イナホ先生のとある日常
三宅蒼色
第1話 逆ハーレムの素質
ある日の放課後。
英田柾は購買部前の自販機にて購入した紙パックコーヒーをチューチュー吸いながら、新聞部の部室にやってきた。
自分が飲むミルクたっぷりジュースとは違う、香ばしいホットコーヒーの香りをまず最初に感じた。
他の部員はいなかったが、勝手に顧問を名乗る不審な人物がいた。
その人物は建部稲穂という女教師なのだが、どういうわけか教員室は落ち着かないという理由で、ここ新聞部の部室に頻繁にやってきては愚痴をこぼす。生徒相手に。
【柾】
「なんだよ誰がいるかと思ったらタケベかよ。教師がサボってんじゃねーよ」
生徒が帰宅する放課後以降も、教員は仕事がある。むしろそこからが本番とも言える。
それをよく知っているだけに、柾は、整形外科医が卒倒しそうな格好で椅子に『ダル座り』する稲穂に言った。
腰痛上等で背を丸くしながら、神目楓あたりが持ち込んだ"背伸びティーン向け"ファッション雑誌を退屈そうに目で追っている。
ホットコーヒーの入ったマグカップをズズッとすするその姿は、遅い朝を気怠く過ごす日曜日のオッサンそのものでもある。
【稲穂】
「サボってないわよ。勉強中。最近の子の趣味とか知っとかないとー」
【柾】
「一瞥もせずサラリとそんな適当を言うんだから大したもんだ……」
余裕どころか、歯牙にも掛けない態度。心を許しているとも言えるが、教師がそんなことでいいのだろうかとも思う。
……ただ問題は、抜群のスタイルを持つ女教師がそんな格好しているものだから、角度によってはそれはもう、ドスケベグラビアに見えた。
身体のラインそのままが出るスーツにタイトミニ。なんと生足。そのポーズで少々ずり上がったスカートの丈が、柾の位置から見るとやたらエグい。
細いクセにバランスの良い肉付き。見えそうで見えない絶妙の脚線美。よもやわざとやっているんじゃなかろうか?とも思える程。
【稲穂】
「んー? なに神妙な顔してるの?」
空気の変化を感じた稲穂は、そこでようやく柾の方を見た。
【柾】
「いや……エッロい脚してんなーと」
【稲穂】
「おー?」
【柾】
「なんだよ、おー?って」
【稲穂】
「興奮した? キミは私なんかじゃしないか、むかつく~」
【柾】
「いや、したからまじまじと見つめていたわけなんだが……」
【稲穂】
「またまた~。変な気ィ使わなくていーよ。色気なんてないですよーだ」
【柾】
「スタイルイイのは間違いない。タケベのは健康的な色気だと思う」
【稲穂】
「それよく言われるんだけどさ、褒められてるのかな?」
【柾】
「そりゃそうだろ」
なら不健康そうな色気ってなんだ?と考えたら、すぐに奄美花梨のクソ眠そうな顔が浮かんできたから言葉は間違っていないんだろう。
【稲穂】
「健康的ねぇ……なにか特別な事してるわけじゃないし、運動はジム行って軽くするけど。それもせいぜい週イチよ? そもそもさー、キミの周りにいる子らがおかしいの」
【柾】
「あいつらの頭がおかしいのは認める。あと手癖足癖も悪い」
【稲穂】
「ヒノキーとかヤバくない? あの子、大学行ったら女王様だよ!女の子めっちゃ寄ってくると思う!」
【柾】
「そうなんかな? 八束ねぇ……男前なのはわかる」
【稲穂】
「大学まで勉強ばっかりしてた子の『コジラ性(こじらせる)』はヤバイわよ~、グイグイ来るんだから」
【柾】
「まるで見てきたように言う」
【稲穂】
「だってぇ……あやうく私もお姉様に目覚めるところだったわー」
【柾】
「ほう……詳しく聞きたい。主に、エロい部分を!」
とかなんとか言ってたら、気配を全く感じさせず八束桧がそこに立っていた時の二人の絶叫といったらそれはもう。
その2 『ヒノキーの性』 につづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます