第2話 まだ見ぬ君へ

アキヒコは受話器を置くともう一度ハーバリウムのボールペンを眺めた。

 

ヤマト不動産に勤めて8年になる。

新卒で入社したのは別の不動産会社だった。

学生時代からサッカー漬けだったアキヒコは体力には自信があったが、所謂ブラック企業というやつだ。

 「お前なんかより、俺の小学生の息子に任せたほうがマシだ!」という当時の上司の言葉は未だ脳裏に焼き付いて離れない。


2年目までは気力で乗り切ったアキヒコも連日のサービス残業と上司の罵声は心も体も蝕んだ。


退職がスムースだったのは救いだった。

2か月ほど休養したころ、今のヤマト不動産に転職していた元先輩から声がかかった。

同じ業界に再就職するのは気が引けたが、唯一信頼のおける先輩のもとでならと決意して今に至る。

まあ、その先輩も再び転職してしまったわけだが。

この業界、こういうことはよくある。


「新卒かあ・・・」想像の飯塚悠太を勝手に作り上げ、自身の職歴と重ね合わせた。

アキヒコは預かったボールペンに『忘れ物 飯塚悠太様』という付箋をつけてデスクの引き出しにしまった。








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