第13話 森の戦火

 ざわめきは次第に大きくなり、松明の火が木々の隙間から揺らめいた。

 兵士たちの鎧がぶつかり合う金属音は、森に不吉な響きをもたらす。


「ローザ様を捕らえよ!」

 先頭に立つ男の声が、夜気を裂いた。



 ナジカは即座に剣を構えた。

「ローザ、下がれ!」

 冷たい青の刃が、松明の光を受けて閃く。


「でも……ナジカ、あなた一人じゃ!」

 ローザは声を震わせながらも、掌の光の花弁を強く握りしめる。

 その脈動は、彼女の心臓と同じ鼓動で響いていた。



 兵士の一人が槍を突き出した瞬間、ナジカは身を翻して刃を弾き飛ばす。

 剣と槍が火花を散らし、甲冑の隙間に鋭い蹴りを入れると、兵士は呻き声を上げて倒れた。


「まだ来るか……!」

 ナジカの額に汗が光る。



 その背後で、ローザの瞳が決意に燃えた。

 彼女は光の花弁を胸に押し当て、祈るように呟く。

「どうか……争いを止めて……!」


 すると花弁が眩い光を放ち、森全体に柔らかな輝きが広がった。

 兵士たちの動きが一瞬止まり、松明の炎までも揺らめきを失う。


「な、何だこれは……!」

 兵士たちは目を覆い、恐怖に後ずさった。



 ナジカは振り返り、ローザを見つめる。

「ローザ……おまえ、やっぱり――」


 だが言葉は最後まで続かなかった。

 森の奥から、さらに重い足音が響いてきたのだ。

 甲冑の音色は、さきほどの兵士とは明らかに違う。

 圧倒的な威圧感をまとった影が、松明の光の輪の中に姿を現した。


 漆黒の鎧に、紅い紋章を刻んだ将軍。

 その眼光は、氷のように冷たく、ローザを射抜いた。


「……ついに、見つけた」


 その声は森を震わせ、ローザの心臓を凍らせるようだった。

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