第9話 夫と愛人は慌てふためきオロオロ
「その後はどうなったの?」
イリスの兄にキレられてレオナルドはどうなったのか? エレナは同情的な視線を向けて聞いた。尋常でない情熱を注いでいる恋人の身を案じるのは当然のことだった。
「謝っても許してくれないし、シモンが本当に怖くて体が震えて……」
すでに過去の出来事であるが、レオナルドは恐怖心が腹の底からこみあげて不安を感じる様子で話した。全身が小刻みに震え出してその瞬間、戦慄が走り抜けた。
「もしかして漏らしたの?」
「う、うん。でも秘密だよ。恥ずかしいから知り合いに話さないでね」
レオナルドの口調から容易に察せられたが、エレナは真剣な顔になりじっと見つめ尋ねた。レオナルドは格好がつかない事をしてしまい顔から火の出るような粗相をしたと告白する。
その時の自分の状況を思い出した。穴があったら入りたい気持ちで情けない顔をしていた。レオナルドは恥ずかしそうに顔を赤らめて口元をおさえて、口外しないでエレナの心にしまっておくように注意を促した。
「そんな不名誉なこと誰にも言えるわけないでしょ!」
「そうだよね」
レオナルドから失禁したと聞かされたエレナは、鳥肌がたって心の中が極度に狼狽していた。重大な事実が発覚して末代までの恥だとエレナは思う。
世間体を気にして周囲に打ち明けられるわけないと、エレナはさらに怒ったような声で言った。レオナルドは少しはにかんだ微笑みを浮かべていた。
「はぁーっ、それでレオナルドは何か罰を受けたの?」
そんな事があったなんて知らなかったエレナは、複雑そうな表情で悲しそうなため息をついた。レオナルドへの愛がわずかに薄まった気分になり、寂しそうに見つめると気を取り直してエレナは質問を続けた。
「イリスへの謝罪文を毎日書いて送れと言われて、二ヶ月続けてどうにか許してもらえたよ」
許してもらえたとレオナルドは話すが、表情には不安の暗い影が浮かんでいた。妹のイリスに対して粗雑な扱いをしたと憤ったシモンからは、レオナルドに謝罪文の提出が課せられた。
謝罪の手紙は二ヶ月間も送ることを命令されて、レオナルドは不安な日々を過ごすことになる。手紙の謝罪の内容が気に入らないとシモンがやって来る。
イリスへの心がこもってないと直接お叱りの言葉をいただくことも多々あり、今思い出してもレオナルドの生活は生き地獄に近いものであった。
「お兄様にご指導いただいて何とか完遂することができました」
結局最後には許してもらいレオナルドは、シモンに心から感謝したい気持ちになった。イリスを愛するあまり無理な要求をしたとシモンは反省して、よく頑張ったなと言われるとレオナルドは急に涙が出てきた。
「弟よ。この胸で泣けばいい」
「はい! お兄様!」
顔を伏せて泣いていると妹と結婚して弟になるのだからと言い、私の胸で泣けと言葉をかけられレオナルドは何だか嬉しくなってシモンの胸の中で子供のように声を上げて大泣きした。
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