第18話 氷の庭に咲く
城の回廊に、足音が響く。
それは幼き日の軽やかさとは違う、芯の通った足取りだった。
侍女たちは思わず息を呑む。
長く「子ども」としか見えなかった姫君が、今そこに――氷の宮殿にふさわしい威厳を帯びて立っていたからだ。
ライトゴールドの髪は背に流れ、青白い光を帯びて揺れる。
アクアブルーの瞳は氷湖の底を覗くように深く澄み、声を失った者の心すら映し返す。
ローザはドレスの裾を持ち上げ、ゆるやかに階段を降りた。
「……神が、歩いている」
誰かがそう呟いた。
それは侍女でもなく、兵士でもなく、ただのひとりの人間の民の祈りにも似た声だった。
謁見の間にて、マリヤが鋭い瞳でローザを見据える。
「……おまえ、どうした?」
長い沈黙の後に投げかけられた問いは、驚愕と、かすかな怯えを孕んでいた。
フェザーは微笑みながら囁く。
「ついに咲いたんだよ、氷の薔薇が」
ローザは静かに頭を垂れた。
「私はもう、幼き氷花ではありません。
……この国の涙も、血も、私が引き受ける」
その声は震えていた。だが、透き通る鐘の音のように謁見の間に響き、
その瞬間、誰もが――ローザが「神」として歩み始めることを悟った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます