私を形づくるもの


――――石のブロックが、落ちてきた。




あれは確か中学生の春のこと。

住んでいた一軒家のコンクリートのひさしが一部、劣化でごとりと落ちてきた。


幸い、家にいた家族に怪我はなかったけど。

誰かの頭に当たったりでもしていたら――。

コンクリのブロックを見つけた母の話を聞いた全員がゾッとした。


そして間も無く家を建て直す話が持ち上がり。

あれよあれよと家の設計、工期、間借りするマンションの用意が整った。



そして季節は夏を越えて秋に差し掛かった。



その年はやたらと台風の接近が多かった。

毎週のように台風がやってくる。


「嫌だなぁ、台風。よりによって、家を建て替える年が当たり年になるなんて」


私はタクシーの中から吹き荒ぶ外を眺めてこぼした。


天候が悪ければ、工事する人たちに身の危険が及ぶ。

だからそのたびに工事が休みになる。


それは分かっているが、やはりそれだけ完成が遠のくことには不満を抱いた。


そんな時。

私のつぶやきを聞いた、後部座席に一緒に座る母がほとんど間をあけずに言った。



「当たり年だから、きっと強い家が建つよ。

厳しい環境にさらされて、きっと丈夫な家になる」



私は言っている意味が瞬時に理解できなかった。

そして、その言葉をようやく理解して、じわじわと湧き上がる感情。


こみあげるものを吹き出すようにタクシーの中で大笑いをした。



そんな考え方があるとは思わなかった。


実際には台風で家が強くなることはないけれど、その言葉に母の前向きさを感じた。


悪い状況からいい点を探す。

視点を変えること。

発想を縛られないこと。


思い返すと、そんなことをその時に覚えたような気がする。

間違いなく私を形づくるパーツのひとつになった。


何年も昔の母の言葉は、いまも心の引き出しに仕舞われている。










——————————

最近、湊かなえの『母性』を読みました。


あたう限り――


母と子の通じ合っているようで読むほどに覚える違和感……。

今回も大変面白い作品でした。

そらあ、映画にもなりますな……。

俄然、そちらにも興味を持ちました。


次は何を読もうかな。

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