第4話 ボールペンの向こう側

アキヒコは「担当の者から預かってました。これですよね?」と自身が貼った付箋を外しながら悠太に見せる。


「それです!よかった~!本当にありがとうございます!」と悠太は安堵したように顔をくしゃくしゃにして言う。

深々とお礼する姿に今どきしっかりした子だなとアキヒコは思った。


「綺麗なボールペンですよね、こちらこそお返しできて良かったです。でも、ボールペンをご持参されるのって珍しいですよ。お若いのに」

とアキヒコはボールペンを悠太に渡しながら、青年とのミスマッチから少し本音を見せる。


だいたい不動産会社は顧客ブースにボールペンはたくさん常備しているし、稀に契約時に自身のボールペンを持参する客はいるが、あまり多くはない。


「あ、こればあちゃんのなんです。家探しも結構急で、何持って行っていいかもわからなくて、目の前のこれ持ってきちゃったんです。でも今日ほかに色々まわってたら気付いたときには無くって・・ホント助かりました」と悠太はまた深々とお辞儀した。


その様子では留守番電話のメッセージは届いていなかったようだ。

「そうでしたか。おばあ様の物なら尚更早くお返しできて良かったです。ところで、ほかにいい物件はおありで?」

アキヒコここでふと営業モードに切り替えてみた。


あー・・・と悠太は苦笑いして言い出しにくそうにする。

これはもう別で契約済みかなとアキヒコもあまり突っ込むまいかと思ったとき、

「実は1日中まわったけど結局どうしようか決めかねてて。優柔不断なんですよね。一人暮らしも初めてなのに。」とため息交じりで話し出す悠太。

すると営業モードのアキヒコも弟気質でなにか世話を焼きたくなる雰囲気の悠太に興味が沸いた。


「たしかに、どうしてこの時期に?新卒の方と担当から聞いてましたが、もうお仕事は始まってますよね?」と矢継ぎ早に質問する。


悠太は再び堰を切ったように話し出す。

「はい、仕事はもう始まってて・・忙しくて。でも1か月前にばあちゃんが足を怪我したんですよ。それで自分の家に急遽引っ越してきたんですよね。あ、別にそれは全然・・嬉しいくらいなんですけど。」











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