第13話 森の戦火
ざわめきは次第に大きくなり、松明の火が木々の隙間から揺らめいた。
兵士たちの鎧がぶつかり合う金属音は、森に不吉な響きをもたらす。
「ローザ様を捕らえよ!」
先頭に立つ男の声が、夜気を裂いた。
◇
ナジカは即座に剣を構えた。
「ローザ、下がれ!」
冷たい青の刃が、松明の光を受けて閃く。
「でも……ナジカ、あなた一人じゃ!」
ローザは声を震わせながらも、掌の光の花弁を強く握りしめる。
その脈動は、彼女の心臓と同じ鼓動で響いていた。
◇
兵士の一人が槍を突き出した瞬間、ナジカは身を翻して刃を弾き飛ばす。
剣と槍が火花を散らし、甲冑の隙間に鋭い蹴りを入れると、兵士は呻き声を上げて倒れた。
「まだ来るか……!」
ナジカの額に汗が光る。
◇
その背後で、ローザの瞳が決意に燃えた。
彼女は光の花弁を胸に押し当て、祈るように呟く。
「どうか……争いを止めて……!」
すると花弁が眩い光を放ち、森全体に柔らかな輝きが広がった。
兵士たちの動きが一瞬止まり、松明の炎までも揺らめきを失う。
「な、何だこれは……!」
兵士たちは目を覆い、恐怖に後ずさった。
◇
ナジカは振り返り、ローザを見つめる。
「ローザ……おまえ、やっぱり――」
だが言葉は最後まで続かなかった。
森の奥から、さらに重い足音が響いてきたのだ。
甲冑の音色は、さきほどの兵士とは明らかに違う。
圧倒的な威圧感をまとった影が、松明の光の輪の中に姿を現した。
漆黒の鎧に、紅い紋章を刻んだ将軍。
その眼光は、氷のように冷たく、ローザを射抜いた。
「……ついに、見つけた」
その声は森を震わせ、ローザの心臓を凍らせるようだった。
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