第3話 独りの夜と自動ドア
アキヒコは1人、また1人と定時退社する社員を見送りながら、長引いた定例会議の議事録を作成していた。
新生活ラッシュが過ぎ、多少余裕のある時期だ。
顧客ブースの側の電気を落とし、「お先に失礼します!施錠お願いしまーす!」というカオルの声に、パソコンに目を向けたまま「わかったよ。お疲れさまー。」と返事をした。
カタカタというキーボードの音が響くなか、ふと壁際の時計に目をやると、19時20分を過ぎている。
さて、仕上げだ。と再びパソコンに集中しようとしたとき、
コンコン・・・
どこかで音がする。
・・・聞き間違いか?と思う間もなく再び
コンコンコン・・・
今度ははっきりと入り口の自動ドアのあたりから聞こえた音に、アキヒコはハッと体を向けた。
自動ドアに貼ってある店舗名のステッカー越しに人が立っている?
アキヒコは少し身を乗り出して自動ドアをよく見ると、ステッカーの文字と文字の間から顔が見えた。
そしてその顔とすぐに目が合った。
相手も少々びっくりした様な顔で軽く会釈をしている。
気づいてしまってはしょうがない。
アキヒコは入り口まで小走りに駆け寄った。
自動ドアは電源が切ってあるが施錠はまだだったので、指をかけて少しだけ
開ける。
170センチ後半くらいのスラっとした青年で、髪の毛が天然パーマなのかクルクルしている。ただ、サイドは短くカットしていて今時な感じだ。
「あの、申し訳ありませんが、営業時間外・・」とアキヒコがいうと同時に青年は「遅くにすみません!自分、ボールペン忘れてませんか?」と焦った様子で尋ねてきた。
アキヒコはその一言ですべてを悟り「ああ!お忘れ物ですね!」と言いながら自動ドアをもう少し開き、青年を招き入れた。
「ちょっと待ってくださいね」とアキヒコは自身のデスクに戻り、カオルから預かったボールペンを取り出す。
「念のためお名前お伺いできますか?」と尋ねると
「飯塚悠太といいます。今朝ここでお世話になりました」と悠太は丁寧に応えた。
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