二つつなげて書けとかそういうやつなのだが、これもウェブ上にいくらでも転がっているからGoogle先生にでも聞けば教えてくれる。
なんなら段落冒頭の一字下げはカクヨムのツールですら「本文を整形」という機能が用意されている。私は使わないが、逆に言えばそのくらい基本の基本だ。守っていなくても面白ければ良いというのは端的に言って奢りだ。基本ツールに実装されているくらいの記載原則を「知らない」というのは極めてよろしくない。
よろしくないという表現をもっと端的で乱暴な表現をすると「それだけで素人感丸出し」というやつだ。
これは私ならどんなに内容が面白くてもブラバしてしまうほど読みづらい。もっと読者のことをちゃんと考えよう。読んで欲しいんだろ? 読みやすさは大事だし、小説に限らず文章の記載技法というのは基本的に長年培われてきた「読む/書く」の試行の上に成立しているものだ。それだけ普遍的でもある。
まあ敢えて崩すのは良い。それを意図的戦略的にやっているのであれば、それはそういう作品なのだ。ただ知らずに野放しにするのは止めておけ。それだけでもだいぶ読みやすくなるのだから、ちゃんと一字落とせ。
さて、これで多少読みやすいものになるだろうし、少なくとも私という一読者が読むかもしれない可能性が高まったわけだ(偉そうですまんな)。
文章としての見た目がまあまあ整ったら、次に考えるべきは描写だ。小説とは描写の芸術だ。世界観や人物設定その他、いろいろなものを説明したくなる気持ちはわかる。それを知ってもらえれば楽しんでもらえると思うのも気持ちとしてはわかる。
だがそんなものは最初から間違っている。説明ではなく描写しよう。刊行本であれWeb小説であれ、冒頭で読者が逃げたら二度返ってくることはまずない。「だから全部最初に書く」それが間違いだ。
徹底して削れ。冒頭にあるべき情報は最低限にするか、そうでなければコンパクトに描写しよう。
こういう世界でこういう時代でこういう生い立ちでこういう力を持っていてこういう行きがかりで云々。
それを説明で書くな。そんな説明文を読みたいやつははっきり言って小説読みじゃない。なんならアニメ本編を見ずにアニメの解説本や設定資料集ばかり読む人にとっては多少読まれるかもしれないが、大半はそんなものを求めていない。
そういう情報はおいおい小出しに出していけばよい。破綻しなければ、ね。異世界やSF系で多いな。説明文なんざ面白くないのだ。
説明文は興味を持ってくれれば後から出してもちゃんと読んでくれる。長く書きすぎなきゃね。後だしする場合でも長すぎるのは駄目だぞ。つまんないものを長々読んでくれるほど読者は暇じゃないのだから。
短編・掌編ほどこのあたりはシビアになるし、Web小説でも一話離脱が問題になるのはだいたいこれだ。まあ単純に面白くない場合もあるのだが、とにかく説明しすぎは止めよう。できるだけ描写でそれをやろう。
説明止めろと言われてセリフで全部やるパターンもちょいちょい見かけるが、そのセリフ面白くないからな?
断っておくが私もそういう形の掌編をいくつか書いているが、内容それ自体で興味を惹けると判断したもの以外ではやってない。形式ではなく中身の問題。
ここまで読んでいる人がいるとしたら相当な物好きだと思うのだが、読んでくれてありがとう。もう少しだけ書かせてくれ。
最後は自分の武器を磨くことが大事だと言わせて欲しい。それはジャンルかもしれないしキャラかもしれないが、私としては文体だと思っている。自分はどういう作風がしっくりくるのか。まずそれを探し出せ。そのためには数を書こう。
ハーレムでもスローライフでもチートでTUEEEでもいいしトラックに撥ねられて異世界に行くでもいいのだが、そういう作品としての「これ入れておけ」みたいな素材に手を出すのは文体が身についてからで構わないとすら思う。
それまではPVが閑古鳥だろうが☆が入らなかろうが、自分の武器を探し当てろ。
こればっかりは個人差しかないのだが、大好きな作家がいるなら全部書き写して身に着ける方法もある。句読点の入れ方一つで雰囲気は変わる。
あまりそういう機会は無いのだが、稀に感想をくれと言われることもあり、しばしば感想に困るものがある。
一番感想に困るのはこの「テンプレ」「王道」としての要素「しかない」パターンだ。よく勉強はしていると思う。しかし読ませる力がない。描写が多少下手だろうがセリフが多少くどかろうが、書き手としての強みを自分で理解していればある程度はゴリ押せる。
もちろん差別化のためにそれらの要素に変化を入れていくことも大事なのだが、一番肝心なのは「こいつの書くものは面白いぞ」と思ってもらえる何かを一つで良いから身に着けること。
テンプレ物、王道物はそれだけ多く書かれるし、刊行もされる。そんな中で一度でもページを開いた読者を掴めるかどうかは、かなりの程度文体に依存している。
もちろん展開や描写のうまさといったものも求められるのであるが、差別化できるポイントの一つは文体なのだ。これは一般文芸の世界だとかなり当たり前のように言われることなのだが、Web小説攻略法みたいなところではほぼ触れられない。
なぜならそれに正解は無いし、それこそ万人に万人の文体があるからだ。
一般文芸の世界で死ぬほど読んで死ぬほど書けと言われることの一つは間違いなくこの文体の多様性に触れて、自身の感性や相性の良いものをいかに見つけるかの手段がそれしかないからでもある。
こればかりは教えてどうこうではない、もっと根源的なものだ。そして根源的であるがゆえに、あなた自身の最大の武器になり、唯一の個性にもなる。
テンプレ王道物に手を出すのは、それから先で構わない。逆に言えば武器を持った状態で流行りの物が書けるなら、それだけで既に一定の水準にはなるはずだ。
これだけ偉そうなことを書いていながら、お前の作品は☆4桁もなければPV5桁もない雑魚じゃないかと思う人もいるだろう。それはそれで良い。
ただ一点、勝負の戦場はWeb小説だけではないことは覚えておいて損はない。Web小説で「今」流行りじゃないジャンルだからといって、それだけで作品を放り出す必要はもっと無い。
もちろん読まれたいよな。私もそうだ。
Web小説というのは残酷なまでに数字が可視化される。一人で監督も脚本も執筆も演出も宣伝もマーケティングもやらなければならない。はっきり言ってそれだけで十分地獄だ。
一定読まれるようになればそれ自体の数字が宣伝にもなるが、そうでなければ数多の読まれない小説と変わらない。
それでも、自分の生み出した作品をたった一人でも愛することができる人間がいるとしたら、それは他ならない書き手自身だ。もちろん、書いても書いても気に食わないということもあるのだが、それも愛憎半ばというやつに違いない。好きだからこそ粗も気になるし細かいところも突き詰めたくなる。そんなものだ。
とはいえ自分の作品を宣伝してくれる人を最初から期待すべきでもないし、自身でやれることをやるしかない。
現状Twitter(X)しかマスに届く可能性がある媒体は無いし、それもしょっちゅうアルゴリズム変更で有効な手法が変わってくるのだからそこまで追いかけるのは手に余る。
しかし宣伝でやれることは愚直に自作の魅力をたっぷりと語ることだ。生み出したその手と頭の中にある魅力を最大限語れ。物書きなのだから、言葉で語ろう。
逆はあまりオススメしないのはPVくださいというやつだ。私もやった時期はあるものの、客観的に見ればただの自己満足だ。
読者はPVのために読みにくるわけではないし、そんなものに付き合ってくれるのはせいぜいお付き合いの範囲でしかない。
なによりそうやって稼いだところで作品がつまらなければその一時の読者は二度は来ない。宣伝する前に武器を手に入れ、それを研ぎ澄まそう。
書く以上読まれたい。当然だ。誰だってそうだ。よほどのマゾでなければ一人にも読まれなくても良いという人はいないだろうし、もしそうならWeb小説でどうこう藻掻くのはさっさと止めた方が良いし、こんなものを読んでいないだろう。
果たしてこれが創作論なのかと言われれば疑問もあるのだが、エッセイ以上創作論未満といったところでご容赦頂きたい。
最後に一言、どれだけ不格好だろうが自己満足だろうが、少なくとも一作でも世に出せば、それで立派に小説家だ。
プロとアマの境界はあっても、その事実だけは揺るがせない事実であって、それこそ小説というジャンルの素晴らしいところだ。自身で恥ずかしくないと思うなら肩書に入れたって良い。
さあ、十分気合いは入ったか?
それではさっさと自作に戻ろうか。
小説は自分で書かないと続きも新作も無いからね。
小説書き、あるいは将来職業小説家になるかもしれないあなたへ 涼風紫音 @sionsuzukaze
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