第10話

どうも、皆さん村人Aです。

本日も勇者一行に出会いました。

すっかり追いかけになっていますが一応家探しという当初の目的は続いているつもりです。

ということで今回は今まで北東、つまり魔王城のある方角に向かっていたのを敢えて西に行ってみたのですが勇者一行に出会いました。最早神様公認の追っかけなのかも知れません。

ということで今回は温泉街ユノーカンに来ております。

...先に言っておきますが勇者一行とは会いますが温泉では誰ともあっていません。

そして本日の顔ぶれは

勇者

賢者

僧侶

武士の女性

旅人

軽戦士

ピンク髪の女性の近衛兵

黒髪の男性の近衛兵

騎士の男性でした。

前回離脱した二名以外は誰も欠けていないようです。まぁ、実は前回会った時から二週間ほどしか経っていないというのもあるとは思いますが。

ここ二週間の間で勇者御一行はますます遠くへ行きました。なんと四天王を倒してついでに世界を救ったそうです。…どうしてついでに世界が救われたのか、というか世界が救われるのがついでなのかは分からないです。人伝に聞いただけなので話半分に聞いておいてください。


街についてから、まず最初に行ったのは酒場でした。そこには僧侶さんと旅人さんがいました。

こちらに気づくと僧侶さんは言いました。

「すまない、酒を3つくれ」

「ちょっと!?僕飲めないんですって!」

「この世界は16から飲める、問題ない」

「そうじゃなくて!普通に飲めないんですって!!」

「あ、俺も遠慮したいんですけど」

「なんだ、村人もか。じゃあ、一つだけ」

僧侶さんはそう言ってお酒を頼むと俺に向き直って言いました。

「あれからなんとかやれているが彼奴がいないと苦しい場面もやはり多い」

「…そうなんですか」

「前衛としてあの男より秀でているもので人間に見方をするものはいない」

「まあ、魔法とかは使えないので別ですけどね」

普段あまり話すイメージのない僧侶さんの断言するような言葉は妙に思い響きがありました。

「でも、そんな強かったらやっぱ抜けたあと大変なんですか?」

「そうだね、特に勇者さん、今はあまり人を加えたくない季節らしくて」

「なるほど、大変なんですね」

「そうなんですよ。ところで村人さんって何ランクなんです?」

「何、とは?」

「いや、あの、冒険者の…ギルドの…」

「入ってないです、村にいた時は親の農業を手伝ってたので」

「あ、そうなんだ!それは申し訳ない」

「しかし、中々強そうだと思ったのだが」

「まぁ、新居を探しに来てますから」

「はぁ…。五割ぐらいわかりました」

「それは良かった」

「ところで、そういえば勇者とはあまり話してるとこ見た事ないんですけど」

「そういえばそうですね」

勇者一行と言うぐらいなのですから通常は勇者と会う人が多いのでしょう。しかし、俺は勇者一行に特段会いたいわけではないので、というか勇者に集まる人が多いからか中々会う時がないのです。

「あれだし、今度紹介する?」

「迷惑だろ」

僧侶さんがキッパリと言ってくれました。

「あー、確かにそれもそうだね。いやー、ごめんねー」

軽薄な調子で旅人がいいました。

「じゃあ、村人くんってこれからどこ行くの?」

「まぁ、できる限り色々まわりたいんですけど今の所、ポートタウンに住もうかなって」

「あー、にしては結構北に来たね」

「取り敢えず一通りみておこうと思って」

「ふーん」

どこか興味のなさそうな調子で旅人が言いました。

「まぁ、これからも頑張ろうってことですよ」

旅人さんの台詞は何処か歯切れが悪く感じました。

「それではそろそろ解散するか」

「あー、そうですね」

「ではお二人とも、また会いましょうか」

そうして俺は酒場を後にするのでした。


次に行ったのは街の外れにある丘でした。

「あら、ごきげんよう」

意味もなく丘から黄昏ていた、昼下がり。背後から賢者さんに声をかけられました。軽戦士くんも一緒です。

「こんにちは」

「あ、村人さんじゃないですか」

「そうみたいですわね」

「これは、勇者一行の賢者さんたちじゃないですか。どうしたんですか?」

「何を守ってるのかを見に来たんですよ」

「格好いい理由ですね」

「なんだかカッコつけたみたいになっちゃっいましたね」

軽戦士くんが照れくさそうに言いました。

「私はですね、実はここに至るまでに…」

「深いわけがあったんですね」

「そうなんです、話せば長くなるんですが」

「長くなるなら大丈夫ですよ」

「あらやだ、私ったらまた話しすぎちゃうところでしたね」

賢者さんは大して表情も変えずに言いました。

「そういえば、貴方は南の方の村の出身だったのよね?」

「そうですね、今はもうないんですけど」

「なるほど、実は勇者さんも南の方の村出身らしいのですよね」

「へー、そうなんですか」

「だから一回ぐらい勇者さんと会っててもおかしくは無いかなって」

「でも、勇者って俺の村の出身じゃないですよ、確か」

「まあ、自分の村に勇者がいたら普通は記憶に残るもんね」

軽戦士くんを同意を示しました。

「ええ、ですが勇者さんは今よりさらに小さい頃に南部の村をいくつか訪れていたことがあったそうなんです」

「へぇ、それまたなんでなんですか」

聞いてからマズいと思いました。賢者さんの長話を警戒したからです。

「それが、分からないんですよね。」

「珍しいですね。割と何でも知ってそうだったのに」

「私は知らないことだらけよ。それに今回は裏切り者についても全くわからないですし」

「賢者さん!!」 軽戦士くんが咎めるような口調で言いました。

「多分この下り、前回辺りに二回はやってるわよ」

「このパーティ機密事項とか大丈夫なんですかね…」軽戦士くんが遠い目をしながら言いました。

「なんだかんだ何とかなるわよ」

「裏切り者騒動が起きてるのに大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ、心配なんてさせませんから」

そういうと賢者さんはウインクをしてみせました。

「ならいいですけど…」

「む、さては疑ってますね?」

「ええ、まぁ正直」

「ガーン。そんなー…ショックですよー。」

「じゃあ、そろそろ行きますよ、賢者さん」

系戦士くんがいいました。

「あら、そうですか。それではまた会いましょうね」

そういって二人は去っていきました。

賢者さん。最初会った時は話が長いというイメージがありましたが、ただ話が好きなだけなのかもしれませんね。やはり生まれついて特別扱いされてきたらしいので話の会う相手が少なかったということでしょうか。


次に勇者一行と会ったのは闘技場でした。ユノーカンの街は魔王城が近いこともあってか熟練の戦士たちが集うことが多く、ここで汗を流してから温泉に入るというルートが定番になっているのです。

ここには、騎士さんと女武士さんがいました。

「おやおや、村人くんじゃないか」

「これは、村人殿」

「こんにちは、お二人とも、なにをしているんですか?」

「今からかるく模擬試合をしようと思っておりまして」

「勇者のネームバリューがあるから集客に向いてるんですよね」

「ちょっと!そういうことは言わないし考えないべきでしょう!!」

武士さんが急いで弁明しようとしました。

「とりあえず戦うから見ててくれない?」

「はい、わかりました」


ということで武士さんと騎士さんのエキシビションマッチが突如として始まりました。

実況は私、村人がお送りいたします。

武士さんは長めの片手剣、いわゆる刀というやつでしょうか。騎士さんは重そうな両手剣を持っています。

まず最初に仕掛けたのは武士さんでした。騎士さんに向かって真っ直ぐに切り込みます。

それを騎士さんが両手剣で受け止めます。

武士さんは続けざまに切りつけようとしますが騎士さんは剣の大きさを活かしてあまり動かさずに受け止めます。

騎士さんも負けておらず斜めに切りにいきます。

それを見た武士さんがカウンターで切りにいきます。騎士さんはそれをバックステップして避けると体勢を立て直します。

しかし、その隙に武士さんが距離を詰め切りにかかりました。


「…降参で」

騎士さんが降参したことにより武士さんの勝ちになりました。

「お二人とも強かったですね」

「…なんか文面にした時に弱そうに見えるなとか思ってない?」

「いえいえ地味だなんて微塵も」

「まあいいや、それで、村人くんもやる?」

「いや、俺はいいですよ」

「ちゃんと木刀だよ?」

「いや、そういう問題じゃないですよ」

「そうですか、私も一度手合わせしてみたかったのですが…」

どうやら騎士さんだけではなく武士さんも手合わせしたかったようです。

「いや、俺死んじゃいますって」

「そうか、まぁ、また次会った日に戦うか」

騎士さんはそう言いながら歩きだそうとしました。

「次会うことも、戦うことも確定してないですけどね」

「私たちはまだ旅を続けますし、村人殿も旅を続けるだろうから会いますよ」

武士さんが自信ありげに言いました。

「いや、北に行くとも言ってないですけど」

「いや、ここまで勇者一行と会ってるのにここに来て最後まで会わなかったら詐欺だろ」

「詐欺は言い過ぎだと思いますが概ね同意します」

「あれ、そんなになんだ」

と、そんなこんなでお二人とも別れを告げた俺はまた、歩き出したのでした。


と、いかにも別の場所に行ったみたいな書き方をしたし、実際別の場所に行ったのですが次に勇者一行と会ったのはやっぱり闘技場でした。決して彼らが血の気の多い集団という訳では無いのですがそういうこともあるのでしょう。

そしてそこには男近衛兵と女近衛兵と勇者の三名がいました。

「お、人だ」

「いや、みんな人ですよ」

「いま、うちの近衛兵と勇者が戦ってるんだけど見る?」

「あなたも近衛兵ですよね」

「なんかアイツがよく近衛兵失格ってうるさいからな」

「とりあえず試合はみますけど」


ということで始まりました。第二試合。女近衛兵さんと勇者の戦いでございます。

女近衛兵さんが早速斬りかかりますが、あっと、早くも勇者のカウンターで突いた木刀がクリーンヒットしました。そして、女近衛兵は地面に崩れ落ちました。早すぎます。思い出そうとしてもこれが限界でした。文字数を考えてください。


ということで早くも勝負が終わり勇者が崩れ落ちた女近衛兵さんに手を伸ばしました。

しかし、勇者は突然手を引っ込めました。何事かと俺を含めた何人かが様子を見ようとしました。男近衛兵さんに至っては闘技場の舞台に入っていました。そこには、何処に隠し持っていたのか短剣を持っている女近衛兵がいました。突然のことにみんな石化の魔法を打たれたかのようになりました。

そして当の女近衛兵は何やら口ずさんでいます。それが爆発の呪文であることには気づきましたが咄嗟のことで自分の身を守るのが精一杯でした。

猛烈に吹き寄せる爆風を必死にやりすごした後に見たのはやはり惨状でした。しかし、予想していたよりも被害が少ないようにも思えます。その答えは目を開けた先にありました。女近衛兵と野次馬の間に男近衛兵が立っていたのです。

「まったく…お前が正義を語るなって言っただろうが…」

どうやら彼は左腕がちぎれかけています。彼は左利きなので利き手が失われかけているようです。また、全身が焦げています。

腕の傷は色々面倒くさい条件がありますが魔法で簡単に治るようなものでは無いでしょう。

「すまない、迷惑をかけた」

勇者はいちはやく正気に戻り、有無を言わさずに女近衛兵を切り捨てました。

「本当は俺がやるべきだったな…。わざわざ命を張ってまで庇わせてしまった…。」

男近衛兵も彼なりの矜恃があったのでしょう。

そして勇者の新念も少なくとも今は本物であると言えるのでしょう。

あの時、何もできなかった自分が悔やまれますが悩んでいても仕方ありません。前向きなことだけが自分の取り柄だとして前に進みましょう。


こうして、勇者一行最大の事件となった女近衛兵の裏切りは、死者7名、魔法で治せない傷を負った重傷者は男近衛兵を含む26名、負傷者は勇者を含む43名となりました。

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