第11話
どうも村人です。
さて本日は最果ての町シツラークに来ております。最果ての町の名の通り、この町は人間の町の中では一番北に位置する街になっています。
この町は人間が住むことを度外視して魔族との決戦の拠点として最適化された作りになっており、関所、見張り台、堀と平で見晴らしのいい場所を揃えた結果。寝床がなくなってみんなそこら辺で寝ています。
そしてこの町でも勇者一行に会いました。
本日の顔ぶれは
勇者
賢者
僧侶
武士の女性
旅人
軽戦士
騎士の男性でした。
前回から男近衛兵と女近衛兵がいなくなっています。やはり男近衛兵はあの怪我で旅の続行が不可能になったのでしょうか。
まさか、女近衛兵が裏切るとは。彼女はもともと近衛兵の時点で裏切るために潜入していた様です。それほどすごい胆力を持った相手でしたがなんとか勇者を守れたのはひとえに男近衛兵の犠牲があってのものでしょうか。あれからの彼の動向は全くわかっていません。勇者一行から外れたものなど周りからの興味はゼロに等しいのです。
ということで今日も勇者一行とばったり会おうのコーナーでございます。
まず最初に会ったのは賢者さんと軽戦士くんと女武士さんでした。
町の北側の見張り台に登った時にいました。
「あ、村人さんだ」
「これは村人殿」
「あ、村人くんじゃない、あのね実は…」
まずいと思ったのですがその時にはもう賢者さんは話し始めていました。会話スキップ封じという無駄に高度な戦いになっています。
彼女の話の内容を要約すると、近衛兵コンビがいなくなったせいで少し不安な場面も増えたけど魔王軍の四天王を三人倒してあと一人のところまで追い詰めたよ。あと一人とももうすぐ決戦のときだよ、との事でした。
「いつの間に結構進んでるんですね」
「いつの間にっていうか、一応勇者さんが旅を始めてから二年近く経ってるんだけどね」
軽戦士くんが久方振りに口を開きました。
「私たちもより一層気を引き締めないとですね」
武士さんがしみじみ言いました。
「そうですね、私たちは数多くの命を失ってしまいました。そんな彼ら彼女らの犠牲は絶対に無駄には出来ません」
賢者さんが久方ぶりに賢者っぽいことを言いました。
「そういえば私のいた村も襲われていたところ勇者さん達に助けてもらったのでしたっけ」
女武士さんがしみじみ言いました。なら俺の村も助けて欲しかったのですが。まぁ、それも過ぎたことです、と言って切り捨てる程の度量は俺には無いのですが。
「そうですね、それももうそんなに前なのですか」
「ちょっとお二人とも、まだ何も終わってないんですから」
軽戦士くんが諌めるように言いました。
「あら、そうでしたね」
「でも、実際勝てるんですか?」
敢えて踏み込んだことを聞いてみました。気がたっていたのかもしれません。
「私たちは勝ちますよ」
武士さんは自信満々にいいました。
「私もそう言いたいところですが、このままだと少し負ける可能性があるのも事実です」
「あれ、どうしてですか?」
軽戦士くんが聞きました。
「私たちは武闘家さんに、近衛兵二人と三人も立て続けに前衛を失っています。残りは勇者さんと騎士さんとここにいる軽戦士くん武士さんの四人ですが、魔王は一筋縄ではいかない相手と仮定してローテーションで戦うことを考えると、前衛は五人は
いた方が無難だと思うのです」
「先の四天王戦でも苦戦する場面が多かったですから」賢者さんの説明に武士さんが補足します。
「要は苦労されてるんですね」
こうして俺は三人と別れて歩き出したのでした。
次に勇者一行と会ったのはシツラークの町の真ん中である数少ない安全地帯でありました。
そこには僧侶さんと旅人と騎士さんがいました。
「おお、村人くんじゃん」
「あ、三人揃ってどうしたんですか」
「いつからここ三人でユニットになったんですかね」
「実は今少しだけ休憩しててね」
「本来なら酒でも飲みたいのだがさすがに自重している」
「まぁ俺はもともと酒飲まないですけどね」
「にしても、そういえば旅人くんって勇者の度が始まった直後はまだ年齢的に酒が飲めなかったんだっけ」騎士さんが思い出したように言いました。
「そうすると、15で旅人になってる俺の人生が心配されるんであまり言わないで欲しいんですけど」
「というか、村人くんもこの間ずっと家が無かったってこと?」
「旅人の称号あげようかな」
「いや、大丈夫です」
騎士さんと旅人は中々に痛いところをついてきました。実際、もう家探しの旅ということにしておくにはしんどくなってきています。
「これからどうするんだ?」
無口で無表情な僧侶さんにしては珍しく露骨に疑問符をうかべた質問をしました。
「どうするんですかね」
「分かんなきゃダメじゃない?」
「まぁそういう日もあるよね」
旅人がフォローなのかよくわからないことを言いました。
勇者の旅が終わったら俺は何をしているのでしょうか。俺も旅を続けてきて果たして自分が何をしたいのか、見つかるどころか遠のいていった気がします。勇者達は魔王を倒せば英雄になれますが俺は無駄に二年近くを過しただけになります。果たして自分はそれに耐えられるのでしょうか。やりたいことは一向に見つからないままいたずらに時間だけがすぎていきます。やはり何もしないには人生はあまりにも長すぎます。
「とりあえず、足掻いてみようと思います」
「俺みたいなこと言うね」
旅人がだからなんなんだとしか言いようのない感想を言いました。
「まぁ…なら頑張ってね。それじゃ、そろそろ戻らないと」
騎士さんが名残惜しそうに言いました。
「あー、そういや敵地ですもんねここ。早く平和にならねーかな」
「全くだ」
こうして三人と別れようとした時でした。この町の兵士さんが駆け寄ってきたのです。
「どうしたのだね、息も絶え絶えのようだが」
騎士さんが困惑気味に聞きました。
「し、四天王が攻めてきたんです!!今は勇者さん達が対処してます!!!早く来てください!!!」
その言葉に皆の顔が引き締まります。
「分かった、すぐにいこう」
全員の声が重なりました。
「いや、全員返事したけど村人くんも来るんだね」
「一応足は引っ張らない自信はあるので」
騎士さんの質問に答えました。
「で、状況は?」
「敵方の四天王は悪魔かオーガのどちらかで向こうは200で攻めてきて此方は400。損害は向こうが95。こちらは30です。」
旅人の質問に伝令役の兵が答えました。
「現在は勝っているが、まだ先遣隊しかきておらず、四天王はまだ遠くにいる状態。四天王本人が来たら恐らく大分苦しい戦いになるだろう」
僧侶さんが冷静に分析しました。
「仰る通りで、現在は勇者さん達が町の外に出て対処しています」
そもそも外敵と安全に戦うためのこの町なのに、それが通用しないのが四天王の恐ろしさでそれを抑えなければいけないのが勇者の宿命なのです。
と、そんなことを考えていると既に彼らは町の外に言って戦っていました。
やはり勇者一行は自覚が違うな、なんてことを思いながら町の外を見た俺は血相を変えることとなっていました。
ほぼ全員がオーガの方に向かっているのです。ですが四天王は悪魔の方です。何故それを俺が知っているのかというと、あの悪魔に故郷を滅ぼされたからです。
このままでは四天王が町に到着して勇者抜きで四天王と戦うことになってしまいます。そうなると勝つのは難しいでしょう。ならば俺に出来ることは足止めでしょうか。普段から命は惜しい方だと思っていたのですが不思議と足はよく動きました。これを歪んだ英雄願望とでも言うのでしょうか。
さて、ということで四天王の所まで迎えに来ました。作戦はなし。ということで戦闘開始です。
四天王の悪魔はこちらに気づくと先手必勝と言わんばかりに火球を放ってきました。これをこちらはすんでのところでかわします。ですが、こちらが間合いを詰めようとしても向こうは魔法を打ち続けているので睨み合いをする程度が限度です。しかし、こちらは倒す必要はありません。勇者がこちらに来るまで生き残ればいいのです。
とは言ったもののこのままなら時間は稼げるかもしれないですが周りには他の魔物もいるし四天王側も時間稼ぎに気づいて短期決戦をしかけに来たら勝てません。
そんなことを思ったそばから悪魔がこちらを無視して町の方へ走っていきました。俺はすぐさま後を追います。昔から足は早かった方でした。あの時も皆が戦ってる中俺だけ逃げたんです。この前、四天王の一人が攻めて来た時も勇者一行が戦っているのを尻目に俺は自分の方に来た魔物だけを切って逃げたんです。今戦っても彼ら彼女らは戻ってこないしあの町の人達なら僅かな犠牲、もしかしたら犠牲すら出さずに抑え込めるとも思います。結局過去から目を背けるための自己満足に過ぎないのでしょう。しかし、やるからには殺るのです。その気概で俺は剣で悪魔を切りに行きました。悪魔は少しだけ身体をそらしてかわします。そして悪魔はこちらを振り向くと火球を放って来ました。それを俺はなんとかかわします。
「ほぅ、思ったよりはやるではないか。これは侮っていたな…」
そういうと悪魔は何かを唱え始めました。咄嗟に身構えると空から雷が落ちてきました。何を言ってるのかよく分からないと思いますが俺もよくわかっていません。ただ一つ思うのがこの世界が雷の直撃ギリギリ耐えられる位に成長できる世界でよかったということです。しかし、流石に雷が無傷になる経験の積み方はしてないし出来たら怖いのでかなり食らってます。正直意識も飛びかけています。やはり、一人で行くのは無茶がすぎたのでしょうか。
「無茶というかなんというか、ここまで来たらむしろカッコイイぞ」
声がした方を向くとそこには騎士さんがいました。
「最初カッコイイ登場の仕方したから俺もやってみた」
「あ、騎士さん、オーガの方は」
「なんかあのオーガ、意外となんとかなりそうだから抜けてきた」
「それは分かりましたけど…これどうするんですか」
「しらね、ま、なんとかなるでしょ」
騎士さんはそういうと悪魔の方へ左から斬りかかりに行きました。
悪魔はそれをまた身体をそらしてかわしますが今度は俺が右から斬りかかり、それが当たりました。
しかし、さすが四天王と言うべきか剣で切られたのに全く効いた様子がありません。
「まさか、剣で切りつけられたのにほぼ無傷だとは、あれは正しく化け物ですね」
「いや、雷打たれて致命傷で済んでるのも相当化け物だと思うよ」
悪魔は体勢を立て直すと詠唱を始めました。
「今のうちに切り込むぞ」
騎士さんと呼吸を合わせて切りにかかりますが、さすが四天王、全く間に合わずに火炎が地面から生えてきました。こちらが火に巻かれそうになった時、強めの風が吹いて火を消し飛ばしました。 そちらの方向を向くとそこには僧侶さんがどっしりと構えていました。
「雷だったら助けられなかったぞ」
「つまり俺らは神様に見放されてないって訳だな」
「にしてもなんで来たんですか?」
「実は勇者が一人で何とかするから他の人達はこっちのフォローに回れと」
なんと勇者はオーガと死闘を繰り広げている間にちゃっかりこちらも見ていたということなのです。
騎士さんは再び悪魔に斬りかかりました。それを悪魔が弾きますが、さらに後ろから俺が斬りかかります。疲れてくると僧侶さんが回復の魔法を打ってそれをごまかします。
しかし、悪魔は今度は雷の魔法を打ってきました。
そういえば悪魔もこちらの言葉は分かってるので雷だったら防げないという言葉を聞いていたのでしょう。流石に駄目かと思っていた時。
「これぐらいなら、死んだ魔法使いの方が余裕で強かったですよ」
賢者さんが雷を落として対消滅させたのです。
俺と騎士さんは三度斬りかかります。しかし、ここまででそれなりに時間がかかっています。気づけばその間に出てきた魔物達に囲まれていました。
「こちらが言えることでもありませんが、勝負に水を差すことは止めさせていただきます」
「僕のことも忘れないでくださいね!!」
武士さんと軽戦士くんが周りの敵を一掃してくれています。
しかし、悪魔相手に二人しか切りかかる人がいないと対処されてしまいます。せめてもう一人いれば。
そんなことを考えていると悪魔がこちらに向かって火球を放ってきます。こちらの身長を優に超えてきそうな大きさです。
「流石にこれは風邪で散らすのは無理だ」
「これを相殺するのはあの魔法使いぐらいです!」
こちら側の魔法陣営もお手上げのようです。
こちらは雷の分のダメージもあります。まともに食らうとかなり厳しいでしょう。しかし、それが届くことはありませんでした。
なんと勇者が火球を剣で防いだのです。
「剣で火を防ぐって、勇者は化け物なんですか?」
「だから、雷を生身で食らって立ってられた人が言うべきじゃないと思うよ」
勇者は魔法を防ぐとそのまま斬りかかっていきました。
悪魔は魔法の反動か避けることが出来ず、まともに食らってしまいます。勇者は火力まで一級品だったようで悪魔に深い傷を追わせています。
今だ、と思って駆け出しました。無我夢中で悪魔に剣を突き刺しました。悪魔は言葉にならない声をあげると、パタリと倒れました。
悪魔に打ち勝ったのです。
「やった…」
思わず声に出ていました。
「あれ、みんな凄いじゃん」
「遅いですよ、旅人殿」
「え、まじで!これ倒したの!」
「そうですよ」
賢者さんが肯定しました。
「うおお!!まじ!!!やったやん!!!あと魔王だけ!?」
この旅人の言葉が町の方にも聞こえたらしくこの後はどんちゃん騒ぎになりました。
「そういえばまともに話してなかったよね」
勇者さんが言いました。宴も終わり、夜もふけた町の外のことです。今日だけは門番も騒いだために勇者が代わりに守っているのです。
「そうでしたね」
「もしあれなら、うちの旅、ついてくる?」
「いいんですか?」
「あと、魔王だけだけどね、いないよりはマシでしょ」
「なら、是非」
俺は腕を差し出しました。勇者は逡巡の末、その手を取るのでした。
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