第10話 追走と誓い

廊下を駆け抜ける二人の足音が、石壁に反響した。

 夜風が差し込む窓から、月が顔をのぞかせている。

 しかし、その静けさを切り裂くように――警鐘の音が城内に鳴り響いた。


「逃亡者だ! 王女を捕らえろ!」


 兵士たちの叫びが重なり合う。

 無数の足音が近づき、松明の赤が迫ってきた。



「ローザ、走れ!」

 ナジカが振り返りざま、剣を抜き放つ。

 鋭い光が夜気を裂き、迫り来る兵士たちを牽制した。


「でも、ナジカ……」

「俺は戦える。だがおまえは逃げろ。ここを抜けたら、森へ向かえ!」


 その声は厳しく、けれど震えるほどの愛情が込められていた。



 ローザは立ち止まって首を振る。

「いや……一人でなんて、行けない!」

 十四歳の姿のまま、百年以上を過ごした彼女の声は、今や本当の大人のもののように強かった。


「私はあなたと一緒に生きるの。だから……戦うのも一緒に」


 涙を浮かべながら告げるその言葉に、ナジカの瞳が一瞬揺れる。

 だが次の瞬間、彼は深くうなずいた。



「分かった。なら誓え。どんな絶望が待っていても、俺の隣にいると」


「誓うわ」

 ローザは小さな手を差し出す。

 ナジカはその手を強く握り返し、額を重ねた。


「なら、俺たちは負けない」



 再び兵士たちが押し寄せる。

 二人は手を取り合ったまま、影のように駆け出した。

 月光が二人を照らし、背後では鐘の音が鳴り止まぬ。


 それでも、ローザの胸には確かな光が灯っていた。

 それは“恐怖”ではなく、“共に生きる”という揺るぎない誓いの炎だった。

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