第2話 ヒノキーの性

【稲穂】

「話を聞いてほしいって、何故か頼られるのよねぇ。悪い気はしないからこっちも真剣に相談に乗るんだけどさ」


【柾】

「なんか人生ラクに生きてるっぽく見えっからそうなるんじゃなかろうか」


【稲穂】

「エー? 他人から見るとそうなのかなぁ……ラクぅ? うーん、深く考えたってしゃーないじゃん? だから毎日、フツーに過ごしてるだけなんだけど」


【柾】

「ナチュラル美人のクセにそんなだから人生余裕っぽく見えて、そういうところが頼られるんだろう。俺は頼らないが」


【稲穂】

「頼ってよ! そして『悔しいです!』って泣いて見せて! 一緒に花園目指そう? えっ、花園?」


【柾】

「タケベは世界観が昭和なんだよ……自分で言って自分で驚くな、怖ぇよ」


 自分で言ったクセにそんなこと言いましたっけ? ウフフとガソリン値下げ隊みたいな切り替えはさすが女、と柾は思った。


【稲穂】

「ナチュラル美人とか意味よくわかんないけど、英田が私を美人とか言うなんてびっくりー! ちょっと嬉しいカモ~、クソガキのくせにっ」


 教師が生徒の裏太股あたりを巻き込むようにベシベシ。


【柾】

「なんで蹴るんだよ。ほんと足癖の悪い女ばっかだわ……いいのは顔だけかよ。まともなのはおらんのか、ここには」


【稲穂】

「ヒノキーとかチョーまともじゃん。イケメンでスタイルいいし、頭もいいし、なんでも知ってるし! 私この前、新しいスマホの設定ぜんぶやってもらっちゃった♪」


【柾】

「なんで生徒にそんなことさせんだよ……」


【稲穂】

「だって機械とかよくわかんないしー」


 IT機器を機械というあたり、美人が困った顔したら誰か助けてくれたぬるま湯人生歩んできたんだなと柾は思った。口には出さなかったが。(稲穂のケリは加減知らずで、割と後引く痛さ)


【柾】

「八束だってあんな無表情だけど、裏じゃなにやってっかわかんねーぞ。実はサイコパスやもしれん」


【稲穂】

「あー、プライベート見えないのはわかるかも? 自分の事ぜんぜん喋らないし。そのくせ聞き上手♥ くーっ、そこがまたクールで女を惑わすのよねぇ。私もあんなカンジになりたかったなぁ」


【柾】

「黙ってるだけで勝手にイイ様にとってくれるんか……俺が黙っててもただのムッツリなのに、なんでだよ。顔か? やっぱ顔なんか?」


【稲穂】

「そらそうよ。若いうちは外見9割~」


【柾】

「どっかの球団監督みたいに言うな腹立つ。八束なぁ、あんま女を出してこないよな、そういえば」


【稲穂】

「ヒノキーさ、ベリショだから英田みたいなクソガキにはわかんないだろうけど、伸ばすとマジイイ女になるよ? 素が良すぎるから逆に気付かれないホンモノタイプ」


【柾】

「そうなの?」


【稲穂】

「うん。でもなんか、敢えてそうしてないっぽくない? そこよ、そういう媚びてないところがキュンときちゃう」


【柾】

「タケベが八束をお気に入りってだけじゃねえのそれ……スマホ設定してくれたから余計にだろ」


【稲穂】

「(ぎくっ)んなこたぁない。ま、英田とか他の子と比べていい子だから、私の中でヒノキーは高得点なのだ♥」


【柾】

「あんな無表情でロボみたいな奴だが、恋とかするんだろうか?」


【稲穂】

「女はね……恋してなきゃ女なんてメンドクサイことやってられないの!」


【柾】

「なんか勝手に女を代表して言い切りやがった……ふむぅ、八束が好きだの愛してるだのっての想像できんなー」


【稲穂】

「本当に男に興味なかったらどうしよう……私、ヒノキーみたいなカンジ"どストライク"なんだけど!」


【柾】

「しらんがな……男に興味ないから女に興味あるってのも変な解釈だよな。そういうコト全般に興味がないのかもしれん。あいつ頭いいから、そういうの邪魔って思ってるのかも?」


【稲穂】

「いやいや……女はけっこースケベですよお兄さん?」


【柾】

「ほう……(お兄さん?)」


【稲穂】

「男より女の方が心底ヤラシーと思うもん」


【柾】

「ドスケベ女教師が言うんだからそうなんだろうな」


【稲穂】

「いやん♥ ってドスケベ言うな! きっとヒノキーも……あんなことやこんなこと……」


 ウフフと宙空をうっとり見つめる建部稲穂。ちなみにこの学園の教員。


【柾】

「どんなことだよ! こっちはそれが知りたいんだよ言えよ! お客さんの気持ちも少しは考えろ!」


【稲穂】

「はー、なんかやたら気になってきた……"そういう時"、あの子どうしてるんだろ……」


【柾】

「ねえ、どんなとき? それってどんな時なの? それを男の子は知りてぇんだよ!」


【八束桧(やつか・ひのき)】

「是非、私も教えていただきたいのですが……」


 ふと後方で立ち上がった気配に驚愕する二人。

 無表情でボーッと立ち尽くす八束桧。


【柾】&【稲穂】

「え? ギャーーーーーーーーーーーーッ!?」


 いつからいたのとの問いに、


【桧】

「ガソリン値下げ隊がどうとか、のあたり? そのへんからお二人の話を興味深く伺っておりましたが」


【柾】

「ほぼ最初からじゃねえか……」


【稲穂】

「マジ気配無かったんだけど……」


 完璧に気配を消されていたので、動揺するしかない二人。

 こういうとき、やはり女は強い。

 別に私ィ、悪いこと言ってないしィ? みたいな態度の稲穂。

 一方、男はすぐビビる。なんか悪いことやってしまったと勝手に思い込む。


【柾】

「しまった、今日は地域ボランティア活動の日だった! 行かねば、俺の善意を地域が待ち望んでいる」


 颯爽と逃げていった柾を特に気にする事もなく、桧は


【桧】

「ヘアブローするとすぐ痛む髪質でして……乾かすの面倒なんで短くしてるだけですよ。昔は襟足もありましたけど」


 と、見返り美人よろしく後方を見ながら、細い指を襟足に添えるその仕草が、やたら女性のそれに見えた。


【稲穂】

「(やだ? やっぱこの子ステキ。イケメンがする女仕草やらしぃわ~♥)」


 と稲穂は思わず見とれる。

 一方、桧、


【桧】

「で、建部先生。そういうときとは、どういう?」


 無表情ガン詰めタイム開幕――ッ




その3 『女たちのムラムラ解消法』 につづく

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