第10話 追走と誓い
廊下を駆け抜ける二人の足音が、石壁に反響した。
夜風が差し込む窓から、月が顔をのぞかせている。
しかし、その静けさを切り裂くように――警鐘の音が城内に鳴り響いた。
「逃亡者だ! 王女を捕らえろ!」
兵士たちの叫びが重なり合う。
無数の足音が近づき、松明の赤が迫ってきた。
◇
「ローザ、走れ!」
ナジカが振り返りざま、剣を抜き放つ。
鋭い光が夜気を裂き、迫り来る兵士たちを牽制した。
「でも、ナジカ……」
「俺は戦える。だがおまえは逃げろ。ここを抜けたら、森へ向かえ!」
その声は厳しく、けれど震えるほどの愛情が込められていた。
◇
ローザは立ち止まって首を振る。
「いや……一人でなんて、行けない!」
十四歳の姿のまま、百年以上を過ごした彼女の声は、今や本当の大人のもののように強かった。
「私はあなたと一緒に生きるの。だから……戦うのも一緒に」
涙を浮かべながら告げるその言葉に、ナジカの瞳が一瞬揺れる。
だが次の瞬間、彼は深くうなずいた。
◇
「分かった。なら誓え。どんな絶望が待っていても、俺の隣にいると」
「誓うわ」
ローザは小さな手を差し出す。
ナジカはその手を強く握り返し、額を重ねた。
「なら、俺たちは負けない」
◇
再び兵士たちが押し寄せる。
二人は手を取り合ったまま、影のように駆け出した。
月光が二人を照らし、背後では鐘の音が鳴り止まぬ。
それでも、ローザの胸には確かな光が灯っていた。
それは“恐怖”ではなく、“共に生きる”という揺るぎない誓いの炎だった。
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