第11話 森の目覚め
城を抜け出した二人は、ひたすら走り続けていた。
夜の森は冷たく、枝葉が顔を打ち、足元の土は柔らかく沈む。
だが、手を取り合う温もりが、互いを導いていた。
◇
「はぁ……はぁ……ここまで来れば、追手も……」
ナジカは肩で息をし、剣を杖のように突き立てる。
額には冷たい汗が流れていた。
ローザも同じく荒い呼吸をしながら、振り返る。
暗闇の奥に、人影も灯りも見えない。
「……いないみたい」
胸の奥に、ようやく安堵が広がった。
◇
森の奥へと進むうち、突然、ひときわ開けた場所に出た。
そこは月光が降りそそぐ小さな泉。
鏡のように澄んだ水面に、夜空と星々が映っている。
「きれい……」
ローザは思わず声を漏らす。
その泉の中央には、一輪の白い薔薇が浮かんでいた。
◇
ローザは泉のほとりにひざまずき、手を伸ばした。
しかし触れるより先に、薔薇は淡い光を放ち、花弁を揺らした。
まるで、彼女を待っていたかのように。
「……生きてる?」
ローザの青い瞳に、涙がにじむ。
その瞬間、光が広がり、森全体を照らした。
◇
「これは……」
ナジカが思わず息を呑む。
光の中に浮かび上がったのは、人の姿に似た“天使”だった。
透きとおる羽を背に、静かに彼らを見つめている。
「おまえ……俺たちを導こうとしてるのか?」
ナジカが低くつぶやく。
天使は答えない。ただ、泉の水面を指さす。
そこには未来を映すように、揺らめく幻影が浮かんでいた。
◇
「ナジカ、見て……」
ローザがその光景に目を奪われる。
そこには血煙に包まれた戦場、そして倒れる兵士たちの姿があった。
だが同時に、薔薇に祈りを捧げる民衆の姿も重なっている。
「……選べってことか」
ナジカの声が重く響く。
「戦いの道か、それとも祈りの道か」
ローザは強く唇を結び、泉を見つめた。
その瞳には恐怖ではなく、新しい決意が宿っていた。
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