かんぴょう

北関東生まれの友人とテレビを見た。


『ハンバーガーの具材には、栃木の特産品が! さあ何でしょう?』


「かんぴょうしかないよ」


彼女の故郷。

友人は興味もなさげに言った。


『なんと、かんぴょう! 栃木は国内で98%のかんぴょうを生産しています!』


テレビのナレーションが正解発表した。


彼女の言葉に少しだけ冷めたものがあったのは、たぶん気のせいじゃない。


ふむ、あのランキングの弊害かな…


と、思わずにいられなかった。


――「藤だって、華厳けごんの滝だって、栃木はものすごい自然があるじゃない」


とっさに、そんなセリフが出そうになった。


事実、私は彼女の生まれ故郷に大変興味がある。

華厳の滝だって最高だった。


五感を刺激されたあの体験は、執筆の中にも生かされている。

満天の夜空のシーンを書いた時、思い浮かんだのは華厳の滝の圧倒的自然。


『気圧される』とはこういうことかと。

全身を震わせる泣きたくなる高揚。

指先まで襲った正体不明の不安感。

己のちっぽけさというものを身を以て体験した、強烈な感動。


あれから一層、北関東特集なんかも、楽しく見ている。


けどどうにも、彼女の故郷への興味が……意外と照れ隠しか?



でも、自然だけじゃない――――



「でも、栃木でかんぴょう98%っつったらオメー、栃木がかんぴょうの生産やめたら日本の冬は終わりだっぺや」


栃木生まれじゃないけど、喋りをわざとらしく真似てちょっと茶化した。


そしたら、少しのを挟んで彼女が吹き出した。

ちょっとイタズラ目な、ニヤニヤした顔をして振り返る。


「栃木がかんぴょうやめたら、おでんの巾着も閉じれねーぞー!」


「ンだ。かんぴょうないと、袋も閉じれねーっぺ!!」



『巾着なら代わりにつまようじ使えばいい』?

そんなセリフ、今はただ無粋だ。


かんぴょうは、冬のおでんを支えた功労者だっぺ。


もっと知りたい。彼女の故郷のこと。

ただ二人でゲラゲラと笑った。






――――――――――

都道府県ランキングの影響なのだろうか。

テレビ特集にあんま食い気味じゃないのは。


ランキングも、エンタメとしては盛り上がったかもしれない。

けどもっと日本全国みんなイイところがあるって、もっと未来に伝えてほしい。


きみの地元は素敵よ。

爆弾ハンバーグだって、美味かったんだから。

また行こうよ。




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