第12話 幻視の選択
泉に映し出された未来の幻影は、二人の胸を強く締めつけた。
血に染まった戦場の映像は、剣を持つナジカにとって現実の延長のように見えた。
一方で、祈る人々と光り輝く薔薇の映像は、ローザの心を熱く揺さぶった。
◇
「ローザ、目を逸らすな」
ナジカの声は低く鋭い。
「これは“もしも”じゃない。……俺たちが選ばなきゃならない道なんだ」
ローザは震える手を胸に当てる。
「でも、どうすれば……。私たちが選んでいいことなの?」
「おまえだろ、ローザ」
ナジカは真っ直ぐに言い切った。
「おまえが望む方を、俺は守る。たとえ戦場でも、祈りの場でもな」
その言葉に、ローザの瞳が潤んだ。
◇
泉の薔薇が、再び強い光を放つ。
そして――ローザの心の声に応えるように、彼女の手に光の花弁が降り積もった。
「これが……答え?」
彼女はそっとそれを握りしめた。
すると、幻影が変わる。
戦場に散った兵士たちの姿が消え、代わりに子どもたちの笑い声が広がる光景が映し出された。
荒野だった土地に薔薇が咲き誇り、民が歌をうたっている。
「……未来は、変えられる」
ローザの小さな声は、祈りのように震えていた。
◇
そのとき、森に冷たい風が吹き抜ける。
光の天使は静かに羽ばたき、やがて月に溶けるように姿を消した。
泉の水面も静けさを取り戻し、ただ星の光を映すばかり。
残されたのは、ローザの掌に輝く一片の白い花弁だけだった。
「ローザ」
ナジカがその肩に手を置く。
「もう迷うな。おまえの選んだ道を、俺が剣で守る」
ローザは涙をこぼしながら、強くうなずいた。
◇
――その瞬間、森の奥から不吉な金属音が響いた。
鎧を着た兵士の列が、松明の明かりとともに迫ってくる。
「追いつかれたか……!」
ナジカは剣を抜き、ローザを背に庇った。
ローザは掌の花弁を見つめる。
その光が、夜の闇を照らすように淡く脈打っていた。
(私は……もう逃げない)
幼い姿のまま、だが心は確かに大人として――ローザは覚悟を決めた。
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